はじめに
中小企業の経営者にとって、「どのように税負担を軽減してキャッシュを確保するか」は常に重要なテーマです。法人税や地方税、消費税の負担をうまくコントロールしながら、事業投資や従業員への還元にまわすことで、企業競争力を高めることができます。
そこで本記事では、中小企業が知っておくべき優遇税制ベスト10を「逆ランキング形式」でご紹介します。意外にも研究開発税制が10位からのスタート! それぞれの制度のメリット・注意点・活用のポイントを詳しく解説していきますので、自社に合った節税策を見極める参考にしてみてください。
第10位:研究開発税制
10-1. 研究開発税制とは
研究開発税制は、自社で行う研究開発に関わる費用(試験研究費)の一部を法人税額から直接控除できる制度です。新製品や新技術の開発を行う企業を税制面で支援するのが目的で、複数の類型が存在します。
10-2. 中小企業技術基盤強化税制
中小企業向けの優遇措置として、中小企業技術基盤強化税制があります。研究開発費の一定割合(12%〜17%)を直接法人税から控除でき、法人税額の25%を上限とします。
メリット
- イノベーション創出のための費用負担を軽減できる
- 製造業やITサービス業など、大きな研究開発コストがかかる企業ほど恩恵が大きい
注意点
- 研究開発費として認められる範囲の判断がやや難しく、税理士など専門家への確認が必要
- 税制改正で控除率・要件が変わる場合がある
第9位:賃上げ促進税制
9-1. 賃上げ促進税制とは
従業員の給与支給総額を増やした中小企業に対し、その増加額の一部を法人税から直接控除する制度です。賃上げによる人件費の増加負担を減らすと同時に、所得向上を通じた経済の好循環を狙っています。
9-2. 主な適用要件と控除率
- 前年度比で給与支給額が1.5%以上増加:増加分の15%を控除
- 前年度比で給与支給額が2.5%以上増加:増加分の30%を控除
さらに、教育訓練費の増加要件や“くるみん”認定などを満たすと、最大で**増加分の45%**が控除対象となります。
ただし、控除額は法人税額の20%が上限です。
メリット
- 賃上げと節税を同時に実現でき、従業員満足度アップにもつながる
- 企業のイメージ向上(採用面でもアピールしやすい)
注意点
- 赤字の場合、当年度は控除が使えないが、2023年改正から5年間の繰越が可能に
- 継続的な賃金アップが見込めるか、計画的な資金繰りが必要
第8位:中小企業経営強化税制
8-1. 概要
生産性向上や収益力強化につながる設備投資を行う場合、即時償却または税額控除のどちらかを選択できる制度です。
ただし、経営力向上計画をあらかじめ策定し、国・自治体から認定を受けることが必要となります。
8-2. 優遇内容
- 即時償却:取得価額の全額を初年度に経費計上
- 税額控除:取得価額の10%(資本金3,000万円超1億円以下の場合は7%)を法人税から直接控除
メリット
- 設備投資による事業強化を図りつつ、税負担を大幅に削減できる
- 国の支援策(補助金など)と組み合わせるケースも
注意点
- 認定手続きに時間と労力がかかる
- 適用期限や要件が改正で変わる可能性がある
第7位:中小企業投資促進税制
7-1. 概要
「中小企業経営強化税制」とよく似た制度で、機械装置などを取得した際に特別償却か税額控除が受けられます。違いとしては事前の計画認定が不要で、比較的手続きが簡単です。
7-2. 優遇内容
- 特別償却:取得価額の30%
- 税額控除:取得価額の7%(資本金3,000万円超1億円以下は要確認)
メリット
- 申告書の添付資料などで適用可能 → 手間が比較的軽い
- 機械装置など設備投資の初期コストを削減でき、キャッシュフローも改善
注意点
- 「中小企業経営強化税制」に比べて優遇率がやや低い場合が多い
- 対象資産や要件を誤ると適用できない場合がある
第6位:小額減価償却資産の特例
6-1. 概要
1つあたり30万円未満の減価償却資産を合計300万円まで取得した年度に即時償却できる特例です。青色申告を行う中小企業者等が対象で、2026年3月31日まで適用期限が延長されています。
6-2. メリット
- パソコンや複合機、什器備品などが即時経費化でき、利益を圧縮できる
- ソフトウェアや中古資産も対象に含まれるため、適用範囲が広い
6-3. 注意点
- 翌期以降の減価償却費がなくなる → 将来の費用計上枠が減る
- 一時的に大きく利益を減らすことが、金融機関の与信判断に影響する場合もある
第5位:貸倒引当金の特例
5-1. 概要
貸倒引当金は、取引先が倒産して売掛金などの回収が困難になる事態に備え、あらかじめ損金を計上しておく制度です。大企業の場合、原則として税法上損金算入が認められませんが、中小法人には一定の範囲で特例があるのがポイントです。
5-2. メリット
- 将来の貸倒れリスクに備えつつ、当期の利益を圧縮して法人税を節減
- 初年度に限っては明確な節税効果を得られる
5-3. 注意点
- 実際に貸倒れが起きなかった場合は、翌年度以降に引当金を取り崩して収益計上
- 取り崩しにより翌期の利益が増え、税額が増える可能性もある
- 過大計上は税務上否認のリスクも → 適正額の設定が重要
第4位:交際費課税の特例
4-1. 概要
法人税法上、交際費は原則として損金不算入です。しかし、中小法人には年間800万円までの交際費について損金算入を認める特例が設けられています。
4-2. メリット
- 年間800万円までは全額損金にできる
- 資本金1億円超の大企業(~100億円以下)は、接待飲食費の50%までしか損金算入できず、中小企業とは大きな差がある
4-3. 1人当たり1万円基準へ
- 2024年4月以降、1人当たり1万円以下の飲食費は交際費に該当しない(会議費として全額損金可能)
- 従来の5,000円基準が緩和され、使いやすくなった
注意点
- 800万円を超過する分は損金不算入
- 地方自治体ごとの取扱いなど、詳細確認が必要
第3位:欠損金の繰越控除
3-1. 概要
赤字(欠損金)が生じた場合、その損失を最大10年間(要青色申告)繰り越し、将来の黒字と相殺できる仕組みです。
3-2. メリット
- 赤字が出ても将来の黒字から差し引けるため、長期的に法人税を節減できる
- 資金繰りの安定化につながる
3-3. 注意点
- 繰越控除を行うには、青色申告書を連続提出していることが必須
- 最長10年の期間は税制改正で変更される可能性がある
第2位:欠損金の繰り戻し還付
2-1. 概要
「欠損金の繰越控除」が未来の黒字と相殺するのに対し、欠損金の繰り戻し還付は「過去の黒字」にさかのぼって相殺し、既に納めた法人税の還付を受ける仕組みです。中小法人(資本金1億円以下)かつ青色申告が要件となります。
2-2. メリット
- 前年度に納めた法人税が現金で戻ってくる → 資金繰りの即時改善が可能
- 事業環境の急変による赤字が出た際のリスクヘッジになる
2-3. 注意点
- 還付されるのは法人税のみ(地方税や消費税は対象外)
- 「欠損金の繰越控除」と併用はできない → どちらかを選択
- 短期的に資金ニーズがある場合は繰り戻し還付、将来的な黒字との相殺を重視するなら繰越控除を検討
第1位:法人税率の軽減
1-1. 概要
最後に紹介するのは、中小企業にとって最も基本的かつ重要な法人税率の軽減措置です。資本金1億円以下の中小法人は、課税所得800万円までの法人税率が15%(通常23.2%)に抑えられます。
1-2. 税率
- 800万円まで:15%
- 800万円超:23.2%
この優遇は、2025年3月31日までに開始する事業年度に適用される予定となっています(以後の延長や税率変更の可能性あり)。
1-3. メリット
- 所得がまだ小さい創業間もない中小企業ほど、大きな恩恵を受ける
- 法人税の基礎となる部分での優遇のため、広く活用できる
1-4. 注意点
- 資本金1億円超や、大企業の支配を受ける会社は対象外
- 継続的な税制改正で要件や期限が変わる可能性がある
まとめ
中小企業優遇税制を、研究開発税制を第10位として逆ランキング形式でご紹介してきました。それぞれの制度を一覧にすると以下の通りです。
- 法人税率の軽減
- 欠損金の繰り戻し還付
- 欠損金の繰越控除
- 交際費課税の特例
- 貸倒引当金の特例
- 小額減価償却資産の特例
- 中小企業投資促進税制
- 中小企業経営強化税制
- 賃上げ促進税制
- 研究開発税制
活用にあたってのポイント
- 自社が中小企業の定義を満たすか要チェック
- 資本金や支配関係など、制度ごとに微妙に違う要件を確認
- 期限や要件の改正を常にウォッチ
- 法人税率軽減の期限、中小企業経営強化税制の適用期限などは変更される可能性あり
- 税理士や専門家と連携
- 書類作成や優遇税制の適用判定をミスなく行い、最大限の恩恵を受ける
- キャッシュフローや将来計画を踏まえて選択
- 短期資金ニーズ重視なら欠損金繰り戻し還付、将来の黒字相殺なら繰越控除、といった使い分け
こんな場合には…
- 大幅設備投資で生産性UP:中小企業経営強化税制や投資促進税制
- イノベーション創出:研究開発税制を活用
- 人材定着・採用強化:賃上げ促進税制で給与支給額UPを支援
- 交際費を上手に使いたい:800万円まで損金算入&会議費扱いの拡大
本稿でご紹介した10種類の優遇税制は、いずれも中小企業が節税と事業拡大を両立するうえで強力な手段になります。ぜひ最新の情報をチェックしながら、自社に最適な制度を見極め、上手に活用してください。
おわりに
本記事では、研究開発税制を第10位として始まる逆ランキング方式で、中小企業向け優遇税制を徹底解説しました。各制度のメリット・デメリット・適用要件は似ているようでいて異なる点も多いため、導入前に専門家へ相談することが何より重要です。
- 法人税率の軽減:中小企業の基本
- 欠損金の繰越・繰り戻し:赤字リスクのコントロール
- 交際費・貸倒引当金:日常業務への柔軟な対応
- 投資促進税制や経営強化税制:成長投資を後押し
- 研究開発税制や賃上げ促進税制:技術力・従業員満足度向上
中小企業には、大企業にはない機動力と柔軟性があります。一方で、人的・資金的リソースに限りがあるため、税制をうまく活用して経営負担を下げ、未来への投資を加速することが不可欠です。
ぜひ今回ご紹介したランキングを参考にしつつ、御社ならではの優遇税制の使い方を見つけてください。税金を最適にコントロールしながら、さらなる事業成長を目指しましょう!
【注意】
本記事の内容は執筆時点の情報をもとにしています。税制は改正により要件や適用期限が変化する可能性があるため、実際に制度を利用する際は必ず最新の法令や専門家の確認をお願いします。