孫正義が語るAIの未来と投資哲学
2035年に到来する人工超知能(ASI)の衝撃
人類へのインパクト
- はじめに
- 1. インタビューの背景:リチャード・クエストとFIIの舞台
- 2. 孫正義氏の「AIへの執念」:なぜそこまで没頭するのか
- 3. 人工汎用知能(AGI)と人工超知能(ASI)の違い
- 4. 2035年に到来する「1万倍の知能」:孫正義氏のビジョン
- 5. AIがもたらす恩恵と規制の必要性:自動車産業との比較
- 6. 悪用リスクにどう備える? 国家・投資家・企業の役割
- 7. ソフトバンクの投資戦略:ARMを中核としたAIエコシステム構想
- 8. ロボティクスへの期待:AIとロボットが融合する未来
- 9. 過去の成功と失敗:AlibabaとWeWorkから学ぶ孫正義流の哲学
- 10. 「失敗」との向き合い方:二度の危機と復活劇
- 11. AI投資の市場規模:9兆ドルカペックスとトリリオンの利益予測
- 12. 国際社会が直面する課題:制度設計と倫理・ガバナンス
- 13. インタビューから読み解く孫正義氏の人物像とリーダーシップ
- 14. AI時代の到来に備える私たち:ポイントと提言
- 15. まとめ:マサヨシ・ソンが示す未来の羅針盤
はじめに
人工知能(AI)は、今や世界規模で最も注目されているテクノロジートレンドの一つです。ビジネスから日常生活に至るまで、AIが大きな変革をもたらすと言われて久しいですが、ソフトバンクグループ創業者として知られる孫正義(マサヨシ・ソン)氏ほど、AIの可能性に対して強い確信と情熱を持つ人物はそう多くありません。彼はかねてより「AIが人類社会を根本から変え、より良くする」と主張し、数々の大型投資や企業買収を通じてそのビジョンを具体化してきました。
本稿では、CNNの著名キャスター、リチャード・クエスト氏がサウジアラビアのイベント「Future Investment Initiative(FII)」にて孫正義氏と行った特別インタビュー(YouTube:「CNN’s Richard Quest Speaks with Masayoshi Son about Artificial General Intelligence at #fII8 #AI」)をもとに、AIの現状から将来予測、そして投資家としての哲学や失敗からの学びに至るまで、余すところなく解説します。孫正義氏が「2035年」という具体的な年を挙げて予測する「人工超知能(ASI)時代」は、社会にどのような影響をもたらし、私たちの生活はどう変わるのでしょうか。10,000文字超の大ボリュームで、インタビュー内容の要点と考察を掘り下げていきます。
1. インタビューの背景:リチャード・クエストとFIIの舞台
今回のインタビューは、サウジアラビアで毎年開催される「Future Investment Initiative(FII)」という国際的な投資カンファレンスの場で行われました。FIIは、中東のみならず世界中の政財界リーダーや企業家が一堂に会し、未来の投資機会やテクノロジー動向を議論する注目のイベントです。
聞き手となったリチャード・クエスト氏は、CNNで金融・経済ニュースをはじめ、国際的に重要なテーマを幅広く取り上げる人気キャスターとして知られています。クエスト氏は率直で鋭い質問スタイルで有名であり、今回も孫正義氏に対して「AIの危険性」「失敗した投資案件」など、一見タブー視されがちなテーマにも切り込みました。
一方の孫正義氏は、ソフトバンクグループを率いる日本屈指の投資家・企業家として、数多くの大型ディールを成功させてきた人物です。彼はかつて「ドットコムバブル崩壊」で大きな損失を出しつつも、その後、Alibabaへの早期投資で莫大なリターンを得たことでも知られています。FIIという世界的な投資家の集まる舞台で、孫正義氏がAIについてどのような展望を語ったのか、注目が集まりました。
2. 孫正義氏の「AIへの執念」:なぜそこまで没頭するのか
リチャード・クエスト氏がまず尋ねたのは、「今、何に最も関心を持っているのか」というオープンな質問でした。これに対し、孫正義氏は即答で「AI(人工知能)しか考えていない」と断言します。彼はこれまでも折に触れて「AI時代が来る」「AIの進化が人類の未来を変える」と語ってきましたが、その情熱はまったく衰えていないようです。
なぜAIなのか
- 社会変革のインパクト
AIは単なるテクノロジーではなく、社会や産業構造そのものを変革する力を持っています。現在、インターネットやスマートフォンによって大きく変わった日常生活も、AIの普及がさらに進めば、それ以上の変化が訪れると孫正義氏は考えています。 - 大きな投資リターン
企業家としての面からは、AIが膨大な投資リターンを生む可能性があることも大きいでしょう。彼はこれまでにも、数兆円単位の投資を「Vision Fund」などで行い、AI関連企業を中心にポートフォリオを構築してきました。 - 人類の幸福への貢献
孫正義氏は、AIが医療や介護、教育などの分野で役立つことで、人々の生活をより快適にし、世界を「もっと良い場所」にできると説きます。純粋なビジネスの視点だけでなく、テクノロジーを通じた社会貢献を重視する思想も背景にあるのです。
彼が「AIに没頭している」と表現する背後には、こうした複合的な理由が存在します。一方で、成功を追求するうえで不可避なリスクや失敗への警戒心も、彼の中には明確にあります。だからこそ、AI時代の到来に向けて、以前よりさらに慎重かつ積極的に準備していると言えるでしょう。
3. 人工汎用知能(AGI)と人工超知能(ASI)の違い
AIの進化を語るとき、しばしば登場するのが「AGI」と「ASI」という2つの概念です。インタビューでも、クエスト氏は「AGIとASIの違いは何か?」と問いかけています。孫正義氏は、これらを次のように定義しました。
- AGI(Artificial General Intelligence)
人間とほぼ同レベルの知性を持ち、人間が行う多様なタスクを同程度にこなせるAI。これは「汎用知能」とも呼ばれ、特定の作業だけでなく幅広い分野で適応力を示すのが特徴です。 - ASI(Artificial Super Intelligence)
AGIをさらに超え、人間の能力を大きく凌駕するAI。孫正義氏は、この「超知能」を、人間の1万倍の知能を持つ存在と定義しています。
これらの区分は学問的にも議論が分かれるところですが、一般に「AGIが登場してからASIへと到達するまでには相当な年月がかかる」とみる専門家が多いです。しかし、孫正義氏は「2035年頃にはASIが実現する」という具体的な時期まで示しました。その根拠については後述しますが、AI技術の発展が指数関数的に進むという見立てが背景にあります。
4. 2035年に到来する「1万倍の知能」:孫正義氏のビジョン
インタビューで最も注目を集めたのが、孫正義氏が語る「2035年には人間の1万倍賢いAIが登場する」という予測です。わずか10年強でそこまでの飛躍が本当に可能なのか、疑問を抱く人も少なくないでしょう。しかし、彼の説明はあくまで具体的で、かつ大胆です。
1万倍の知能がもたらす世界
- 経済・産業への革命的影響
現在でも一部の業界では既にAIの導入が進み、生産性向上やコスト削減が進んでいます。これが1万倍の知能となれば、今までにないイノベーションや新産業が生まれる可能性が高いと言えます。 - 意思決定の高度化と高速化
ビジネスのみならず、医療、教育、公共サービスなど、人間が判断していた領域が大幅にAIにシフトするかもしれません。特に医療分野では、難病の診断や新薬の開発が劇的に変化する可能性があります。 - 新たな倫理・社会問題
一方で、人間の知能を遥かに上回るAIが登場すると、「AIが暴走したらどうするのか」「雇用はどうなるのか」など、新しい問題が次々に生まれるのも事実です。孫正義氏自身も「規制やガバナンスは不可欠」と強調しています。
このように、孫正義氏の描く「1万倍の知能」は巨大なチャンスとリスクの両方を孕んでいます。急激な技術進歩は過去にもありましたが、ここまでのスピードで社会全体を覆す可能性を秘めたテクノロジーは珍しいといえるでしょう。
5. AIがもたらす恩恵と規制の必要性:自動車産業との比較
インタビューの中で孫正義氏は、AIの規制について自動車産業を例に挙げています。「自動車は人類にとって非常に便利な発明であったが、同時に交通ルールや安全基準といった規制がなければ大惨事を招く危険もある」と。これは、AIにも同じことが言えるというわけです。
自動車産業との類似点
- 多大な恩恵
自動車が登場したことにより人々の移動が劇的に変わり、物流や産業構造も一変しました。AIも同様に、人間の知的作業を大幅に効率化し、多くの課題を解決する可能性があります。 - 規制の必要性
自動車が普及して初めて、交通ルールや免許制度などが整備されました。AIも普及が進むにつれ、その使い方や責任の所在、セキュリティ面などで国際的な合意や規制が求められるようになるでしょう。 - 悪用リスク
自動車も武装車両やテロの手段として悪用される可能性を常にはらんでいます。AIにおいても、国家や犯罪組織などが悪用を企てるリスクは否定できません。サイバー攻撃や情報操作など、従来の枠組みを超えた新たな脅威が考えられます。
孫正義氏が懸念するのは、「技術自体は中立でも、使い方次第でいかようにもなる」という点です。この大きな力を制御し、正しく導くためにも、企業や政府、国際機関が積極的に協力して枠組みを作っていく必要があります。
6. 悪用リスクにどう備える? 国家・投資家・企業の役割
リチャード・クエスト氏は、AIが悪用されるリスクを追及するなかで「国家や一部の投資家がAIを兵器化したり、人間に害を及ぼす可能性はないか」と問いました。これに対して、孫正義氏は「AIは大規模投資が必要であり、一部の“悪い人々”が容易に作れるわけではない」としつつも、完全に否定はしませんでした。
実際には、次のようなステークホルダーがそれぞれの役割を果たすことが重要です。
- 国家・政府機関
- 法規制や国際的な条約の制定によって、悪用や暴走を抑止するルールを整備する。
- 研究開発への助成や、監視機関の設立などを通じて、健全なAI生態系を育成する。
- 投資家・ベンチャーキャピタル
- AIスタートアップへの資金供給を行う際、社会的責任を考慮した投資方針を確立する。
- 企業のビジネスモデルが「人類にメリットをもたらすか」を判断基準の一つに加える。
- 企業・研究機関
- 技術開発を進めるうえで、安全策やセキュリティ対策を最優先に設計する。
- AI開発のプロセスやアルゴリズムを可能な限り透明化し、ステークホルダーとの連携を図る。
悪用リスクは実在しますが、それを「可能なかぎりコントロールして恩恵を得る」のが社会全体の使命だといえるでしょう。孫正義氏もまた、投資家として莫大な資金を持ちながら、リスクとリターンのバランスを常に考えていると伺えます。
7. ソフトバンクの投資戦略:ARMを中核としたAIエコシステム構想
インタビュー中、クエスト氏は「今後どこに投資するのか」という具体的な質問を投げかけました。孫正義氏は「ARM(アーム)」の名前を挙げ、「ARMをAI時代のチップ企業として進化させる」と明言しています。
ARMとは何か
- 英国に本拠を置く半導体設計企業で、モバイル向けCPUアーキテクチャのシェアで圧倒的優位を誇る。
- スマートフォンやタブレットのほぼすべてにARMの設計が採用されており、低消費電力と高効率が特徴。
- 孫正義氏のソフトバンクは2016年に約3.3兆円でARMを買収し、2023年には上場を行い大きな注目を浴びた。
孫正義氏は「ARMがAI時代の中心的な半導体プラットフォームになる」と考えています。GPUなどAI演算に特化したチップで圧倒的シェアを持つNVIDIA(エヌビディア)とARMの間には、すでに深い協力関係が存在し、ARM設計をベースとした高性能なAIチップが生み出される可能性があります。
AIエコシステム構想
- データセンター: 孫正義氏は「世界で400GWのAIデータセンターが必要」と試算。その中心的なCPUアーキテクチャを提供するのがARMになる可能性がある。
- モバイル・IoT: スマートフォンやIoT機器においては既に圧倒的シェアを持つため、AI機能のエッジ推論などでさらなる需要が見込まれる。
- ソフトウェア開発者コミュニティ: ARMアーキテクチャをベースにした開発環境の普及により、多数のデベロッパーがAI対応アプリケーションを開発しやすくなる。
こうした背景から、ARMはソフトバンクにとって単なる買収企業以上の「AI時代を支える基盤」と位置づけられています。
8. ロボティクスへの期待:AIとロボットが融合する未来
孫正義氏は、ARMなどのチップ企業だけでなく「ロボティクス」にも強い興味を示しています。インタビュー中でも「従来型の産業ロボットではなく、AIを搭載したロボットが社会を変革する」と言及しました。
AIロボットがもたらす革新
- サービス業の自動化
レストランやホテル、介護施設などでAIロボットが接客や案内、清掃を行うことで、人手不足の解消やサービス品質の向上が期待されます。 - 医療・介護分野への応用
少子高齢化の進む国では、ロボットが介護補助やリハビリ支援を担う可能性があります。また、AIが患者の状態を分析し、最適な治療をサポートする役割も見込まれます。 - 物流・製造の効率化
すでに自動倉庫や自律走行型の運搬ロボットは導入が進んでいますが、AIによる判断能力がさらに高度化すれば、より柔軟な作業が可能となり、生産性が飛躍的に向上するでしょう。
孫正義氏は、こうした「AIロボットが社会の当たり前になる」時代がそう遠くないと見ています。これは単に設備投資を増やすだけでなく、人間がクリエイティブな仕事に集中し、より豊かな生活を享受できる世界をめざす一つの方向性とも言えるでしょう。
9. 過去の成功と失敗:AlibabaとWeWorkから学ぶ孫正義流の哲学
孫正義氏といえば、20年前に2000万ドルを投資したAlibabaが数十億ドル以上の価値に化けた逸話が有名です。一方で、WeWorkへの投資で巨額の損失を出したことも広く知られています。クエスト氏は「WeWorkの失敗は痛手だったのでは?」と問いかけました。
Alibaba:歴史に残る大成功
- 投資額: 当初約2,000万ドル
- 評価額の伸び: ピーク時には約7兆円相当の評価益をもたらしたという試算もある
- 要因: インターネットが急拡大する中国市場で、電子商取引(EC)を革新したAlibabaにいち早く着目。孫正義氏が持つ「未来洞察」が功を奏した。
WeWork:反面教師となった大型投資
- 投資額: ソフトバンクグループ全体で100億ドル超
- 結果: ビジネスモデルの不透明さ、創業者の経営姿勢、急激な拡張戦略などが重なり、株式公開(IPO)に失敗。最終的に評価損が数千億円規模に達した。
- 孫正義氏の見解: 「失敗した投資だが、反省を通じてさらに学びを得た。大局を見れば、インターネットやAIが引き起こす変革は間違っていない」と語る。
このように、孫正義氏は「大成功と大失敗の両方を経験した投資家」としてユニークな立ち位置を築いています。彼は失敗を恐れず、失敗をバネにする姿勢をインタビューでも強調しており、その背景には「テクノロジーの大潮流は確実に成長する」という信念があるようです。
10. 「失敗」との向き合い方:二度の危機と復活劇
孫正義氏はインタビュー内で「二度の大きな危機を経験した」と語っています。具体的には、ドットコムバブル崩壊(2000年前後)とリーマンショック(2008年前後)が挙げられます。
- ドットコムバブル崩壊
- ソフトバンクの株価はピーク時から99%近く下落。
- 多くのITベンチャーへの投資が軒並み評価損を被った。
- それでもAlibaba投資などが残り、後の復活の糸口となった。
- リーマンショック
- 世界的な景気後退により、ソフトバンクも資金調達や投資活動で厳しい局面に。
- しかし、国内通信事業や携帯電話事業を伸ばすことでキャッシュフローを確保し、さらなる海外投資につなげた。
インタビューで問われた際、孫正義氏は「夜寝る前は心配だが、朝起きると笑顔になっている」と述べ、自分を奮い立たせるメンタルの強さを示しています。失敗をただの失敗で終わらせるのではなく、学びや成長の糧とし、再び新たなチャレンジへ突き進む。それが彼の投資哲学の根底にあると言えます。
11. AI投資の市場規模:9兆ドルカペックスとトリリオンの利益予測
孫正義氏は、AS(人工超知能)の開発や普及には「9兆ドル(約1,000兆円)もの巨額投資が必要」だと説いています。一見すると天文学的な数字ですが、彼はこう続けます。「世界GDPの5%に相当する9兆ドルを一度だけ投資すれば、その後毎年9兆ドル以上の価値が生まれるかもしれない」と。
カペックス(CAPEX)とは?
**CAPEX(Capital Expenditure)**は「資本的支出」と訳され、企業が設備投資や長期資産(工場、機械、データセンターなど)の取得にかかる費用を指します。簡単に言うと、将来の成長や収益を見込んで行う投資のことです。
9兆ドルカペックスCAPEXの具体的な内容
- データセンターの電力(400GW)
AIが巨大な演算能力を要することから、膨大な電力供給と冷却が必要。孫正義氏は「これは現行のアメリカ全土の電力に匹敵する」と例えています。 - 半導体チップ(2億個)
高度なAI処理を行うためには、大量のGPUやAI専用ASIC(アプリケーション特化型集積回路)が必要。ARMやNVIDIAの技術が中心になる可能性が高い。 - 関連インフラ
通信回線、クラウドサービス、ソフトウェア開発環境などにも莫大な投資が集中する。
リターンの想定
- GDPの5%をAIが創出
世界GDPが約180兆ドルと仮定すると、その5%は約9兆ドル。AIが作り出す付加価値が、毎年9兆ドルを上回る可能性がある。 - トリリオンの利益
孫正義氏は「主要なGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)や中国のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)などに加え、新たなGAA(Generative AIの巨大企業)が1社1兆ドルの利益を分け合うかもしれない」と語っています。彼自身も、その一角を狙っていると明言しています。
この試算は極めて大胆ですが、一方でAI市場が持つ可能性を具体的に示しているのも事実です。テクノロジーの進化が指数関数的に加速するならば、9兆ドルという投資規模も「思ったより早く到達する」かもしれません。
12. 国際社会が直面する課題:制度設計と倫理・ガバナンス
AI技術が爆発的に進歩し、ASIが現実味を帯びるようになると、社会は新たな段階の課題に直面します。孫正義氏は「自動車の例のように、安全を守るための国際的な規制が必要」と言いますが、それは容易なことではありません。
- 国際標準の策定
- AIの開発・利用に関するグローバルなルール作りが求められるが、各国の利害が対立しやすい。
- 国家間の競争が激化する中で、技術覇権を巡るジレンマがある。
- 倫理的懸念
- AIによる監視社会の進行、データプライバシーの侵害、人間の権利と尊厳の問題などが浮上。
- 特に超高性能AIが軍事転用される可能性は、「AI兵器のモラトリアム」を訴える活動家もいるほど深刻。
- ガバナンスの難しさ
- AIはソフトウェアとハードウェアの複雑な組み合わせであり、責任の所在が曖昧になりやすい。
- 事故やトラブルが発生した際、誰がどのように責任を負うのか、国際法や国内法ではまだ対応しきれていない側面がある。
こうした課題を受け、各国政府や国際機関、企業、研究者が協力して「AIが人類社会に調和して発展していくためのルール」を作り上げる必要があります。孫正義氏は「大きなパワーには大きな責任が伴う」と認めつつも、技術開発を止めるべきではないと主張しています。必要なのは「コントロールされた前進」である、というのが彼の立場です。
13. インタビューから読み解く孫正義氏の人物像とリーダーシップ
インタビューを通じて改めて浮き彫りになったのは、孫正義氏という人物の「巨大なビジョンを持ちながら、それを実現するための行動力を備えたリーダー」という側面です。
- ビジョンのスケール
2035年には人間の1万倍賢いAIが誕生するという、一見突飛にも思える構想を具体的な数字で示し、そのための投資計画を語ります。通常の経営者であれば、そこまで大胆な予測を公にしないかもしれません。 - 失敗を恐れない姿勢
ドットコムバブル崩壊やWeWork問題など、巨大な失敗を経験しながらも、依然として「AIが人類の未来を良くする」という信念を持ち続けています。これは単なる強がりではなく、「大きな流れに逆らわない」投資哲学に基づいているようです。 - 人間味と柔軟性
取材や講演などで語られる孫正義氏のエピソードには、常にユーモアや柔らかな人柄が感じられる部分があります。夜に悩み、朝には微笑むというコメントなどは、決して超人的な存在ではなく、一人の人間として悩みを抱えながらも前を向く姿を象徴しています。
こうした特性は、カリスマ経営者としての強烈な個性を持つと同時に、人間的な温かみをも感じさせる要素でもあります。彼の発言が世界中で注目されるのは、まさにこの「規格外のビジョン」と「人間味」の両立があるからでしょう。
14. AI時代の到来に備える私たち:ポイントと提言
孫正義氏のビジョンを踏まえると、私たち一般市民や企業はどのようにAI時代を迎える準備をすれば良いのでしょうか。以下のポイントを考えてみます。
- AIリテラシーの向上
- 技術の基礎知識からビジネス応用、倫理観やプライバシー保護など、包括的な理解が求められる。
- 個々人が主体的に学ぶだけでなく、教育機関や企業研修でもAIの基礎をカリキュラムに組み込むことが望ましい。
- 職業観の転換
- AIが一部の業務を自動化・効率化し、人間の仕事を奪う可能性がある一方、新しい仕事や役割も生まれる。
- 「人間しかできない創造的・対人コミュニケーション的な要素」に特化したスキルを伸ばす重要性が増す。
- 起業・投資機会の拡大
- AI関連スタートアップや既存企業の新規事業として、多彩なビジネスチャンスが拡大する。
- AI技術者やデータサイエンティストの需要も急増するため、キャリアアップや転職市場にも影響を及ぼす。
- 企業戦略の再構築
- 既存事業の効率化から新規サービス開発まで、あらゆる分野でAIが活用可能。
- 経営層がAIの価値を正しく理解し、戦略的に投資しなければ競争力を失うリスクが高まる。
- ガバナンスと倫理
- 企業や研究機関はAIの安全性や公平性を確保するため、ガバナンス体制を整える必要がある。
- 個人情報の保護やAIの判断の透明性など、多くの利害関係者と協調しながら進める必要がある。
孫正義氏は「AIは脅威ではなく、使い方次第で“素晴らしい未来”をもたらすツール」と捉えています。私たち一人ひとりも、その可能性を最大限に引き出すための知識と行動が求められるでしょう。
15. まとめ:マサヨシ・ソンが示す未来の羅針盤
CNNのリチャード・クエスト氏との対話は、孫正義氏の投資哲学とAIに対する熱い思いを改めて浮き彫りにしました。AGI(人工汎用知能)からASI(人工超知能)へと至る道筋を、彼はわずか10年強で駆け上がると予測しています。2035年には人間の1万倍もの知能を持つAIが生まれ、世界のGDPの5%以上を創出し、総投資額9兆ドルをあっという間に回収してしまう──それは常識では考えにくいほど壮大なシナリオですが、過去にもインターネットやスマートフォンが短期間で世界を塗り替えた事実があります。
孫正義氏の言葉から感じ取れるのは、「技術革新は必然の流れであり、その波にうまく乗るかどうかは人間次第」という姿勢です。失敗を重ねながらも再起してきた経験や、社会を良くするための倫理観、そして大胆な数字の裏付けを提示することで、彼は「AIの未来は明るい」と力強く語ります。
一方で、AIの悪用リスクや国際的な規制の必要性など、課題も山積しています。これからの10年は、技術的なブレイクスルーが続くと同時に、人類全体が新たなルールや価値観を築くための模索が続く時代となるでしょう。自動車が登場したときに交通ルールが生まれたように、AIが社会の主役級テクノロジーとなる未来を見据え、法制度や倫理基準、社会インフラの再整備を急ぐ必要があります。
「夜には不安があり、朝には笑顔で迎える」という孫正義氏の一言は、ある種の象徴でもあります。巨大なリスクを伴う新技術に取り組むとき、悩みや恐怖は必ず付きまといます。しかし、その先にある変革の可能性を信じ、自らのビジョンを形にしようとする姿勢こそが、世界を動かしていく原動力なのかもしれません。
AIの時代は、すでに幕を開けています。私たちがこれから直面する変化は、予想をはるかに超えるスピードで進むでしょう。だからこそ、孫正義氏のように「先を見据えて思い切った行動を取る」姿勢が重要となるのです。本記事が、AI革命の行方やビジネス戦略、あるいは個人のキャリアまで、今後の指針を考えるための一助になれば幸いです。
本インタビュー映像は、YouTubeの公式チャンネルに「CNN’s Richard Quest Speaks with Masayoshi Son about Artificial General Intelligence at #fII8 #AI」というタイトルで公開されています。実際のやり取りを視聴することで、孫正義氏の熱量やクエスト氏の突っ込みをリアルに感じられます。気になる方はぜひチェックしてみてください。AIが本格的に社会を変革する時代がすぐそこまで来ている——その実感を得られる内容となっています。