DeNA・AI戦略
南場智子のAI活用最前線
- はじめに
- 1. 南場智子氏の経営理念とAIへの期待感
- 2. DeNAが見据えるAIの本質
- 3. 具体的な活用法:ミーティング効率化と情報収集
- 4. 生成AIとAIエージェントが変える働き方
- 5. 少人数でユニコーンを狙う発想と実例
- 6. 西海岸との比較から見える日本企業の課題
- 7. 組織改革:経営トップが率先する大切さ
- 8. アプリケーションレイヤーへの集中戦略
- 9. DeNA独自のバーティカルAIエージェント構想
- 10. 第2の創業:1990年代後半のインターネット普及期との共通点
- 11. 人材のアップデートと教育への問い
- 12. 全社員が創造的な仕事へシフトする意味
- 13. 投資・事業連携とM&A戦略
- 14. 長期ビジョンとDeNAが目指す未来像
- 15. まとめ
- 16. 免責事項
はじめに
DeNA創業者であり代表取締役会長でもある南場智子氏は、日本を代表するビジネスリーダーの一人として、数々の挑戦を重ねてきた人物だ。近年、AIを活用した組織改革や新規事業への意欲を示す経営者が増える中、南場氏は先頭に立ってAIを導入し、自らツールを使い倒す姿勢で社内外に大きなインパクトを与えている。
本稿では、南場智子氏がどのようにAI技術を捉え、DeNAのビジネスや経営戦略に組み込んでいるのか、その全貌をできるだけ詳しく紹介する。社内における具体的な導入例、少人数でユニコーン級の事業を生み出す可能性、そして今後の組織や社会に対する考え方など、多角的にまとめていく。
さらに、これまでDeNAが培ってきたノウハウを背景に、AIがもたらす業務効率化だけでなく、新しい価値創造や企業文化の変革をどのように同時並行で進めているのかについても深掘りする。今や人と機械が共創する時代となり、企業や個人がどのように成長していけるのかを考えるうえで、南場氏の視点は極めて示唆に富むものだ。
1. 南場智子氏の経営理念とAIへの期待感
DeNAを立ち上げた当初から、南場智子氏は「インターネットで世の中を変えたい」という熱い思いを掲げていた。ネット黎明期に勝負を仕掛け、モバイルゲームやITサービスの分野で大きく飛躍した同社は、そのスピード感や挑戦意欲で多くの企業に影響を与えた。
そして、時代が進むにつれ、クラウド化やスマートフォンの普及など、技術的な変化の波が押し寄せる。DeNAはそのたびに大胆な舵取りを行い、いち早くインフラや組織のアップデートに乗り出してきた。
今、新たな焦点となっているのがAIだ。南場氏はこれを「全ホワイトカラーに共通する新たな変革手段」と位置づけており、個人の生産性向上から企業の意思決定、さらには新しい事業創造まで、あらゆる領域をアップデートできる技術として注目している。
とりわけ重要なのは、経営トップ自らが興奮し、AIの可能性を実体験で捉えている点だ。 そこに本質的なブレイクスルーの種が潜んでいるというのが南場氏の持論でもある。
2. DeNAが見据えるAIの本質
企業がAIを導入する目的は多様だが、南場氏は「単なる効率化」以上のインパクトを求めている。すなわち、組織全体の生産性を引き上げるだけでなく、人間がより想像力や情熱を発揮できる環境を作り出すというビジョンを強く持つ。
DeNAのAI利用が対象とする領域は、以下のように多岐にわたっている。
- カスタマーサポート:問い合わせ対応の迅速化、24時間体制の自動応答
- マーケティング:SNSや動画プラットフォームから消費者動向を掘り下げる
- HR・採用:候補者の応募データ分析やスキルマッチングの自動化
- 法務・経理:文書作成や審査業務の半自動化
- 経営企画:事業データや市場情報の要約と分析サポート
それぞれの分野で、従来なら人が膨大な時間をかけて調べたり、書類を作成したりしていた工程が、大幅にスピードアップする。ただ、それだけなら他の企業でも同様の導入例はあるだろう。
南場氏が強調するのは、「仕事をAI中心に再設計する」ことで得られる抜本的な変化だ。 業務の一部分にAIを組み込むのではなく、プロセスそのものを大きく見直し、合意形成や顧客体験の向上までを視野に入れる。この方法論を社内に広げることによって、まったく新しい価値が生まれると考えているのだ。
3. 具体的な活用法:ミーティング効率化と情報収集
南場氏が経営者としてAIのメリットを感じているのが、ミーティングの事前準備と事後のフォローである。週に何度も行われる会議には、毎回膨大な情報を整理し、相手の考えや経歴を把握する時間が必要となる。
特に初めて会う人物への事前調査では、ウェブの記事やSNS発信、動画コンテンツなど多角的な情報を拾い上げる必要がある。かつてはスタッフが資料をまとめるか、自分で時間をかけてチェックするしかなかったが、現在はAIにURLやテキストを一括入力して要約を生成することで、瞬時に相手が何を重視しているかを把握できるようになった。
会議中の発言や議論についても、録音音声をAIが解析し、議事録や次回までのタスクを自動的にリストアップしてくれる。南場氏自身がそうしたツールを活用し、移動の合間など少しの時間でも意思決定や方向性の確認を行える体制を整えているという。
特に注目すべきは、こうしたツールが「経営者の時間的余裕」を生み出すだけでなく、会議の質そのものを高めている点だ。 目的や論点を明確にし、必要な情報をピンポイントで絞り込みやすくなるため、参加者全員が濃密な議論に集中できる。
4. 生成AIとAIエージェントが変える働き方
チャット形式の生成AIや画像生成などを行うサービスが広まる中、さらに先の展開として注目されるのがAIエージェントの概念だ。単に文書やデータを要約するだけでなく、自律的にタスクを処理し、目的に合わせて最適な行動を学習する。
南場氏は、このAIエージェントこそが今後の働き方を大きく変えると見ている。既にDeNAの内部でも、データ解析や開発支援を自動化する試みが始まっており、担当者が設定したゴールに沿ってエージェントが最適解を模索し続ける仕組みが試験運用されているという。
この新しいツールを上手に使いこなすことで、少人数のチームであっても従来の数倍から数十倍の生産性を実現する可能性がある。 たとえば、ソフトウェアエンジニアがコードの自動生成ツールを活用することで、テストや実装の時間を圧倒的に短縮できるようになる。
5. 少人数でユニコーンを狙う発想と実例
南場氏が西海岸で体感した一つの衝撃が、「10人にも満たない人数で時価総額数千億円を超える企業を生み出せる時代が到来している」という事例だ。AIの力をフルに活用し、開発はもちろんマーケティングから顧客対応まで自動化・半自動化することで、人材不足や大規模投資に縛られない起業家が出現している。
DeNAもこれを受けて、**社内での新規事業創造のチームを10人程度で組成し、AIを駆使して“10人1組でユニコーンを量産する”**という大胆な構想を掲げている。実際に、同社が得意とするスポーツ事業やヘルスケア事業の領域で、AIエージェントの活用による新しいサービスやプロダクトの開発が進んでいる。
ここで肝心なのは「何をどう作るか」だけではなく、人員をどのように配置し、業務プロセスを最適化するかだ。多くの大企業では、部署間の調整や承認フローの複雑さによってイノベーションが進みにくい。それを一挙に解消するには、AI中心の運用設計と少数精鋭チームの組み合わせが不可欠だという考え方が背景にある。
6. 西海岸との比較から見える日本企業の課題
南場氏は長らくシリコンバレーをはじめとするアメリカ西海岸のスタートアップや投資家と交流を続けてきた。そこで感じるのは、AI技術を巡る情報交換のスピードと濃密さが段違いであるという事実だ。
米国では、新たな基盤モデルやツールがリリースされれば、数日のうちに関連コミュニティやカンファレンスで大規模な議論が巻き起こる。さらには、大手企業から優秀な研究者やエンジニアがスタートアップに移り、最先端のノウハウが一気に広がるという流動性の高さも特徴的だ。
一方、日本では、南場氏が出席する経営者の集まりでAIの話題が出ても、「リスクや規制面への懸念」が先に立つケースが少なくないという。もちろん慎重になること自体は悪いわけではないが、あまりにもスピードが異なるため、日本企業全体としてのグローバル競争力に大きな影響を及ぼす恐れがある。
この認識があるからこそ、南場氏はDeNAという舞台を使って、社内外の人材を巻き込みながらAIにまつわる情報や技術を大胆に取り入れようとしている。
7. 組織改革:経営トップが率先する大切さ
大企業では、現場が先に動き出し、それを経営層が後追いで承認するというフローが一般的な場合が多い。しかし、南場氏はAIシフトにおいてはトップ自らが主導権を握り、先んじて体験し、変化の可能性を実感する必要があると強調する。
AI導入が本格化すると、短期的に見ればコストが増加したり、人材の再配置が必要になったりするリスクがある。だが、この「痛みを伴う変革」を乗り越えた先には、ビジネスモデルのアップデートや劇的な生産性向上が待っている。
こうした組織改革をスムーズに進めるためには、企業の最高責任者が心からAIの可能性を理解し、情熱をもって牽引することが重要だ。 南場氏自身、日頃からAIツールを実践し、そのメリットと課題をリアルタイムで把握する姿勢を見せることで、社内全体を鼓舞している。
8. アプリケーションレイヤーへの集中戦略
AIの産業構造を分解すると、下層にはチップやクラウドインフラがあり、その上にファンデーションモデル(大規模言語モデルなど)が存在する。そして、そのさらに上にアプリケーションレイヤーがある。
南場氏はDeNAの勝ち筋を、このアプリケーションレイヤーに見出している。高額な投資が必要な基盤モデルの領域は、米国や中国の大企業が激しく競争を繰り広げているのが現状だ。しかし、彼らがあらゆる分野のニーズを完全にカバーできるわけではない。
むしろ、エンドユーザーのニーズを直接吸い上げ、それを実装に落とし込めるアプリケーションレイヤーこそがDeNAの得意分野だと考えている。スポーツ関連やヘルスケア、メディカルなど、同社が実績を持つ事業領域であれば、独自の情報資産や業務知識を生かしながらAIを導入しやすい。
9. DeNA独自のバーティカルAIエージェント構想
アプリケーションレイヤーの中でも、特定の業界や業務に特化したバーティカルAIエージェントが注目されている。南場氏は、スポーツや医療分野での運営ノウハウを活用しながら、そこにAI技術をかけ合わせるプロジェクトを推進しようとしている。
たとえば、スポーツチームやイベント運営においては、大量のデータ管理やチケット販売、ファンコミュニケーションなど多岐にわたる作業が日々行われる。これを部分的ではなく包括的にサポートするエージェントを導入すれば、単なる問い合わせ対応以上の効果が得られる。
さらにヘルスケアやメディカル領域では、デリケートな個人情報を扱いつつ、医師や患者のサポートを行う必要がある。ここでDeNAが蓄積してきた実証研究の知見や安全管理の仕組みを応用することで、単なる汎用AIでは到達しにくい高度なサービスを生み出せる可能性が高まる。
10. 第2の創業:1990年代後半のインターネット普及期との共通点
南場氏は、AIがこれから巻き起こす変革を「第2の創業」という言葉で語っている。1990年代後半、インターネットが一般に普及し始めた際、DeNAはここに大きなビジネスチャンスを見出して創業した。
当時も、インターネットであらゆる情報が流通する未来が見えていながら、まだ日常的に使われる段階には至っていなかった。南場氏らは、その黎明期に果敢に勝負し、巨大な市場を切り開いた。
AIの状況もまさに同じだ。 多くの専門家が「数年後、あらゆる企業がAIを導入するのは不可避」と語りながら、現時点で踏み出せていない企業は少なくない。だからこそ、今この段階で投資を行い、社内外の体制を整えることこそが第2の飛躍に直結すると、南場氏は力説している。
11. 人材のアップデートと教育への問い
AIが進化するにつれ、「プログラミングが不要になる」という声も一部で聞かれるが、南場氏はむしろエンジニアの需要は高まり続けると見ている。理由は、AIエージェントを開発・運用・チューニングするには高度な技術と現場の知見が不可欠だからだ。
一方で、エンジニアだけでなく、AIツールを活用して業務を設計できる人材も必要となる。どこにAIを導入すれば効率が上がるのか、どのようなデータを蓄積・分析すれば価値が出るのかを理解し、実行に移せるかどうかがカギを握る。
さらに、日本の教育に対しては、「一律の正解を詰め込むだけではAI時代に対応できない」と警鐘を鳴らす。人間にしか発揮できない創造性や意欲、主体的な課題設定能力こそが、AI普及後にますます求められるという見方だ。
12. 全社員が創造的な仕事へシフトする意味
DeNAが21年頃にクラウドシフトを完了したとき、インフラエンジニアは「サーバーの運用から解放され、より想像的な業務に専念できる」ようになった。その結果、コストや障害対応の負担が減り、サービス改善や新機能開発に時間を使えるメリットが得られた。
AIシフトがもたらす効果は、これを全社員レベルにまで拡張したものと言える。ドキュメント作成や情報収集といった単純作業を自動化し、担当者は本来のビジネス戦略や顧客との対話に専念できるようになる。
特に「指示通りの仕事」が中心だった職種ほど、劇的な変化が予想される。 単調なタスクはAIがこなし、人間はクリエイティブな思考や複雑なコミュニケーションが求められる領域に注力する。これこそが、南場氏が描く“全社的なレベルアップ”の構想である。
13. 投資・事業連携とM&A戦略
DeNAは自社内での開発だけにこだわらず、積極的にM&Aやスタートアップ連携を進める方針を打ち出している。AI分野で面白いサービスを展開している小規模企業を見つけたら、積極的に出資や買収も検討していくという。
また、社内で生まれた新規事業を外部にスピンアウトさせ、IPO(新規株式公開)を目指す動きも奨励している。既にAIベンチャーを独立させた例もあるため、今後もこうしたモデルを加速させることで、スタートアップエコシステムを自社と共に拡大させていく見込みだ。
このように、DeNAは巨大企業化よりも、「波を捉えた事業を次々と育てて社会に送り出す」ことで全体としての価値を高める戦略にシフトしている。 AIの急速な進化によってスピードが上がる産業変化に、柔軟に対応できる組織体制を整備しているとも言える。
14. 長期ビジョンとDeNAが目指す未来像
南場氏が描く未来像は、短期的には「全社員のAIシフトと10人1組でユニコーン創出を狙う」ことに集約される。しかし、その先には、人間の創造性や感動を最大限に引き出す社会への意欲も見え隠れする。
DeNAはスポーツ事業にも深く携わっているが、スポーツは人間の身体能力や感情、チームワークが大きく影響する領域だ。このように「人間らしさ」や「リアルな体験」を中心とする分野は、AI時代においても価値を増すと考えられている。
経営の根底に「人間の可能性」を見据えるからこそ、最新技術との融合を恐れない。 これはインターネットが普及し始めた頃から変わらないDeNAの企業カルチャーでもある。
15. まとめ
南場智子氏が牽引するDeNAのAI戦略は、単なるツール導入や効率化にとどまらない。経営トップの率先した体験や全社的なプロセス改革、新規事業の大胆な創出やM&Aの活用など、あらゆる側面で変化を推進している。
特に印象的なのは、AIで生まれた時間的・人的余裕を「より創造的な仕事」に充てるという発想だ。 それによって全社員のスキルアップと組織革新が同時に進み、結果的には持続的な競争力を獲得するという循環を作り出す。
日本企業が抱えがちなリスク重視の文化や、意思決定の遅さを乗り越えるために、南場氏は積極的に西海岸の事例を取り入れ、世界的なスピード感に合わせた組織設計を目指している。「第2の創業」とも称されるこのAIシフトが、今後どんな革新やサービスを生み出し、多様な業界や社会に波及していくのか。DeNAの動向は、同じ時代を生きるビジネスパーソンにとって見逃せないテーマである。
16. 免責事項
本記事は、DeNAの南場智子氏が語るAI活用や同社の取り組みを紹介する目的で執筆されています。記載された内容は、公開されている情報や報道、発言をもとにまとめたものであり、その正確性や最新性を保証するものではありません。投資判断や事業方針の決定などを行う際には、必ず専門家や該当企業への確認を行ってください。本記事に含まれる見解や予測は執筆時点のものであり、将来的な成果を保証するものではありません。当記事の情報を利用することで生じたいかなる損害に対しても、筆者および関係者は一切の責任を負いかねます。