こんにちは、エンジョイ経理編集長です。私はこれまでIT大手上場企業の財務経理幹部として長年携わってきましたが、いざ「法人設立後にやるべきこと」を聞かれると、思いのほか多岐にわたり驚かれる方も少なくありません。とはいえ、どれも大切なタスクです。やり忘れがあると、のちのち大きなトラブルになる可能性があります。そこで本記事では「法人設立後にやるべきこと」を網羅し、税理士の先生から教わった知見とともにわかりやすく解説します。
本記事を読めば、法人設立してすぐにやるべき手続きや注意点、税務や社会保険のポイント、さらに節税のヒントまで一通り理解できます。ぜひ最後までご覧ください。
【結論・ポイント先出し】法人設立後にやるべきこと10選
- 必要書類(履歴事項全部証明書・印鑑証明書など)の取得
法人として正式に事業を始めるうえで必要不可欠。銀行口座開設や各種契約に必須。 - 法人銀行口座と法人クレジットカードの開設
資金管理とビジネス決済をスムーズに進めるために必ず用意。融資を見据えて地銀や信金に口座を作るのもポイント。 - 社会保険・労働保険の加入手続き
役員・従業員の福利厚生と法律順守のため必須。新規適用届や資格取得届を忘れずに提出する。 - 税務関連届出(法人設立届や青色申告の承認申請など)
税金面の優遇や適切な申告のために必須。都道府県・市町村への届出も忘れずに。 - 資金調達(創業融資・補助金の活用)
創業時は実績でなく事業計画で評価されやすい。補助金や助成金の制度も確認を。 - 会計システム・電子帳簿保存の導入
クラウド会計を使うと記帳作業が自動化され大幅効率UP。電子帳簿保存法にも対応可能。 - 各種規定の整備(旅費規定・就業規則など)
出張手当や人事制度を整えておくことで、会社と従業員双方にメリット。助成金要件にも関わる。 - 設立前費用を「創立費」として管理
設立前の支出も適切に処理すれば節税の余地あり。どのタイミングで費用化するか戦略を立てよう。 - 役員報酬・事前確定届出給与(役員賞与)の検討
役員報酬は原則年1回しか変更できず、商用を出すなら事前の届出が必要。キャッシュフロー管理に必須。 - その他の節税策(社宅・社用車など)の導入検討
法人名義で契約すれば費用計上も可能。役員・従業員の負担軽減にも繋がる。

はじめに:法人設立直後は何を優先すべきか
法人設立後は、何から手を付ければいいのかわからないという方が多いです。しかし、優先順位を整理すると比較的スムーズに進みます。最初にやるべきは必要書類の確保と法人口座の開設。この二つを済ませないと、他の業務も滞ってしまうからです。
また同時に大切なのが、税務署・自治体への各種届出や社会保険・労働保険への加入手続き。設立時は総務的な作業が多く、普段あまり経験しない作業もありますが、着実にこなすことで後々のリスク回避に繋がります。
Step1:必要書類の取得と印鑑の準備
履歴事項全部証明書(登記簿謄本)と印鑑証明書
会社設立が完了すると、法務局から書類を取得できるようになります。代表的なのは「履歴事項全部証明書(いわゆる登記簿謄本)」と「法人の印鑑証明書」です。これらは銀行口座開設や主要な契約時に必ず求められるため、複数枚まとめて取得しておくと便利です。
- 履歴事項全部証明書(登記簿謄本)
会社名・本店所在地・目的・代表者名などが記載されたもの。金融機関や取引先との契約でほぼ間違いなく提出を求められます。 - 法人の印鑑証明書
会社の代表印(法人実印)を証明する書類。公的な契約や融資契約などのタイミングで必要。
法人印の追加作成(銀行印・認印・角印など)
法人設立登記時には代表印(法人実印)を登録しますが、業務ではその他の印鑑も用意すると効率的です。
- 銀行印
銀行口座で使用する印鑑。代表印と兼用も可能ですが、セキュリティ上分けるケースが多いです。 - 社判・角印
請求書や領収書などに押す企業のスタンプ。角印と呼ばれる四角い印鑑が一般的。 - 認印
社内用など簡易的な押印に利用。電子データでのやりとりが増えたとはいえ、紙ベースの手続きも残っているので用意すると安心です。
電子印・電子署名の導入
近年は電子契約が増えています。印紙税が不要であったり、保管コストも削減できるなどメリットが大きいので、法人用電子印や電子署名の準備を検討するとよいでしょう。あわせて、電子契約サービス(クラウドサインなど)を導入すれば、契約締結の手間が大幅に減ります。
Step2:銀行口座開設と法人クレジットカードの申込
法人口座開設の重要性
法人として事業を進める場合、法人名義の銀行口座は必須です。資金管理を個人口座で済ませてしまうと会計処理が煩雑になるだけでなく、信頼性の面でも不利になります。また金融機関の審査は個人口座開設よりも厳しく、1~2週間ほど審査期間がかかることも珍しくありません。書類不備がないよう準備しましょう。
法人口座を作る際のポイント
- 地銀・信用金庫
将来的に融資を検討するなら、地元の地銀や信用金庫がおすすめ。小額の融資案件にも比較的柔軟に対応してくれる傾向があります。 - メガバンク
全国的に知名度があり使い勝手は良いですが、融資のハードルが高め。 - ネット銀行
振込手数料やATM手数料が安い、ネット操作のしやすさなどが魅力。地方出張や外出先でも簡単に入出金を管理できます。
法人クレジットカードのメリット
法人クレジットカードを持っておくと、経費の支払いが一本化できるため非常に便利です。特に個人カードとの区別ができるため、税務調査でも「プライベートと法人経費が混在しているのでは?」と疑われにくくなります。
- AmexやVISA、Mastercardの法人向けカード
審査スピードやサポート体制が充実。経営者向け特典があるものも多く、クラウド会計システムとも自動連携しやすい。
Step3:社会保険・労働保険の手続き
社会保険の新規適用手続き
会社を設立したら、法人の代表者(役員)を含めて社会保険への加入は必須となります。これは個人事業主と大きく異なる点です。手続きは年金事務所で行います。
- 新規適用届
「どんな事業所が、いつ設立され、どんな人が働いているか」を届け出ます。 - 被保険者資格取得届
役員や従業員が健康保険と厚生年金保険に加入するための届出。従業員を新規で雇うたびに提出が必要です。
労働保険(労災・雇用保険)の手続き
- 労災保険
労働基準監督署で手続きを行い、仕事中や通勤中のケガ・事故に対応。 - 雇用保険
ハローワークで手続きを行い、失業時などに給付を受けられる仕組み。
従業員を雇用する場合は両方とも加入が必要です。法人化して一人社長の場合は労災保険の特別加入なども検討余地があります。
Step4:税務関連届出(法人設立届、青色申告など)
法人設立届の提出(税務署・都道府県・市町村)
法人を設立したら、税務署・都道府県税事務所・市町村役場へそれぞれ「法人設立届」を提出します。税務署だけでなく、地方自治体へも提出が必要なので注意しましょう。
- 税務署
「法人設立届出書」を提出。 - 都道府県税事務所・市町村役場
地方税関連の手続き。提出書類名は自治体によって若干異なる場合があります。
青色申告の承認申請
法人は、適切な手続きを踏めば青色申告が可能です。青色申告の大きなメリットとして、欠損金の繰越控除や繰戻還付、優遇された減価償却などが挙げられます。
- 欠損金の繰越控除(10年間)
1年目に赤字が出ても翌年以降の黒字と相殺できる制度。長期的な節税効果が望めます。 - 欠損金の繰戻還付
今年度赤字で、前年に黒字納税があった場合、前年の法人税が還付される制度。キャッシュフローに大きく貢献します。 - 電子帳簿保存や適正な会計処理
青色申告が認められると信頼性が向上し、金融機関からの評価も高まります。
青色申告の承認申請は原則として設立日から3カ月以内、または事業年度終了日のいずれか早い日までに提出が必要です。遅れないように注意しましょう。
厳選所得税の納期の特例の申請
役員や従業員に給与を支払う場合、給与天引きで預かった源泉所得税は原則毎月納付しなければなりません。しかし、「納期の特例」を適用すれば半年に1回の納付で済むようになります。事務負担を大きく軽減できるので、従業員数が少ない会社には特におすすめです。
Step5:創業融資・補助金活用のポイント
創業融資は「実績」より「計画」が重視される
法人設立1年目は過去の財務実績がないため、通常の融資審査では不利に思えるかもしれません。しかし、日本政策金融公庫などの創業融資制度は、実績ではなく事業計画を重視します。設立直後ほど審査基準が「創業枠」に当てはまるため、比較的融資を受けやすいという特徴があります。
- 融資申込時のポイント
- 事業計画書は具体的に:市場分析、売上予測、資金使途を明確に。
- 自己資金の額:最低でも融資希望額の3分の1程度あると望ましい。
- 創業メンバーの経歴:関連業界での経験があると信用度アップ。
補助金・助成金も要チェック
- 小規模事業者持続化補助金
広告宣伝費やホームページ制作費、人件費、備品購入費など幅広い経費が補助対象に。最大で数百万円単位の補助金を得る可能性があります。 - キャリアアップ助成金
非正規社員を正社員化した場合や賃金を一定額引き上げた場合などに支給される助成金。就業規則の作成や労働条件の整備が要件となることが多い。
補助金や助成金は資金繰りを大きく改善する力がありますが、後払い方式が基本です。まずは自己資金で立て替える必要があるため、計画的に進めましょう。
Step6:クラウド会計と電子帳簿保存法対応
クラウド会計で経理を効率化
法人化すると経理業務も格段に増えます。しかし近年はクラウド会計システム(freee、マネーフォワード、弥生会計オンラインなど)が充実しており、銀行口座やクレジットカードと自動連携することで、手入力の手間が大幅に削減できます。請求書作成や給与計算、決算書作成までサポートしてくれるため、バックオフィスの効率を劇的に向上できます。
- メリット
- リモートワークや出先でもログイン可能
- 自動仕訳機能で手入力ミスを低減
- いつでも数値をリアルタイム把握
電子帳簿保存法への対応
紙の領収書や請求書を7年間保管し続けるのは大変ですが、電子帳簿保存法を満たせば、スキャンや電子データで保管ができます。特に令和4年以降は要件が大きく緩和され、電子データ保存がさらに普及すると期待されています。
- 電子取引のデータ保存
メールで受け取った請求書や、ウェブ上で閲覧する領収書などは電子データのまま保存し、紙で印刷しても「証拠書類」としては不十分になるケースあり。 - タイムスタンプや検索機能
保存の要件として、改ざん防止の仕組みや、すぐに検索できる体制が必要。クラウド会計ソフトが機能を備えていることが多いです。
Step7:旅費規定・就業規則など各種規定の整備
旅費規定で出張手当を有利に運用
経営者や従業員が出張する場合、旅費規定を作って出張手当(日当)を支給すると、支給金額に所得税や社会保険料がかからないケースがあります。給料として上乗せすると課税対象になりますが、「出張手当として支給する」形をとれば、実質的な手取額が増えるため、従業員のモチベーションアップや法人の社会保険料軽減にもつながります。
- 旅費規定のポイント
- 日当金額を明確に設定
- 支給条件(出張日数・距離など)を明確化
- 会社の経営規模や業種に合ったルール策定
就業規則作成でトラブル防止と助成金活用
- 就業規則のメリット
- 従業員の労働条件やルールを明文化して紛争を防止
- 助成金の申請要件として就業規則が必須なことが多い
- 会社が大きくなる前にルールを整備しておくことで混乱回避
労働基準法では従業員が10名以上の場合に就業規則の作成・届出義務がありますが、従業員が少なくても、会社と従業員双方にメリットがあるため、早めの策定がおすすめです。
Step8:設立前費用の「創立費」計上
法人設立前に支払った、登記関連費用や調査費用、広告費などは「創立費」として計上可能です。この「創立費」は一括償却、もしくは任意のタイミングで費用化できるため、節税戦略上大変便利です。例えば、1期目が赤字の場合はあえて費用計上せず、将来的に黒字になったタイミングで費用に落とすことができます。
- 対象となる主な費用例
- 定款認証費用、登録免許税
- 設立のための広告宣伝費
- 設立手続きのための交通費、通信費
- 各種書類の取得費など
ただし、プライベート寄りの費用や営業活動と無関係な支出は対象外となるのでご注意ください。疑わしい場合は税理士に確認するのが安心です。
Step9:役員報酬・役員賞与の設定
役員報酬は原則として年1回の変更のみ
法人では、代表取締役や取締役に払う役員報酬を自由に変更できるわけではありません。事業年度開始後3カ月以内で定めた金額を固定して支給し、それ以外の時期に増減すると税務上の損金扱いが否認される場合があります。よくあるのが「税金が思ったより高くなりそうだから途中で役員報酬を下げる」ケースですが、認められないことがほとんどです。
- ポイント
- 初年度は収益が不安定になりがちなので、慎重に設定する
- 社会保険料の負担も考慮し、支給総額をシミュレーション
- 固定報酬でなく、事前確定届出給与(役員賞与)を活用するプランも
事前確定届出給与(役員賞与)のメリット
一般的に役員賞与は損金扱いされません。しかし、「事前確定届出給与」として税務署に事前に届け出しておけば、役員賞与も損金算入が認められる可能性があります。これにより、業績が好調な年はボーナス的に役員賞与を出し、不調な年は支給を見送るなど、キャッシュフローの柔軟性が高まります。
Step10:その他の節税策(社宅・社用車など)
社宅制度
法人で住宅を契約(または購入)し、それを役員・従業員に社宅として貸与すると、一定の家賃負担を超える部分を法人が負担しても課税対象になりにくいメリットがあります。結果として、役員や従業員の手取りが増え、会社側も税務上の経費計上が増える可能性があります。
- メリット
- 個人の住宅費を大幅に節約
- 法人の経費化で法人税を節税
- 社宅がある会社として求人にもプラス要素
ただし、高級物件や面積が大きすぎる場合には、税務署に否認されるリスクもあるため、適正範囲を守りましょう。
社用車の導入
会社名義で自動車を購入またはリースすると、減価償却費やリース料、維持費を法人経費にできます。社用車として活用することで業務効率が上がるうえ、節税にも繋がります。
- 注意点
- 役員・従業員のプライベート利用部分は経費に計上できない
- 高級車などは合理性が問われるため慎重に
- 自動車税・自動車保険を法人名義に切り替える
車種や使用目的に応じてシミュレーションし、最適な導入方法を検討しましょう。
まとめ:法人設立後にやるべきことを着実に進めよう
法人設立後は、書類取得や口座開設などの基本手続きから、保険加入、税務届出、資金調達、社内規定の整備、会計システム導入など、本当に多くのタスクがあります。しかし、1つ1つ着実にこなしていけば、それぞれが将来のリスク回避と経営効率アップ、さらには節税効果につながります。
特に初年度は、事業の軌道に乗せることに注力しがちですが、青色申告や社会保険などの法定手続きを怠ると、後々に大きなペナルティが発生する可能性があります。余裕がなくても、専門家(税理士や社労士など)の助言をうまく活用し、確実に進めましょう。
外部リンク:
国税庁「法人の設立に関する手続」
免責事項
本記事の内容は、執筆時点での一般的な法令・制度に基づき、エンジョイ経理編集長が顧問税理士に確認しながらまとめたものです。実際の税務・会計・労務手続きは、個別の事情や最新の法改正によって適用が異なる場合があります。本記事が提供する情報はあくまで一般的な知識共有を目的としたものであり、正確性・完全性を保証するものではありません。最終的な判断や手続きは、必ず専門の税理士・社労士・弁護士などにご相談ください。
法人設立後の各種手続きには期限があるものもあり、遅延や不備が生じると罰則やペナルティの対象になる場合がありますので、十分ご注意ください。なお、本記事の内容を利用したことにより生じるいかなる損害についても責任を負いかねます。必ず最新情報をご確認のうえ、自己責任でご対応ください。
以上が「法人設立後にやるべきこと」の解説です。一つひとつ確実に対処し、万全の体制で新たな法人経営をスタートさせましょう。わからないことがあれば、ぜひ税理士や社労士、行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。