償却資産の申告を忘れずに!
償却資産税の仕組み・対象・手続き方法
を徹底解説
はじめに
事業者の皆様のなかには、「固定資産税は土地と建物だけが対象だろう」と思っている方も多いのではないでしょうか。しかし実際には、土地や家屋以外の事業用資産にも「償却資産税」という固定資産税の一種がかかるケースがあります。
しかも、その償却資産に対しては、事業者自らが毎年申告を行わなければならず、申告漏れや申告忘れが起きやすいのが現状です。もし申告を怠ると過去にさかのぼって税金を請求されたり、延滞金や罰則が科されるリスクもあるため、非常に注意が必要となります。
本記事では、償却資産の定義や申告が必要となるケース、申告方法、非対象となる資産、減価償却方法との関係など、償却資産税に関するポイントをできるだけ分かりやすく解説します。申告期限が迫ってきたものの、まだ手続き内容をしっかり把握していない方や、これから開業・起業する方も、この記事を読めば償却資産税の概要から具体的な申告ステップまで理解できるはずです。ぜひ最後までご覧いただき、正しくスムーズに手続きを進めてください。
1.固定資産税とは?
1-1.固定資産税の概要
固定資産税は、土地・家屋・償却資産などの「固定資産」に対して毎年課税される地方税です。原則として1月1日時点の固定資産の所有者(登記簿上の名義人など)に課せられ、市町村(東京23区の場合は都)が課税主体となります。
通常、土地や家屋にかかる固定資産税は、自治体が自動的に評価額を算定し、その金額をもとに納付書を所有者へ送付します。そのため、土地や建物を持っている方は、基本的には納付書が届き次第、期日までに支払えばよい仕組みになっています。
1-2.償却資産税との違い
固定資産税の対象には「土地」「家屋」そして「償却資産」があります。多くの方がイメージされるのは土地と家屋ですが、実は事業のために用いる資産で、減価償却の対象となるものは「償却資産税」の課税対象になる可能性があります。
土地や家屋と違って償却資産には、所有者自身が1月1日時点の資産状況を自治体に申告し、自治体がその申告内容をもとに税額を計算するというフローが必要になる点が大きな特徴です。
2.償却資産とは?
2-1.償却資産の基本的な定義
「償却資産」とは、企業や個人事業主などが事業用として使用する、形のある有形固定資産で、かつ減価償却の対象となる資産を指します。具体的には、以下のようなものが対象となりやすいです。
- 店舗や工場で使用する機械装置
- 店舗内装などの建物付属設備(例:エアコン、照明設備、内装工事費用など)
- パソコンや事務机、椅子などの工具、器具、備品
「償却資産税」と呼ばれるのは、これらの償却資産に対して課税される固定資産税であり、建物や土地に課されるものと区別されています。
2-2.償却資産に含まれないもの
一方で、事業用であっても償却資産税の対象にならないものがあります。代表的な例が以下です。
- 自動車(車両)
自動車税や軽自動車税などが別途かかるため、償却資産税はかかりません。 - ソフトウェアなどの無形固定資産
形のない無形資産(ソフトウェア、商標権など)は、償却資産税の対象外です。 - 繰延資産(開業費・創立費など)
これらも形のない資産なので、償却資産税の対象にはなりません。 - リース資産でリース会社が所有権をもつ場合
所有権の帰属によって扱いが異なるため、契約内容によってはリース会社が申告するケースもあります。
3.償却資産の対象・非対象となる資産
償却資産の中でも、少額減価償却資産の取扱いなど、税務上はやや複雑なルールが存在します。以下のポイントを押さえておくと申告時に混乱を避けられます。
3-1.少額資産等の区分
減価償却を行う有形固定資産のうち、取得価額が10万円未満の資産は、取得時に全額経費計上できる“消耗品扱い”とされることが多いです。この場合は通常、償却資産税の申告対象から除外されます。
また、取得価額が20万円未満のものには「一括償却資産」という制度があり、3年間で均等に償却を行うことが可能です。この一括償却資産を適用した場合も、償却資産税の申告対象にはなりません。
さらに、取得価額が30万円未満の場合に利用できる「少額減価償却資産の特例」を用いて、取得初年度に一括で経費計上(即時償却)する方法もあります。しかし、この特例を使っている資産は償却資産税の申告対象になりますので要注意です。
3-2.事例別のイメージ
- 15万円のパソコンを購入した場合
- 「少額減価償却資産の特例」を選択し、初年度に全額経費計上 → 償却資産税の申告対象になる
- 「一括償却資産」を選択し、3年均等償却 → 償却資産税の申告対象外
- 8万円のプリンターを購入した場合
- 取得価額が10万円未満 → 基本的に全額経費で処理 → 償却資産税の申告対象外
こうしたルールの違いによって、減価償却の方法をどう選択するかで、償却資産税の申告の有無や税額に影響が出てきます。事業の規模や経理状況などを踏まえて最適な方法を選択し、忘れずに申告手続きや納税を行いましょう。
4.償却資産申告が必要なケース
4-1.1月1日時点の保有状況がベース
原則として、1月1日時点で償却資産を所有しているすべての事業者が、同年の1月31日までに申告を行う必要があります。例えば、「令和6年1月1日時点」で所有している償却資産については、原則「令和6年1月31日」までに申告しなければなりません。
4-2.償却資産を持っていない場合でも申告が必要な自治体も
自治体によっては「償却資産を所有していない旨の申告」も必要とされることがあります。
例えば、東京都23区などは、償却資産を一切持っていない場合でも「償却資産なし」の申告書を提出しなければならないルールを定めています。自治体によって対応が異なるため、管轄の市区町村(もしくは東京23区であれば都)に確認しましょう。
5.償却資産申告の手続き方法
5-1.提出先
償却資産の申告書は、資産の所在地を管轄する**市町村(東京23区の場合は東京都)**に提出します。具体的には、以下のような手順です。
- 自治体のホームページなどから、所定の申告書用紙(償却資産申告書・償却資産課税台帳など)を入手
- 持っている償却資産をリストアップし、取得価額や取得年月、耐用年数、前年末までの償却累計などを記入
- 合計額が算定されると、評価額の合計を把握
- 書面で郵送または窓口提出、または電子申告で提出
5-2.電子申告(eLTAX)の活用
償却資産税の申告は、地方税ポータルシステム「eLTAX(エルタックス)」を利用することで、オンラインで手続きすることが可能です。電子申告により、以下のメリットが得られます。
- 24時間いつでも申告可能
- 申告内容を簡単に修正・再提出できる
- 郵送費や窓口での時間を節約できる
ネット環境や電子証明書の準備が必要ですが、今後の税務申告全般を効率化したい場合は、ぜひ活用を検討してみてください。
5-3.申告期限
申告期限は、毎年1月31日までが基本です。ただし、31日が土日・祝日に当たる場合などは、自治体によって多少の変更がある場合があるため、必ず自治体からの通知や公式サイトで確認するようにしましょう。
6.税額計算のポイント
6-1.評価額の算定方法
償却資産税の計算は、基本的に「原価償却」の考え方をベースに、年々資産価値が下がっていくことを踏まえた評価額で行われます。具体的には、税務上の耐用年数や償却率などを用いて、1年ごとに評価額が減少していきます。
6-2.免税点
償却資産の評価額合計が、150万円未満の場合には償却資産税がかかりません。
例えば、評価額合計が140万円しかない場合は、非課税となり税金は「0円」です。一方で、評価額合計が150万円を超えた時点で課税対象となるため、合計評価額が150万円以上である場合は注意が必要です。
6-3.税率と計算例
多くの自治体では、償却資産税の標準税率は「1.4%」です。
たとえば、評価額合計が300万円の場合、
300万円 × 1.4% = 42,000円
が償却資産税として課税されます。地域によっては多少税率が異なる場合もあるため、事前に自治体の公式サイトなどで確認してください。
7.申告漏れや納付遅延のリスク
7-1.過去分の追徴課税
償却資産の申告を忘れていたり、故意に申告していなかったりすると、自治体は過去5年分にさかのぼって課税処分を行う可能性があります。また、申告内容が虚偽であった場合には過少申告加算税やペナルティの対象になり、最悪の場合は罰則(過料・罰金・懲役)も発生するリスクがあります。
7-2.延滞金
償却資産税の納付期限までに支払わなかった場合は、延滞金が課せられます。具体的には、
- 1カ月以内の遅延:年利2.5%程度(年度により異なる場合あり)
- 1カ月を超える遅延:年利8.8%前後(年度により異なる場合あり)
といった利率で延滞金が加算されることがあります。延滞金の負担は決して小さくないので、必ず期限内に納付しましょう。
8.減価償却方法の選択と償却資産税
8-1.減価償却方法が税額に影響する
前述のとおり、減価償却方法の選択によって、償却資産税の課税対象となるか否かが変わったり、評価額が異なって税額に差が出たりします。たとえば、30万円未満の資産を「少額減価償却資産の特例」によって一括償却すると、償却資産税の計算上は複数年評価額を残す形になるため、初年度で一度に経費落とししても償却資産税の申告対象となる点に要注意です。
8-2.経費か償却資産税か、どちらを重視するか
一般的には「できる限り経費を増やして所得税や法人税を軽くしたい」と考える事業者が多いですが、そのために少額減価償却資産の特例を安易に使うと、償却資産税が課税される額が上がってしまう可能性があります。
もちろん、全体の税負担は所得税や法人税が減った分を含めて総合的に判断する必要がありますが、こうした兼ね合いを意識しておくことが大切です。
9.償却資産申告をスムーズに行うためのヒント
9-1.資産管理台帳を整備する
毎年1月に「どの資産がいくら残っているのか?」を正確に調べる手間を省くためにも、普段から資産管理台帳を整備しておくと便利です。購入時の取得価額や購入日、使用状況、耐用年数などをまとめておけば、申告書への転記作業もスムーズになります。
9-2.税理士や会計ソフトを活用する
償却資産税の申告は税理士に依頼すると、専門知識に基づき、漏れのない適切な申告をしてもらえます。また、最近の会計ソフトでは償却資産の管理機能が充実しているものも多く、ボタン一つで償却資産の一覧表や評価額を出力できるようになっています。こうしたツールを活用すれば、申告作業の効率化が期待できます。
9-3.電子申告(eLTAX)の習熟
地方税の申告は今後もオンライン化が進むことが予想されます。eLTAXを使いこなせるようになれば、償却資産の申告にとどまらず、他の地方税・都道府県民税・市町村民税などの申告もオンラインで一元管理できます。
郵送や窓口での提出は手間やコストがかかるため、電子申告に移行するのもひとつの手です。
9-4.申告期限を把握し、カレンダーに記入
実務の忙しさから、つい1月31日の償却資産申告期限を忘れてしまうケースが少なくありません。カレンダーやタスク管理ツールなどでしっかりとリマインドを設定し、年末年始の時期に同時に準備できるように意識しておくと良いでしょう。
10.よくある質問(FAQ)
ここでは、償却資産の申告や固定資産税に関して、よく寄せられる質問をまとめてみました。
Q1. パソコンを1台持っているだけで申告は必要ですか?
A. たとえ1台だけでも償却資産税の対象となる可能性があります。取得価額や減価償却の方法次第で、税額が0円になる(150万円未満)場合もありますが、自治体によっては「償却資産無し」の届出が必要ですのでご注意ください。
Q2. 申告を忘れていて複数年分をまとめて申告する場合、どうすればいいですか?
A. 過去分を一括で申告することになります。延滞や不申告の場合の加算税・延滞金が課される可能性があるため、できるだけ早めに自治体に相談しましょう。
Q3. 法人ではなく個人事業主にも償却資産税はかかりますか?
A. 法人・個人問わず、事業用として用いられる減価償却資産があれば、償却資産税の対象になる可能性があります。個人事業主も忘れずに確認・申告しましょう。
Q4. 空き家を改装してカフェを開業しました。家屋はどう申告すればいい?
A. 家屋(建物)は不動産として自治体が固定資産税を評価・通知してきます。改装費用のうち、パソコンや備品、機械装置などは償却資産税に該当する場合がありますので、必ず両方を確認してください。
11.まとめ
償却資産税は、土地や家屋と同じ「固定資産税」の一種ですが、事業者が自ら申告しなければならない点が大きな特徴です。申告を怠ると、後から延滞金や罰則を受けるリスクもあるため、毎年1月31日までに必ず提出するように注意しましょう。
- 償却資産とは:事業用に使う有形固定資産で、減価償却の対象となるもの
- 課税免除の条件:評価額合計が150万円未満であれば税額は0円
- 申告方法:自治体の指定書類か、eLTAXを使った電子申告
- 注意点:取得価額が10万円未満の資産は申告対象外となるが、20万円未満でも減価償却方法によっては申告不要になる場合がある一方、少額減価償却資産特例を使うと申告対象になる
- 申告しなかった場合:過去5年分の追徴課税や罰則、延滞金などのリスクがある
本記事を参考に、ご自身の事業で保有する償却資産をしっかり把握し、期限内に正しく申告・納付してください。必要に応じて、税理士や専門家の力を借りてスムーズに手続きを進めることも大切です。
きちんと償却資産申告をしておけば、後から思わぬ税金の支払いが発生するリスクを回避でき、経営の安定化にもつながります。忘れがちだからこそ、毎年1月には必ず確認するスケジュールを組んで、適切な税務手続きを行っていきましょう。
以上で「償却資産の申告を忘れずに!固定資産税の仕組み・対象・手続き方法を徹底解説」の解説を終わります。最後までお読みいただきありがとうございました。
皆様が安心・正確に償却資産税の申告を行い、スムーズな事業運営を続けられることを心より応援しています。ぜひ今回の記事を参考に、償却資産税の申告手続きをクリアし、無用なリスクやトラブルを回避していただければ幸いです。