【保存版】固定資産の会計処理・減価償却の基礎と実務ポイント~少額減価償却資産・一括償却資産・定額法・定率法を徹底解説~

固定資産管理実務

固定資産の会計処理・減価償却の基礎と実務ポイント
~少額減価償却資産・一括償却資産・定額法・定率法を徹底解説~



  1. 1. はじめに:固定資産会計の重要性と本記事の概要
  2. 2. 固定資産の区分と判定基準
    1. 2-1. 10万円未満の場合(消耗品費)
    2. 2-2. 10万円以上の場合
    3. 2-3. 黒字決算・赤字決算で変わる処理方針
  3. 3. 減価償却資産の種類と特徴
    1. 3-1. 少額減価償却資産
    2. 3-2. 一括償却資産
    3. 3-3. 通常の固定資産(減価償却資産)
  4. 4. 償却資産税への影響と選択の注意点
    1. 4-1. 10万円以上20万円未満の場合のポイント
    2. 4-2. 黒字決算でも一括償却資産を選択する理由
  5. 5. 固定資産の取得原価の考え方
    1. 5-1. パソコンや周辺機器の取得原価
    2. 5-2. ソフトウェア・システムの取得原価
    3. 5-3. クラウドサービス(サブスクリプション)の取扱い
  6. 6. 減価償却の方法:定額法と定率法の計算実務
    1. 6-1. 定額法の計算式と具体例
    2. 6-2. 定率法の計算式と具体例
  7. 7. 一括償却資産の計算方法
    1. 7-1. 均等償却の仕組み
    2. 7-2. 月割り計算がない点に注意
  8. 8. 法人と個人事業主で異なる減価償却の取扱い
    1. 8-1. 法人の原則と申告不要の任意償却
    2. 8-2. 個人事業主の強制償却と申告要件
    3. 8-3. 建物やソフトウェアの減価償却方法
  9. 9. 決算時に必ず確認すべきポイント
    1. 9-1.税務ソフトなどでの登録と期末簿価の一致
    2. 9-2. 減価償却費の仕訳入力漏れチェック
    3. 9-3. 固定資産台帳の整合性と税務調整
  10. 10. まとめ:適切な固定資産管理がもたらすメリット

1. はじめに:固定資産会計の重要性と本記事の概要

事業を営むうえで必ず発生する「固定資産の購入」や「減価償却」。これらは法人・個人事業主にとって、決算や税金に大きく影響を与える重要な会計処理です。とりわけ、10万円以上の資産をどのように処理するか、あるいは少額減価償却資産・一括償却資産・通常の固定資産(減価償却資産)として計上するかによって、当期の経費計上額や将来の償却資産税に差が生じます。

本記事では、実務ですぐに役立つように、

  • 固定資産の判定基準
  • 減価償却の種類(定額法・定率法・一括償却資産・少額減価償却資産)
  • 取得原価の考え方
  • 法人と個人事業主で異なる取り扱い

などを網羅的に解説します。黒字決算・赤字決算のケースで変わる処理や、月割り計算の具体例も紹介しますので、ぜひ最後までご覧ください。


2. 固定資産の区分と判定基準

2-1. 10万円未満の場合(消耗品費)

まず、最初に判断すべきは「購入した資産が10万円未満かどうか」です。10万円未満の物品は原則として「消耗品費」等で処理できます。この段階では固定資産として計上せず、購入時点で経費処理が可能です。

2-2. 10万円以上の場合

一方で10万円以上の資産は、通常「工具器具備品」などの固定資産勘定に振り替えます。このとき、最終的に

  • 少額減価償却資産(一括で当期費用計上が可能:30万円未満)
  • 一括償却資産(3年間で均等償却:10万円以上20万円未満または20万円未満30万円未満の場合にも選択可能)
  • 通常の固定資産(定額法・定率法で償却)

いずれを選択するかを決算時点で判断する必要があります。

2-3. 黒字決算・赤字決算で変わる処理方針

固定資産をどの方法で償却するかは、会社の決算状況によって変わる場合があります。代表的には以下の考え方が挙げられます。

  • 黒字決算の場合
    → 少しでも課税所得を圧縮したいので、30万円未満の資産はすべて少額減価償却資産として当期費用処理するケースが多い。
  • 赤字決算の場合
    → 損失がすでに大きいので、当期の経費をあえて少なくするために10万円以上20万円未満の資産だけを一括償却資産にして償却費を平準化し、その他(20万円以上)のものは通常通り減価償却に回すケースもある。

3. 減価償却資産の種類と特徴

3-1. 少額減価償却資産

少額減価償却資産とは、1つあたり30万円未満の減価償却資産を一度に全額経費として計上できる特例をいいます。黒字で利益を抑えたいときに有効ですが、将来の償却資産税の課税対象となる点には注意が必要です。

3-2. 一括償却資産

一括償却資産は、10万円以上20万円未満の資産(または一定要件を満たした30万円未満の資産)を3年間で均等償却する方法です。少額減価償却資産と異なり、償却資産税がかからないメリットがあります。一方で、全額を即時経費に落とすわけではなく、3年にわたって定額で費用化する点が特徴です。

3-3. 通常の固定資産(減価償却資産)

通常の固定資産として扱う場合、取得時に資産計上し、耐用年数に応じて定額法または定率法で徐々に費用化します。これはもっともベーシックな方法であり、20万円以上の資産は基本的にこの区分となります。


4. 償却資産税への影響と選択の注意点

4-1. 10万円以上20万円未満の場合のポイント

10万円以上20万円未満の資産は、下記のいずれかを選択可能です。

  • 少額減価償却資産(全額費用処理)
    → ただし、償却資産税が課税される可能性あり。
  • 一括償却資産(3年間均等償却)
    → 償却資産税が課税されない。

通常は、黒字決算では費用を大きくしたいので「少額減価償却資産」として一度に全額費用計上することが多いです。しかし、将来的な償却資産税の負担を考慮して一括償却資産を選ぶ場合もあります。

4-2. 黒字決算でも一括償却資産を選択する理由

黒字決算のとき、即時に経費を計上したいはずなのに、あえて一括償却資産を選択するケースがあります。これは、一括償却資産にすれば償却資産税がかからないためです。たとえば、保有する固定資産が多い場合は償却資産税が大きな負担となります。そのため、数年後までの税負担の総合的なバランスを見たうえで最適な方法を検討する必要があります。


5. 固定資産の取得原価の考え方

固定資産として計上すべき金額(取得原価)は、単に本体価格だけを見ればよいわけではありません。運送料やセットアップ費用など、資産の取得に要した付随費用も含める点が大切です。以下ではパソコンとソフトウェアを例に解説します。

5-1. パソコンや周辺機器の取得原価

パソコン本体だけでなく、ディスプレイ・キーボード・マウスなど、同時に購入して一体となって使用するものは、すべて合わせた金額を取得原価とします。たとえばパソコン一式として30万円なら、それを1つの固定資産としてまとめて計上し、その金額が10万円や30万円のラインを超えるかどうかを判断します。

なお、キーボードやマウスが壊れた場合の買い替え費用など、後日単体で取得した場合は、それぞれ個別の固定資産または消耗品費として処理します。

また、パソコンの初期設定費用や運送費用も、当該パソコンを導入・設置するために不可欠な支出であれば取得原価に含めて計算します。

5-2. ソフトウェア・システムの取得原価

ソフトウェアやシステムの場合も、**買取型(パッケージソフト・ダウンロード型)クラウド型(サブスクリプション)**かによって処理が異なります。

  • 買取型ソフトウェア
    → 購入時の金額を固定資産として計上し、耐用年数をもとに減価償却を行う。1アカウントごとに計算するケースも多い。
  • クラウド型(年間利用契約・月額契約)
    → 利用料として、支払った段階で費用処理(支払手数料や外注費など)されるケースが原則。

5-3. クラウドサービス(サブスクリプション)の取扱い

会計ソフトやグループウェアなどのクラウドサービスを利用している企業も多いでしょう。基本的に**クラウドサービスのサブスク料金は経費計上(支払手数料または通信費等)**となり、減価償却資産には該当しません。1年分まとめて先払いするケースでも、月割りなどの手続きを経て期間按分で費用に落とすのが一般的です。


6. 減価償却の方法:定額法と定率法の計算実務

6-1. 定額法の計算式と具体例

定額法は、毎年同額を費用化する単純な方法です。
計算式の基本形は以下のとおりです。

減価償却費 = 取得価額 × 償却率(定額法) × 月数按分

たとえば12月決算の法人が、7月に30万円のパソコン(耐用年数4年)を購入したケースを考えます。

  1. 耐用年数4年の償却率(定額法)は0.25
  2. 1年間の減価償却費30万円 × 0.25 = 7万5,000円
  3. 取得初年度は使用月数が7月~12月の6か月間なので、 7万5,000円 × 1/2 = 3万7,500円 が当期の減価償却費となります。
  4. 2年目以降は基本的に12か月フルで償却するため、7万5,000円が毎期計上されますが、最終年度には備忘価額1円を残して償却する形となります。

6-2. 定率法の計算式と具体例

一方、定率法は初期の償却費が大きく、年数が経つにつれて償却費が減少していく方法です。
計算式は以下のとおりです。

減価償却費(調整前)= (取得価額 - 累計減価償却費) × 償却率(定率法)

ただし、ある段階で「改定償却率」という別の率を用いて計算する必要があります。これは、償却費が小さくなりすぎて「備忘価額1円」に到達しないと判断される年度から切り替えるためです。

先ほどと同じく、**30万円のパソコン(耐用年数4年、7月取得、12月決算)**を例にすると、

  1. 耐用年数4年の定率法の償却率は 0.50(取得時期:平成24年1月1日以降)
  2. 初年度の定率法による計算30万円 × 0.50 = 15万円 これに月数按分(7月~12月=6か月)を加味すると、 15万円 × 1/2 = 7万5,000円 が初年度の減価償却費(調整前)となります。
  3. しかし、定率法には「除却保証額」という概念があり、あまりにも初期に大量に償却すると残存簿価が割り込んでしまうリスクがあるため、改定償却率というものを適用して再計算する場合があります。

具体的な数値は実務で税務ソフトや便利帳を使って算出しますが、大まかな流れは以上のように「初期は大きく償却して、途中から償却率を切り替えて最終的に1円残す」形となります。


7. 一括償却資産の計算方法

7-1. 均等償却の仕組み

一括償却資産は、取得価額を3年間で均等に費用化します。たとえば、12月決算の法人が7月に28万円の資産を取得した場合でも、初年度に月割りがないのが特徴です。

具体的には、7月取得であっても初年度は3分の1、翌年も3分の1、そして翌々年にも3分の1と、各年度で同額を償却します。結果として、耐用年数という概念は用いず、3年ですべての取得価額を費用化し、備忘価額は残らないのが通常の固定資産との大きな違いです。

7-2. 月割り計算がない点に注意

定額法や定率法では通常、取得月から期末までの使用月数分を按分して償却費を計上します。しかし、一括償却資産では取得時期にかかわらず、年割りによる償却を行うため、取得初年度は必ず1年分の3分の1を計上します。これが定率法や定額法と大きく異なるポイントです。


8. 法人と個人事業主で異なる減価償却の取扱い

8-1. 法人の原則と申告不要の任意償却

法人が固定資産を取得した場合、原則として定額法か定率法を任意に選択できます。建物や構築物については定額法だけが認められ、車両運搬具や機械装置、工具器具備品は定率法が認められるなど、資産の種類によって原則が決まっていますが、税務署への届出を行えば償却方法を変えることも可能です。

また、任意償却といって、減価償却費を計上しなくても(=申告しなくても)将来に繰り越される(法人税法上は翌期に未償却残高として残る)という扱いになります。つまり、償却不足額があっても切り捨てられないのが法人の特徴です。

8-2. 個人事業主の強制償却と申告要件

個人事業主の場合は、法人と違って「強制償却」が原則です。つまり、減価償却費を計上しなかった場合でも、未償却残高を翌年に持ち越すことはできず、償却費として計上しなかった分は“切り捨て”になる点に注意しましょう。結果として、本来の経費を計上し損ねてしまい、税額が増えてしまう可能性があります。

8-3. 建物やソフトウェアの減価償却方法

建物や建物附属設備、構築物、ソフトウェアは、法人・個人事業主いずれも定額法が原則です。ソフトウェアは“無形固定資産”ではありますが、法人・個人にかかわらず耐用年数を決めて計算する点は共通しています。


9. 決算時に必ず確認すべきポイント

9-1.税務ソフトなどでの登録と期末簿価の一致

税務ソフトなどを利用している場合、決算書上の期末簿価ソフトで計算された期末簿価が一致しているか必ず確認しましょう。減価償却費の計上ミスや仕訳入力漏れ、また償却費の増減処理の手違いがあると、後々修正申告などの手間がかかります。

9-2. 減価償却費の仕訳入力漏れチェック

現場レベルでありがちなのが、減価償却費の仕訳をそもそも入力していなかったケースや、償却額を間違えていたケースです。特に個人事業主でクラウド会計ソフトを使っている場合、プログラムが自動的に計算すると思い込み、実際は設定ミスで反映されていない、ということもあります。決算前に必ず台帳と仕訳を照合しましょう。

9-3. 固定資産台帳の整合性と税務調整

固定資産台帳には、取得価額・取得年月日・耐用年数・償却率・期首帳簿価額・当期償却費・期末帳簿価額などを明確に記載し、毎期ごとに更新していきます。台帳と決算書の数字、そして税務申告書の別表十六(減価償却費の明細)などが連動しているかどうかを確認しておくと、修正申告や税務調査でのトラブルを防止できます。


10. まとめ:適切な固定資産管理がもたらすメリット

固定資産の会計処理と減価償却は、法人税や償却資産税を左右するだけでなく、キャッシュフローの見通しにも大きく影響します。黒字決算では少額減価償却資産を活用し、可能な限り当期の費用計上を増やして課税所得を圧縮するのが一般的です。一方、赤字決算や将来的な償却資産税の負担を考慮すると、一括償却資産や通常の減価償却を選ぶ方がトータルで有利になる場合もあります。

また、個人事業主か法人か、あるいは建物や構築物・ソフトウェアなど資産の種類によっても、採用できる減価償却方法や扱いが大きく異なるため、常に最新の税制と照らし合わせながら判断することが大切です。とくに、耐用年数や償却率の改定は過去にも何度か行われており、使用する「税務ソフトや便利帳」のバージョンが古いと、誤った計算になるおそれがあります。

正しく固定資産を管理することで、

  • 税務リスクの低減
  • 資金繰りの安定化
  • 経営判断の迅速化

といったメリットを得られます。経理担当者や税理士と連携しながら、適切なタイミングで適切な処理を選択し、資産台帳と決算書の数字が一致しているかをこまめにチェックしていきましょう。

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