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【税理士に聞いた】
ポイント還元・ポイント使用は要注意!
所得税・消費税・医療費控除
読者の問題点
「キャッシュレス決済やECサイトで貯めたポイントを日々活用しているが、税金面で損していないだろうか?」「ポイント利用の会計処理や消費税計算がわからない」「医療費控除でポイント使用分はどう扱うのか?」など、多くの方がポイントにまつわる税務処理の疑問や不安を抱えています。特に個人事業主や法人経理担当者の方は、ポイントをビジネス利用したときの会計上・税務上の扱いを正確に理解しないと、余計な税負担をしてしまったり、逆にミスで指摘を受ける恐れがあるのです。
記事を読むとどうなるか
本記事を最後までお読みいただくと、
- 個人利用の場合: ポイントが課税対象になるケース、ポイント利用が医療費控除に及ぼす影響などが明確になる
- 事業利用の場合: ポイントを使って仕入れや経費を支払った際の消費税や所得税(法人税)上の処理方法、レシート表記の見方と実務処理の流れが理解できる
- 確定申告のポイント: ポイント利用による医療費控除や一時所得計算時の注意点が整理できる
これにより、損を防ぎ、正しい税務処理ができるだけでなく、今後のポイント活用の戦略も明確化できます。税務面でのメリットを最大限に活かすための具体的な知識を押さえることが可能になります。
具体的な解決策
以下では、「IT大手上場企業で財務経理幹部として20年以上の実務経験を持ち、現在は“エンジョイ経理”編集長を務める筆者」が、ポイントに詳しい知り合いの税理士に確認して得た内容をふまえつつ、一般的な事例・消費税や所得税の基本・医療費控除との関係などについて詳しく解説いたします。
本記事は、主に
- 個人(一般消費者)としてのポイントの税務上の扱い
- 事業者(個人事業主・法人)がポイントを使用した場合の会計・消費税処理
- 医療費控除におけるポイント使用額の扱い
の三部構成で、それぞれ深堀りしていきます。
1. 個人(一般消費者)としてのポイントの税務上の扱い
1-1. 基本的な考え方:ポイントは値引きと同じ扱い(原則)
日常生活において、スーパーやコンビニ、ECサイトなど様々な場面でポイントを貯めている方は多いでしょう。実際に支払い時にポイントを使って割引を受ける感覚で買い物をしているかと思います。
一般に、「買い物時に付与されるポイント」や「貯めたポイントを利用して支払いをする行為」は値引きと同様であり、所得税の課税対象とはみなされません。なぜなら、ポイント付与の仕組みは販売促進策の一環であって、実質的には商品の値段が下がった(値引きされた)と考えられるからです。
- 例1,200円の買い物で60ポイント獲得 → 後日、60ポイントを使って500円の商品を購入→
どちらのケースも、税法上はあくまで「値引き」であり、原則として確定申告の必要はないと考えます。
これは、国税庁の公表資料にもあるとおり、「値引き」扱いであれば所得として計上する必要がないためです。よって、たとえば年末調整しかしていない給与所得者の方やフリーランスで確定申告をする方でも、日常的に得ているポイントは原則として気にしなくてよいケースがほとんどです。
1-2. 例外:懸賞や抽選など「臨時・偶発的」なポイント付与は一時所得
一方で、ポイントの獲得方法が通常の買い物利用時の付与と異なる場合、つまり懸賞や抽選キャンペーン等に当選して得たポイントなどは、所得税法上「一時所得」に該当する場合があります。これは、販売促進策の常態化したポイント付与とは異なり、「思いがけない賞金や賞品」に近い性質を持つからです。
- 例:ECサイトの大規模キャンペーンで抽選に当選し、10,000ポイントを獲得した →
そのポイントを実際に買い物で使用した場合、一時所得の対象となり得ます。
ただし、一時所得には年間で最大50万円の特別控除額があります。通常、よほど高額なポイントを受け取らない限り、実際に課税されることは稀です。具体的には一時所得の金額は、
一時所得の金額 = 収入金額(ポイント使用額)- 支出した金額 - 特別控除(最大50万円)
となり、ここがプラスにならなければ課税関係が発生しません。現実的には、抽選で何十万ポイントといった超高額当選がない限り、税金がかかるケースはほぼないといえます。
2. 事業者(個人事業主・法人)がポイントを使用した場合の会計・消費税処理
2-1. 事業利用のポイント:値引きか、それともキャッシュバック扱いか
事業を行う上で、仕入れや経費の支払い時にポイントを利用することがあります。法人や個人事業主の場合、税務では「費用計上」と「消費税の仕入税額控除」が重要になります。この際、レシートや請求書の表記によって処理方法が変わるため、注意が必要です。
一般論としては、支払い時にポイントを使用して割引が適用された場合、領収書に割引後の金額のみが記載されていれば、値引きとして取り扱うことになります。しかし、レシートや請求書で「ポイント使用分」が明確に記載され、もともとの総額からポイント相当額をキャッシュバックのように受け取った形になっている場合は、経費と雑収入を両建てで計上することが考えられます。
具体例は後述しますが、「ポイントはどこまで値引き扱いなのか」と、「どこからが雑収入として計上すべきなのか」をレシート等の記載から判断する必要があります。
2-2. レシート表記による2つの会計処理
国税庁の公表事例では、以下のようにポイント使用に関して処理方法を示しています。
- (A)ポイント値引き扱い
- レシートなどで「ポイント値引き ○○円」などと記載され、支払金額が既に差し引かれた状態で表示されている
- 仕入や経費の計上額は「差し引かれた後の支払金額」
- 消費税の仕入税額控除も、差し引かれた後の金額をベースに計算
- (B)キャッシュバック・即時充当扱い
- 合計金額は当初どおりで示され、その後「ポイント使用分:○○円」等で相殺している
- 仕入や経費は「総額」で計上しつつ、ポイント使用分を「雑収入」などで認識(消費税は不課税)
- 消費税の仕入税額控除は、あくまで総額ベースで計算が可能
2-2-1. 具体例:650円の食品と850円の事務用品を購入
- パターン(A) 値引きとしてのレシート表示
- 650円の食品(軽減税率8%)、850円の事務用品(標準税率10%) → 合計1,500円
- レシートには「ポイント値引き50円」と書いてあり、実際の支払額は1,450円
- 会計処理:
- (借方)消耗品費:1,450円(内訳として食品の8%と事務用品の10%に分ける)
- (貸方)現金(あるいは預金):1,450円
- 仕入税額控除対象となる消費税額は、1,450円に含まれる部分のみ
- ポイントの分は「値引き」として扱うため、収益計上はしない
- パターン(B) キャッシュバック・即時充当のレシート表示
- 合計金額は1,500円と表示され、下の方に「ポイント使用50円」と別途記載
- 会計処理:
- (借方)消耗品費:1,500円(8%と10%の税区分で仕訳)
- (借方)雑収入等:▲50円 (不課税取引)
- (貸方)現金(or 預金): 1,450円
- 仕入税額控除対象となる消費税額は、あくまでも1,500円に含まれる消費税分
- ポイント相当額50円は不課税収入として計上
消費税の課税事業者にとっては、パターン(B)のようにポイント相当額を不課税収入として同時計上すれば、仕入税額控除を総額ベースで計算できるため、結果として消費税負担が減る可能性が高いのが特徴です。しかし、レシート表記が値引きとなっている場合は、税法上それに従った処理(パターン(A))を行う必要があります。「自社に都合のよい処理を選べばよい」わけではなく、実際のレシート表記や契約実態に沿った処理をすることが求められます。
2-3. 即時充当(キャッシュレス消費者還元)などの特殊ケース
また、一時期実施されていたキャッシュレス消費者還元事業のように、支払いと同時に実質的な還元を受けるケースがあります。これも「消費者側がポイントを得て、その場で差し引いてもらう」形態なら、パターン(B)として処理する場合が多いと考えられます。
ただし、ポイント発行元と加盟店の間の契約形態によって細かい扱いが変わることもあるため、実務ではレシートや明細を必ず確認して判断しなければなりません。
3. 医療費控除におけるポイント使用の扱い
3-1. 医療費控除の基本
医療費控除とは、1年間(1月1日~12月31日)に支払った医療費が一定金額を超えた場合に、所得控除を受けられる制度です。主な対象経費としては、病院やクリニックでの診察料、入院費用、薬局での処方箋薬の購入などが挙げられます。
また、ドラッグストア等で購入する市販薬でも医療費控除の対象となる要件を満たすものがあります。(たとえば風邪薬や鎮痛薬など、医師の処方に準ずる効能が認められている医薬品)
3-2. ポイントを使用して医薬品を購入した場合
医療費控除を考えるうえで、ポイント使用がどのような影響を及ぼすかがしばしば問題になります。結論からいうと、2つの計算方法の選択が認められています。
- (1) ポイント値引き後の支払い額を医療費として計上
- 例:1,000円の医薬品に50ポイント使用 → 実際の支払額950円 → 医療費950円として計上
- ポイント部分(50円)は値引き相当として扱うため、一時所得にもならない
- (2) ポイント値引き前の金額を医療費として計上し、ポイント相当分を一時所得として扱う
- 例:同じく1,000円の医薬品を購入し、50ポイントを使用 → 医療費は1,000円として計上
- ポイントの50円は「一時所得扱い」とする
ここで、一時所得の特別控除額は50万円あります。ポイント使用額が年間でそこまで膨大になる可能性は一般消費者では低いことから、(2)を選択することで医療費控除額を大きくできる可能性があるのです。とくに医療費控除を多く受けたい場合は、(2)の方法を選ぶほうがお得なケースが多いでしょう。
ただし、(1)でも(2)でも結果が大きく変わらない場合もありますし、実際に一時所得が発生しない程度のポイント額しか使わないなら、どちらを選んでも税額には影響しないこともあります。
いずれにせよ、医療費控除を計算する段階でポイントを値引きとみなすか、一時所得として扱うかが選択肢として存在する点は覚えておきましょう。
上記の具体的解説によって、ポイントが単なる「値引き」扱いなのか、「一時所得」として計上すべきものなのか、あるいは「キャッシュバック」的要素を含むのかを知ることができます。さらに、医療費控除や消費税仕入税額控除といった具体的な税務論点に直結する仕訳・集計のやり方を押さえておけば、正しい税務処理ができるようになり、ムダな税金を払うリスクや税務調査時の指摘リスクを大幅に軽減できます。
記事のまとめ
- ポイントの一般的な位置づけ
- 日常的に付与・利用されるポイントは通常は「値引き」扱い → 課税関係なし
- ただし、懸賞・抽選による高額ポイント取得等は「一時所得」として課税対象になる可能性がある
- 事業利用のポイント会計処理
- レシートが「ポイント値引き」と表示 → 支払額のみを経費(消費税は差し引いた後の金額)
- レシートが「合計額+ポイント使用分」と表示 → 総額を経費、ポイント分を不課税収入
- 後者の場合、消費税の仕入税額控除を総額ベースで認められるため有利なケースが多い
- 医療費控除での注意点
- (1) 値引き後の金額を医療費に含めるか、(2) 値引き前の金額を医療費に含めポイントを一時所得とみなすか → 選択可能
- 一時所得には50万円の特別控除があるので、医療費控除を受けるなら(2)で計算したほうが結果的に多く控除を受けられる場合あり
- メッセージ
- まずは、ご自身のポイント利用履歴を正確に把握してみましょう
- ビジネス利用分は経理ソフトやレシートで「ポイント割引」or「ポイント使用」表示を見分けて仕訳する
- 医療費控除をする方は、医薬品購入時にポイントを使った場合、(1)か(2)かどちらの処理が有利になるか試算してみる
免責事項
本記事は、一般的な税法・会計処理に関する情報提供を目的としており、特定の個別事情に対する正確な税務・会計上の判断を保証するものではありません。実際の申告や処理方法については、個々の状況に応じて税理士や公認会計士などの専門家へ必ずご相談ください。本記事の内容を利用した結果に関して、当方は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。