
会社設立後の消費税を徹底解説!
最長2年間免税になる仕組み
インボイス制度の対応方法
はじめに
会社を新しく設立したときに、まず気になるのが「消費税の支払いはいつから始まるのか」という点です。実は、法人を設立してから最長2年間は、一定の条件を満たせば「消費税の納税義務(申告義務)が免除(いわゆる免税事業者)」になる仕組みがあります。しかしながら、資本金や売上高、あるいはインボイス制度(適格請求書等保存方式)の導入状況次第では、1期目や2期目から消費税の申告義務が発生してしまうケースもあるため注意が必要です。
本記事では、会社設立後の最長2年間が消費税免除となるメカニズムを中心に、免税事業者と課税事業者の違い、例外的に1期目や2期目から消費税の申告義務が発生するケース、そして2023年10月に導入されたインボイス制度と消費税申告義務の関係について、詳しく解説します。これから会社を設立しようと考えている方や、すでに設立して間もない方にとって、重要なポイントをまとめていますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 消費税の基本的なしくみと申告義務
1-1. 消費税の計算構造
消費税は、商品やサービスを提供した際に受け取る「預り消費税」と、仕入れや経費を支払うときに支払う「支払消費税」の差額によって納付額(または還付額)が決まる税金です。事業者は、通常以下の計算式で消費税の納付(または還付)を求めます。
納付消費税額 = 預り消費税(売上にかかる消費税) – 支払消費税(仕入・経費にかかる消費税)
売上に対して預かった消費税のほうが支払った消費税よりも大きければ、差額を納税します。逆に、設備投資などで支払消費税が大きく上回る場合は、差額を税務署から還付してもらうことが可能です。
1-2. 申告義務とは
消費税の申告義務がある事業者を「課税事業者」、申告義務がない事業者を「免税事業者」と呼びます。
- 課税事業者:消費税を申告・納税する必要がある
- 免税事業者:消費税を申告する必要がない(納税もしないが還付も受けられない)
課税事業者であれば、先ほどの計算式で納税義務が発生する場合もあれば、設備投資が多いときには還付を受けられる可能性があります。一方、免税事業者は納税義務を免除される代わりに、支払消費税が多かったとしても還付を受け取ることはできません。
2. 免税事業者と課税事業者の違い
2-1. 免税事業者
免税事業者は「消費税の申告義務が発生しない」事業者のことです。したがって、消費税の申告書を税務署に提出する必要がありません。納付する義務がない一方、支払消費税が多かったとしても還付を受けることはできない、という点が最大の特徴です。
2-2. 課税事業者
課税事業者は「消費税の申告義務がある」事業者です。預り消費税と支払消費税を差し引いた結果、納付するケースもあれば還付を受けるケースもあります。
- メリット:大きな設備投資を行った場合などに還付を受け取れる可能性がある。
- デメリット:納付額が出れば税金を支払わなければならない。
どちらが得かは一概には言えず、事業形態や売上・経費のバランスによって変わります。
3. 会社設立後に最長2年間免税事業者になれる理由
消費税の納税義務は、原則として「2期前(個人事業者なら2年前)の課税売上高が1,000万円を超えているかどうか」で判定されます。会社を新設した1期目・2期目には当然「2期前」が存在しないか、または売上ゼロとみなされるため、1,000万円を超える過去の売上実績がありません。
そのため、通常は1期目と2期目は免税事業者として扱われ、消費税の申告義務が発生しないというのが基本ルールです。
- 1期目:過去の実績がないため必然的に免税。
- 2期目:1期目の売上実績しかなく、その1期目が1,000万円以下ならば免税。
もっとも、後述する「資本金1,000万円以上」や「特定期間の特例」などの条件に該当すると、1期目あるいは2期目でも課税事業者として消費税の申告義務が課される可能性があるため注意が必要です。
4. 1期目・2期目から課税事業者になる例外ケース
1期目と2期目でも免税事業者にならず、課税事業者として消費税を申告しなければならないケースが存在します。代表的なものは以下の2パターンです。
4-1. 資本金1,000万円以上の新設法人
「新設法人の特例」と呼ばれる規定により、設立時に登記された資本金が1,000万円以上の場合、その会社は1期目から課税事業者とみなされます。さらに、2期目も同様に課税事業者となります。
- 例:会社設立時に資本金を2,000万円とした場合は、1期目から消費税の申告義務が発生。
ただし、会社法上の資本金と資本準備金(資本剰余金)は異なります。株式会社であれば、募集した出資金を「資本金」と「資本準備金」に振り分け可能です。合同会社の場合はさらに自由度が高く、任意の額を資本金として登記できます。
- 対策例:
- 設立時の資本金を1,000万円未満にしておき、残りを資本準備金として計上する。
- 合同会社の場合、資本金を極端に小さくし(例:100万円など)残りを資本剰余金として扱う。
こうすることで、「新設法人の特例」に引っかからずに1期目と2期目の消費税を免除できる可能性があります。
4-2. 特定期間の特例(前事業年度開始から6ヶ月の売上・人件費)
もう一つの大きな例外が、**「特定期間の特例」**です。これは2期目(以降)に適用される規定であり、1期目の開始日から6ヶ月間の課税売上高または人件費の支払額が基準になります。
- 特定期間:1期目の開始日から6ヶ月間
- 判定基準:
- その期間の課税売上高が1,000万円を超えるか、または
- その期間の給与等支払額(役員報酬を含む)が1,000万円を超えるか
いずれかが1,000万円超となった場合、2期目は課税事業者となってしまいます。
ただし、この判定基準は「売上」でも「給与支払額」でもよく、売上高または給与支払額のどちらか一方が1,000万円以下であれば、特定期間の特例を回避することが可能です。
- 具体例:
- 1期目前半(6ヶ月)の売上が1,500万円だとしても、同期間の給与・役員報酬支給合計が900万円に収まっていれば、2期目は免税事業者になる。
- 逆に売上1,500万円で給与支給額1,200万円だと、2期目から課税事業者に該当。
ポイントは支払いベースであることです。月末締め翌月25日払いなどの形態であれば、「いつ実際に支払ったか」を基準に合計額を算出します。
5. インボイス制度(適格請求書等保存方式)の影響
2023年10月からスタートしたインボイス制度(適格請求書等保存方式)は、売り手がインボイス発行事業者として登録していないと、買い手側が仕入税額控除を受けられなくなるという大きな変化をもたらしました。これによって、従来は免税事業者として活動していても取引先の都合上、インボイス登録を求められるケースが出てきます。
5-1. インボイス制度とは
インボイス制度とは、消費税の仕入税額控除に必要な書類を「適格請求書(インボイス)」に一本化し、適格請求書発行事業者として税務署に登録した事業者のみが発行できる仕組みです。適格請求書には以下のような記載事項が義務付けられます。
- 事業者名や登録番号
- 取引年月日
- 取引内容・税抜(または税込)金額
- 適用税率ごとの消費税額
- など
買い手(取引先)は、仕入税額控除を受けるために、売り手からインボイスを受領し保存する必要があります。
5-2. インボイス登録と消費税申告義務の関係
インボイス制度で最大のポイントは、インボイス発行事業者として登録した時点で「課税事業者」にならざるを得ないという点です。
- たとえ本来は免税事業者に該当していても、インボイス登録をすると課税事業者になり、消費税の申告義務が発生する。
- そのため、インボイス登録には慎重な判断が必要。
特に、取引先が法人や個人事業主など、仕入税額控除が重要となる相手である場合には、インボイスを要求される可能性が高まります。その一方、エンドユーザーに直接販売するBtoCビジネス(例えば小売りや一般消費者向けサービス)であれば、仕入税額控除の必要性が低いのでインボイス未登録でも取引に支障が出にくいケースがあります。
6. インボイスを登録するかどうかの判断基準
インボイス登録の可否は、事業者によって変わります。以下のような点を考慮して総合的に判断するのが望ましいでしょう。
- 取引先が法人・事業者かどうか
- BtoBが中心であれば取引先からインボイスの発行を求められる可能性が高い。
- BtoCが中心なら、インボイス未登録でも問題が少ない場合がある。
- 消費税の還付を受けたいかどうか
- 多額の設備投資予定がある場合、あえて早期に課税事業者となり仕入税額控除や還付を受ける選択肢もある。
- インボイス未登録による取引機会の損失リスク
- 取引先が消費税の仕入税額控除を重視する場合、未登録だと取引が断られるリスクがある。
- 事務負担やコスト面
- 課税事業者になると消費税申告の手間が増える。
- 顧問税理士の報酬などが上がる可能性も考慮する必要がある。
特にスタートアップ企業や個人事業主から法人成りしたばかりの会社では、創業期のキャッシュフローが不安定なことが多いため、免税事業者として消費税の支出を抑えながら資金繰りを安定させるメリットは無視できません。一方、今後の成長を見据えた際に取引先からインボイスを求められるなら、早めに登録して信頼性を高めることも重要です。
7. 節税ポイントと注意点
7-1. 設立時の資本金設定
前述のとおり、資本金が1,000万円以上であれば1期目から課税事業者になるため、節税の観点では1,000万円未満に抑えるのが一般的です。
- 株式会社の場合、募集した出資金を「資本金」と「資本準備金」に分割してもOK。
- 合同会社の場合はより自由度が高く、資本金を任意の額に設定できる。
7-2. 特定期間の売上と人件費の調整
2期目で課税事業者になるかどうかは**1期目開始から6ヶ月間(特定期間)の「売上」または「人件費」**が1,000万円を超えるか否かで判断されます。
- 売上が1,000万円超えても、人件費が1,000万円以下なら免税事業者のまま。
- 逆に人件費が1,000万円を超えても、売上が1,000万円以下なら免税事業者のまま。
もし1期目の売上増加が見込まれるなら、役員報酬の支給開始タイミングや従業員の給与計算のタイミングなどを工夫し、最初の6ヶ月間における支払い人件費を1,000万円以下に抑える戦略が考えられます。ただし、業種や事業計画によっては調整が難しいケースもあるため、早めに税理士など専門家と相談することが重要です。
7-3. 設備投資や仕入税額控除との関係
免税事業者は支払った消費税が還付されることはありません。創業期に大きな設備投資を予定している場合、あえて課税事業者を選択して仕入税額控除を受け、消費税を還付してもらうという方法もあります。
- 例:大規模な機械装置や内装工事など、多額の消費税がかかる見込み
- 免税事業者だと一切還付を受けられないため、逆に損をする可能性もある
課税事業者選択届出書を提出することで、任意に課税事業者を選択できるため、事業計画や投資計画の時期を見極めたうえで判断するとよいでしょう。
7-4. インボイス登録のタイミング
インボイス登録すると、基本的に課税事業者になります。BtoB取引がメインで、取引先がインボイスを求める場合は早めの登録が求められる一方、BtoC主体であれば必ずしもすぐに登録する必要がない場合もあります。
- 段階的に検討:創業直後は免税事業者としてスタートし、事業拡大や取引先の状況に応じて登録時期を決めるという方法もある。
8. まとめと今後の注意点
会社設立後、最長2年間は原則として消費税の申告義務が免除されます。これは「2期前の課税売上高が1,000万円超かどうか」で判断する仕組みがあるためで、設立時や翌期には過去の実績が存在しないか1,000万円以下とみなされるからです。
しかし、以下のような例外に該当すると、1期目や2期目でも課税事業者として消費税の申告が必要になります。
- 資本金1,000万円以上で設立した場合
- 特定期間(前期開始から6ヶ月)の売上・人件費のいずれかが1,000万円超の場合
- インボイス制度の登録を行った場合
また、2023年10月からのインボイス制度は、インボイス発行事業者として登録した時点で課税事業者となり、消費税の申告義務が生じます。BtoB取引ではインボイスを求められるケースが増える一方、BtoC主体であれば登録しなくても当面は問題が生じにくい場合もあります。
最適な選択は、事業計画・キャッシュフロー・取引先の属性に左右されるため、「免税事業者のままが得か、課税事業者にするべきか」も含めて早めに検討することが大切です。大規模投資を予定しているなら、仕入税額控除や還付を受けるために課税事業者を選んだほうが有利なケースもあり、逆に小規模取引が続くのであれば免税事業者として支払いを抑えるほうがメリットになります。
今後の注意点
- 資本金設定は慎重に
- 設立時に資本金を1,000万円未満に抑えることで、1期目・2期目の免税を確保しやすい。
- 特定期間の売上・人件費の管理
- 設立後、最初の6ヶ月間が重要。役員報酬などを調整することで2期目の免税を守れる可能性がある。
- インボイス登録の要否を見極める
- BtoB取引先が多い場合や取引先から要求される場合は登録を検討。BtoCメインなら免税事業者維持も選択肢。
- 設備投資や仕入税額控除の有無も考慮
- 多額の投資があるなら早期に課税事業者を選ぶメリットも大。
- 専門家への相談
- 税制改正や個別事情によって選択肢は大きく変わる。顧問税理士や専門家と相談して判断を行うことがおすすめ。
まとめ
会社設立後に最長2年間免税事業者になれる背景には、「2期前の課税売上高が1,000万円以下なら免税」という消費税法上の仕組みがあります。しかし、「資本金1,000万円以上」や「特定期間(最初の6ヶ月)の売上・人件費が1,000万円超」などの要件に該当すると、1期目・2期目から課税事業者として申告義務が生じます。
さらに、2023年10月より開始されたインボイス制度(適格請求書等保存方式)によって、インボイス発行事業者に登録した場合は強制的に課税事業者となる点にも注意が必要です。特にBtoB取引で取引先がインボイスを求める場合は、登録しないと取引に不利になる可能性もあります。
最終的には、「いつ消費税を納め始めるか」「還付が見込めるか」「インボイス対応が必要か」などを総合的に判断し、最適なタイミングで課税事業者となるかどうかを決定することが大切です。税制や事業環境は常に変化しているため、顧問税理士などの専門家と相談のうえ、最新の情報をもとに計画的な対策をとるようにしましょう。
【この記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、内容を保証するものではありません。具体的な税務処理については、必ず税理士などの専門家へご相談ください。】