税効果会計×法人税申告書×別表4・5がもう大丈夫になる!実務で本当に必要なことだけを徹底解説

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別表4と別表5だけでは見えない税効果:純資産項目に着目した税効果会計の重要性 税効果会計
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はじめに|別表4・5だけ見ていませんか?それ、危険です

「税効果会計って複雑そう…」「法人税申告書の別表4と別表5(1)で差異を確認すれば、それで十分でしょ?」

経理や税務に携わる中で、このように考えている方も少なくないかもしれません。日々の業務に追われる中で、申告書の数字を頼りにしたくなる気持ちは、本当によくわかります。

しかし、その確認方法だけでは、実は重要な税効果会計の処理を見落としてしまうリスクがあるのです。なぜなら、公表されている会計基準や税務申告書のルールに照らし合わせると、別表4・5だけでは捉えきれない税効果が存在するからです。

これらの別表には直接現れない“隠れた税効果”を見逃してしまうと、必要な会計処理が漏れ、結果として財務諸表の信頼性を損なうことにも繋がりかねません。

この記事では、会計初心者の方から経験豊富な実務家の方まで、「これで税効果会計はもう大丈夫!」と自信を持っていただけるよう、税効果会計の本質と、特に見落としがちな「別表に出てこない税効果」について、会計基準や税法の規定に基づきながら、実務で本当に必要な知識を分かりやすく解説していきます。

【結論】別表4・5だけでは税効果会計を完全にカバーできない理由

まず結論からお伝えします。法人税申告書の別表4と別表5(1)のチェックだけで税効果会計を終わらせるのは、会計基準や税法の観点から見ても不十分であり、リスクが伴います

その理由は明確です。

理由:別表4・5(1)は、国税庁の定める記載要領にもある通り、主に「損益計算書(P/L)上の利益」を基礎として、税法上の調整を行い「課税所得」を計算するための書類だから

つまり、これらの別表が主眼としているのは、あくまで損益計算を通じて発生した項目と、税法上の損金・益金との差異なのです。

  • 別表4: 国税庁の記載要領によれば、「損益計算書に掲げた当期利益…を基として、いわゆる申告調整により税務計算上の所得金額…を計算する」ための明細書です。ここに記載される加算・減算項目は、P/L項目に関連するものが中心となります。
  • 別表5(1): 税務上の利益積立金の期中の増減を管理します。別表4での調整項目(留保項目)などが反映されますが、その源泉はやはりP/Lに関連するものが主体です。

問題となるのは、損益計算書(P/L)を経由せずに、貸借対照表(B/S)の純資産の部に直接計上される項目です。 代表例である「その他有価証券評価差額金」などのその他の包括利益(OCI)に関連する項目は、別表4・5(1)の計算プロセスには直接的には含まれません。しかし、これらの項目も将来の課税所得に影響を与える「一時差異」を生じさせる可能性があり、会計基準(適用指針)では税効果会計の適用対象とされています。

税効果会計とは何か?基本をざっくり整理しよう

ここで、税効果会計の基本的な考え方を確認しておきましょう。

そもそも「税効果会計」とは?

税効果会計とは、「会計上のルールで計算した利益」と「税法のルールで計算した課税所得」との間に生じる一時的なズレ(一時差異)に着目し、そのズレが将来解消されたときに生じる税金への影響額(増減)を、あらかじめ財務諸表(主に貸借対照表)に繰延税金資産または繰延税金負債として計上する会計処理です。

これは、損益計算書における「税引前当期純利益」と「法人税等」の期間的な対応関係をより合理的に示すとともに、企業の財政状態を適切に表示するために、会計基準によって求められています。

ズレには2種類:「一時差異」と「永久差異」

会計上の利益と税法上の課税所得のズレ(差異)は、会計基準において以下の2つに明確に区別されます。

種類説明具体例税効果会計の対象
一時差異会計上と税法上の認識タイミングの違いなどにより生じ、将来解消される差異。減価償却超過額、引当金繰入超過額、その他有価証券評価差額金など対象
永久差異税法上の損金不算入・益金不算入など、永久に解消されない差異。寄附金の損金不算入、交際費等の損金不算入、受取配当等の益金不算入対象外

税効果会計の対象となるのは、このうち「一時差異」のみです。「永久差異」は将来にわたって税額への影響が変動しないため、税効果を認識する必要はありません。

一時差異と繰延税金資産・負債

一時差異は、それが将来解消されるときに、税金の支払額を増減させる効果を持ちます。会計基準(適用指針)では、この効果に応じて以下のように処理します。

  • 将来減算一時差異:将来、解消されるときに税金が減る効果を持つ差異。
    • 例:賞与引当金繰入超過額(会計上の費用計上額が、税法上の損金算入時期より早い)
    • → 将来の税金が減る効果を、「繰延税金資産」として資産計上します。
  • 将来加算一時差異:将来、解消されるときに税金が増える効果を持つ差異。
    • 例:その他有価証券評価益(会計上の評価益計上時期が、税法上の益金算入時期より早い)
    • → 将来の税金が増える影響を、「繰延税金負債」として負債計上します。

このように、一時差異の内容を分析し、将来の税金への影響を予測して繰延税金資産・負債を計上することが、税効果会計の基本的なプロセスです。

法人税申告書の別表4・5(1)で把握できる税効果は一部だけ

法人税申告書の別表4と別表5(1)は、税効果会計の対象となる一時差異、特に損益計算に関連して生じるものを把握する上で、確かに重要な役割を果たします。

  • 別表4: P/L上の利益と課税所得の差異(申告調整項目)を明らかにします。ここに記載される加算(留保)や減算(留保)の多くは、一時差異に該当します。
  • 別表5(1): 税務上の利益積立金の増減を管理し、期末時点での留保項目(一時差異の累積額など)の残高を示します。

これらの情報から、減価償却超過額や各種引当金の繰入超過額といった、P/L由来の主要な一時差異の多くを特定し、税効果計算の基礎とすることができます。

しかし、繰り返しになりますが、これらの別表は損益計算書を経由しない純資産直入項目(OCI関連など)から生じる一時差異を直接的に示すものではありません。 そのため、別表だけを頼りにしていると、重要な一時差異を見落とすリスクがあるのです。

【最重要】別表に出てこない税効果会計の代表例とその理由

では、具体的にどのような純資産項目が別表4・5(1)には現れにくく、税効果会計の検討が必要(または不要)なのでしょうか? 会計基準(適用指針)の考え方に基づき、代表的な例を整理します。

項目税効果 必要性理由(会計基準・適用指針に基づく考え方)
その他有価証券評価差額金必要会計上は期末時価で評価し評価差額を純資産に計上しますが、税法上は売却等まで課税されません。この評価差額は、将来、売却等により差額が実現した際に課税所得に影響を与えるため、会計基準(適用指針)では一時差異として税効果会計の対象とすることを求めています。
繰延ヘッジ損益原則、必要ヘッジ会計(繰延ヘッジ)適用時、ヘッジ手段(デリバティブ等)の評価差額等を純資産に計上しますが、これも将来、ヘッジ対象の損益が認識される際に課税所得に影響を与えると考えられるため、原則として一時差異に該当し、税効果会計の対象となります。
退職給付に係る調整累計額必要(な場合あり)IFRSや、日本基準でもOCIを通じて認識する方法を採用している場合、数理計算上の差異等のうち当期費用未処理分が純資産に計上されます。これらは将来的に費用認識(損金算入)される部分に対応するため、一時差異として税効果会計の対象となる場合があります(採用する会計処理方法によります)。
為替換算調整勘定原則、不要在外子会社等の外貨建財務諸表を連結・決算する際の換算差額です。会計基準(適用指針)によれば、在外子会社等への投資に係る換算差額は、その投資が清算されるなど特殊な場合を除き、将来解消が見込まれる一時差異とは通常考えられないため、原則として税効果会計の対象外とされています。
自己株式及び自己株式処分差損益不要自己株式の取得・処分は、会計上も税法上も資本取引とされ、損益(課税所得)には影響を与えません。したがって一時差異は発生せず、税効果会計の対象外となります。

特に「その他有価証券評価差額金」と「繰延ヘッジ損益」は、多くの企業で発生しうる項目でありながら、別表4・5(1)からは直接読み取れないため、意識的なチェックが不可欠です。貸借対照表の純資産の部にこれらの項目が表示されていたら、必ず税効果会計の要否を検討してください。

どう判断する? 評価差額に対する税効果(繰延税金資産・負債)の考え方

「純資産項目に税効果が必要なのは分かった。では、評価益が出たら繰延税金負債? 評価損なら繰延税金資産? その判断ロジックは?」

この判断は、会計基準(適用指針)で明確に定められています。 ポイントは、「その一時差異が将来解消されたときに、税金を増やすか、減らすか」です。その他有価証券評価差額金を例に、基準に基づいた考え方を見てみましょう。

評価差額の状況 (期末時点)会計基準に基づく一時差異の分類税効果会計の考え方(計上するもの)
評価益 が出ている(純資産が増加)将来加算一時差異 に該当する可能性将来、売却等により益金として認識され、税金が増える要因。 → 会計基準に従い、繰延税金負債 を計上します。
評価損 が出ている(純資産が減少)将来減算一時差異 に該当する可能性将来、売却等により損金として認識され、税金が減る要因。 → 会計基準に従い、繰延税金資産 を計上します。 ※ただし、将来の税金負担額を減額させる効果(回収可能性)の慎重な検討が必要
  • 評価益は、将来の課税所得を増やす要因(将来加算一時差異)なので、繰延税金負債を計上します。
  • 評価損は、将来の課税所得を減らす要因(将来減算一時差異)なので、繰延税金資産を計上します。

重要な注意点として、繰延税金資産を計上する際には、将来、その税金減額効果を実際に享受できるだけの課税所得が見込めるか、という「回収可能性」を慎重に評価する必要があります。これは会計基準でも要求されており、回収が見込めない部分については繰延税金資産を計上できない、または減額する必要があります。

税効果会計仕訳の具体例(その他有価証券評価差額金の場合)

その他有価証券に評価益(将来加算一時差異)が発生し、繰延税金負債を計上する際の仕訳例です。

前提:

  • その他有価証券の評価益が 1,000,000円 発生。
  • 法定実効税率は 30% とする。

ステップ1:時価評価の仕訳(会計処理)

借方金額貸方金額
その他有価証券1,000,000その他有価証券評価差額金1,000,000

ステップ2:税効果会計の仕訳(会計基準に基づく処理)

  • 評価益(将来加算一時差異)に対し、繰延税金負債を計上。
  • 税効果額 = 一時差異 1,000,000円 × 税率 30% = 300,000円
借方金額貸方金額
その他有価証券評価差額金300,000繰延税金負債300,000

会計基準上の重要なポイント:

損益計算書項目に係る税効果では、相手勘定科目が「法人税等調整額」(P/L科目)になりますが、その他の包括利益(OCI)など純資産の部に直接計上される項目に係る税効果では、会計基準(適用指針)に基づき、原因となった純資産項目(この例では「その他有価証券評価差額金」)を相手勘定として直接増減させます。

この処理により、「その他有価証券評価差額金」のB/S計上額は税引後の純額 700,000円 (1,000,000 – 300,000) となり、「繰延税金負債」が 300,000円 計上されます。この税効果処理は損益計算書(法人税等調整額)には影響を与えません。

見落とし防止のためのチェックリスト(テンプレート付き)

純資産項目に係る税効果の見落としを防ぐための、決算時チェックリストです。

【決算時】純資産項目に係る税効果会計 チェックリスト

チェック項目当期増減額税効果 要否判断 (基準に基づき)税効果 仕訳実施備考(回収可能性など)
その他有価証券評価差額金□ 要 / □ 不要□ 済 / □ 未評価益→負債 / 評価損→資産(回収可能性注意)
繰延ヘッジ損益□ 要 / □ 不要□ 済 / □ 未ヘッジ会計要件確認、基準に照らし判断
土地再評価差額金□ 不要(税法規定)不要
退職給付に係る調整累計額□ 要 / □ 不要□ 済 / □ 未採用する会計処理方法と基準を確認
為替換算調整勘定□ 不要(原則)不要基準に基づき原則対象外
(その他純資産項目)□ 要 / □ 不要□ 済 / □ 未基準に基づき個別に判断

使い方:

  1. 決算整理後(または見込み段階)で、B/S純資産の部の当期増減額を確認。
  2. 各項目について、会計基準・税法に基づき税効果の要否を判断。
  3. 「要」と判断した場合、税効果額を計算し、適切な仕訳(純資産項目と繰延税金資産/負債)が計上されているか確認・実施。
  4. 繰延税金資産計上時は、回収可能性の評価結果も記録。

このリストで「純資産の変動=税効果チェックポイント」という意識を持つことが、見落とし防止の鍵です。

実務での注意点とスムーズな運用のコツ

純資産項目に係る税効果会計をより正確に、スムーズに行うための実務上のヒントです。

  1. 純資産変動の早期把握: 決算前に変動見込みを把握し、関連する会計基準や税法の規定を確認して税効果の要否を検討しておきます。
  2. B/S・包括利益計算書の比較分析: 決算プロセス中に必ず当期と前期のB/S(純資産の部)や包括利益計算書(OCI)を比較し、変動項目、新規発生項目とその原因、税効果の要否をセットで確認します。
  3. 判断根拠の明確化: 「将来課税所得に影響するか?」という基本原則に加え、関連する会計基準(適用指針)のどの部分に該当するのかを意識します。不明な点は必ず専門家や一次情報(基準本文など)で確認します。
  4. 繰延税金資産・負債残高の全体検証: 税効果仕訳計上後、B/S上の繰延税金資産・負債の合計残高が、全一時差異(P/L由来+純資産由来)の内容と整合しているかを検証します(管理表の活用が推奨されます)。
  5. 注記・税務申告書との整合性確保: 財務諸表注記(税効果会計関連)や法人税申告書(別表五(一)等)との間で、一時差異の内容や金額に矛盾がないか確認します。特に純資産項目は管理が煩雑になりがちなので、内部資料等で連携を明確にしておくことが望ましいです。

関連リンク:AI活用で税効果会計を効率化したい方へ

税効果会計の計算や管理は複雑で手間がかかるものです。「もっと効率化したい」という声もよく聞かれます。

近年注目されるChatGPTなどのAI技術は、このような複雑な会計業務のサポートにも活用できる可能性があります。

もしAIを活用した業務効率化に興味があれば、以下の記事も参考になるかもしれません。ChatGPTを用いた税効果会計処理の具体的なアイデアや留意点が解説されています。(※AI利用の際は、出力情報の正確性の検証や機密情報の取り扱いには十分注意が必要です。)

👉 税効果会計 革命マニュアル:バカでもプロでも完璧!ChatGPT(AI)丸投げ術

外部参照元

この記事で解説した内容は、以下の公的な情報源に基づいています。より詳細な規定や具体的な記載方法については、これらの一次情報をご確認ください。

  • 企業会計基準委員会(ASBJ)ウェブサイト (https://www.asb-j.jp/jp/)
    • 「会計基準」セクションにて、「企業会計基準第27号 法人税等に関する会計基準」および「企業会計基準適用指針第28号 税効果会計に係る会計基準の適用指針」等の原文(PDF等)が公表されています。「税効果会計」で検索すると関連基準が見つけやすいです。
  • 国税庁ウェブサイト (https://www.nta.go.jp/)
    • 「法人税」関連のセクションで、「法人税申告書・地方法人税申告書・添付書類の様式」や、各年度の「法人税申告書の記載の手引」等がPDF形式で提供されています。「別表四」や「別表五(一)」の記載要領もこちらで確認できます。

これらの公式サイトから最新の情報を入手し、理解を深めることをお勧めします。

まとめ:別表だけでは見えない“ズレ”を見逃さない力を身につけよう

今回は、「税効果会計×法人税申告書×別表4・5」をテーマに、特に法人税申告書の別表だけを見ていると見落としがちな「純資産項目に係る税効果」について、会計基準や税法の規定を踏まえながら解説しました。

本日の重要なポイントを再度確認しましょう:

  • 法人税申告書の別表4・5(1)だけでは、税効果会計の全てを網羅できません。
  • その他有価証券評価差額金などの純資産直入項目(OCI)も、会計基準に基づき税効果会計の検討が必要です。
  • 純資産項目に係る税効果仕訳は、法人税等調整額(P/L)を経由せず、純資産項目と繰延税金資産/負債で直接行います。
  • 評価益(将来加算一時差異)には繰延税金負債、評価損(将来減算一時差異)には繰延税金資産(回収可能性検討要)を計上するのが、会計基準に基づく原則的な考え方です。
  • 決算時には、純資産の部の変動を意識的にチェックし、会計基準に照らして税効果の要否を判断することが極めて重要です。

「別表4・5(1)を確認したから大丈夫」という思考停止に陥らず、貸借対照表の純資産の部にもしっかりと目を向け、「この項目に税効果は必要ないか?」と会計基準や税法のルールに基づいて自ら確認する姿勢を持つこと。これが、税効果会計を正確に理解し、実務で「もう大丈夫!」と自信を持つための鍵となります。

この記事が、あなたの税効果会計に関する疑問点を解消し、日々の業務における正確な判断と効率的な処理に貢献できれば幸いです。


免責事項

本記事は、税効果会計及び関連する法人税申告書に関する一般的な情報提供及び知識の解説を目的として作成されたものです。特定の状況における具体的な会計処理や税務申告の方法についてアドバイスを提供するものではありません。

記事の内容の正確性については、公表されている会計基準や税務当局の指針等に基づき万全を期しておりますが、その内容の完全性、正確性、最新性を保証するものではありません。会計基準や税法は改正されることがありますので、常に最新の情報をご確認ください。

実際の会計処理や税務申告にあたっては、個別の具体的な事情に応じて判断が異なる場合があります。したがって、必ず顧問税理士、公認会計士、またはその他の税務・会計の専門家にご相談いただき、その指導のもとで適切な処理を行ってください。

本記事の情報に基づいて被ったいかなる損害についても、執筆者及び運営者は一切の責任を負いかねますので、あらかじめご了承ください。

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