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【深掘り】
ソフトバンクグループ
2025年3月期第3四半期
決算説明会
皆さん、こんにちは!エンジョイ経理編集長です。
今回は、2025年2月12日に開催されたソフトバンクグループ(SBG)の2025年3月期第3四半期決算説明会について、元IT大手上場企業財務経理幹部としての視点から徹底的に解説していきます。
今回の決算説明会では、「ASI」(Artificial Super Intelligence:人工超知能) の実現に向けた具体的な戦略が示され、孫正義会長兼社長の並々ならぬ熱意が感じられました。
AIチップ設計大手のアーム(Arm)の好調な業績、そして「スターゲート」プロジェクトや「クリスタルインテリジェンス」といった新たな取り組みなど、今後のSBGの成長を占う上で重要なポイントが盛りだくさんでした。
私自身、長年、企業の財務経理部門に携わってきた経験から、数字の裏側にある企業の戦略や将来性を読み解くことを得意としています。今回の決算説明会も、単なる数字の羅列ではなく、その背景にあるSBGの戦略、そして孫会長のビジョンを深く掘り下げていきます。
1. 決算概要:安定した財務基盤と成長への布石
まずは、今回の決算概要を数字で確認していきましょう。
- ネットアセットバリュー(NAV): 30兆円弱(足元では33.5兆円)
- ローン・トゥ・バリュー(LTV): 12%台
- 手元流動性: 5兆円
- 純利益(9ヶ月累計): 6,362億円(前年同期比1.1兆円改善)
これらの数字から、SBGが非常に安定した財務基盤を維持していることが分かります。特に、NAVが足元で33.5兆円と過去最高水準に達している点は注目に値します。
LTVも12%台と極めて低く、財務の安全性は揺るぎないと言えるでしょう。これは、SBGが積極的な投資を行う上で、非常に重要な基盤となります。
2. 孫正義氏が語る「ASI」への道:4つの注力分野
今回の決算説明会で最も印象的だったのは、孫会長が「ASI」実現に向けて、以下の4つの分野に注力していくと明確に示したことです。
- AIチップ: グループの中核であるアームの技術力を最大限に活用し、AIの進化に不可欠なチップ開発を推進。
- データセンター: 大規模なデータセンターを早期に整備し、AIの進化を加速させるためのコンピューティング環境を構築。
- 電力: データセンターの稼働に必要な膨大な電力を確保するため、再生可能エネルギーなどを活用した安定的な電力供給体制を構築。
- ロボティクス: AIが最も機能する分野の一つであるロボティクス分野への投資を継続し、将来の成長につなげる。
孫会長は、これらの分野への投資を通じて、ASI実現までの時間を短縮し、人類の進歩に貢献したいという強い意欲を示しました。
3. 「スターゲート」プロジェクト:5,000億ドル規模の巨大構想
「ASI」実現に向けた具体的な取り組みとして、孫会長は「スターゲート」プロジェクトを発表しました。これは、今後4年間で5,000億ドル(約75兆円)規模の投資を行うという、非常に野心的なプロジェクトです。
このプロジェクトは、SBG、OpenAI、オラクル、そしてアブダビの投資ビークルであるMGXの4社がリードパートナーとなり、孫会長が会長を務める形で推進されます。
プロジェクトファイナンスの手法を活用し、エクイティ、優先株、シニアデット、メザニンなど、様々なトランシェを組み合わせた資金調達を行うことで、SBGの負担を抑えつつ、巨額の投資を実現する計画です。
スターゲート プロジェクトファイナンスに関して 補足
1.エクイティの部分だけ負担
スターゲートプロジェクトに必要な資金は、プロジェクトファイナンスの手法を用いて調達します。
ソフトバンクグループが負担するのは、プロジェクト総額の一部であるエクイティ部分のみです。
2.プロジェクトファイナンスとは
特定のプロジェクト(ここではデータセンター建設など)の収益を返済原資とする融資形態です。
プロジェクトの資産やキャッシュフローを担保とするため、事業会社(ここではソフトバンクグループ)の信用力に依存しない資金調達が可能です。
3.資金調達のストラクチャー
スターゲートプロジェクトでは、以下のようなストラクチャーで資金調達を行う予定です。
- エクイティ: ソフトバンクグループやOpenAIなどが出資する部分。最もリスクが高いが、リターンも大きい。
- 優先株/劣後ローン: エクイティよりもリスクが低く、リターンもそれなりに期待できる。機関投資家などが投資対象とする。
- シニアローン: 最もリスクが低い融資。銀行などが提供する。
各トランシェ(階層)ごとにリスクとリターンが異なるため、様々な投資家のニーズに応えることができます。
4.具体的な調達額
現時点では、個別のプロジェクトの規模やエクイティ比率は未定です。
ただし、後藤CFOは、「1兆円のプロジェクトでエクイティが10%なら、ソフトバンクグループの負担はその一部」と説明しており、過度な負担にはならない見込みです。
5.プロジェクトの進め方
複数のデータセンタープロジェクトを並行して進める予定です。
プロジェクトごとに資金調達を行い、進捗状況に応じて柔軟に対応していく方針です。
4. 「クリスタルインテリジェンス」:日本企業向けAIエージェント
もう一つの注目すべき取り組みが、「クリスタルインテリジェンス」です。これは、SBG、アーム、ソフトバンク(通信会社)、OpenAIの4社が連携し、日本企業向けにAIエージェントを提供するというものです。
このAIエージェントは、企業のシステムやデータを安全に統合し、企業ごとにカスタマイズされたAIを提供することで、経営の高度化や業務の効率化に貢献することを目指しています。
SBGは、まずグループ内でこのサービスを導入し、その効果を検証した上で、ソフトバンク(通信会社)を通じて日本企業に展開していく計画です。年間使用料として30億ドルを見込んでおり、グループ内での利用を通じて、サービスの改善や販売戦略の構築を進めていく考えです。
5. アームの成長戦略:ロイヤリティ収入の拡大と新たな市場開拓
AIチップ設計大手のアームは、今回の決算でも非常に好調な業績を示しました。売上高、ロイヤリティ収入ともに過去最高を記録し、調整後営業利益もアナリストのコンセンサスを上回る結果となりました。
アームの成長を牽引しているのは、主に以下の2つの要因です。
- Armv9の普及: 前世代のArmv8に比べてロイヤリティ単価が約2倍となるArmv9の採用が、モバイルやクラウド分野で拡大。
- コンピュートサブシステム(CSS)の提供: 複数のIPライセンスなどを組み合わせたパッケージ商品であるCSSの提供により、顧客の開発時間やコスト削減に貢献。
さらに、アームは、AWSの「Graviton」、Microsoftの「Azure Cobalt」、Googleの「Axion」といった、主要なクラウドサービスプロバイダーのAIチップに採用されており、その技術力の高さが改めて示されました。
今後、アームは、GPUに近い領域や、AIデータセンターでの貢献度を高める製品の開発にも意欲を示しており、さらなる成長が期待されます。
6. ビジョンファンド:今後の投資戦略と注目企業
ビジョンファンドについては、第3四半期(10-12月)は23億ドルの損失を計上しましたが、これは主に公開投資先の株価変動や、未公開企業の公正価値の減少によるものです。
しかし、ビジョンファンド1は、すでに約700億ドルのエグジットを達成しており、残りのポートフォリオにも、バイトダンス、Fanatics、DiDiなど、今後の価値向上が期待できる企業が多数存在します。
ビジョンファンド2については、まだ公開されていない有望な投資先が多く、今後の収益改善に期待がかかります。特に、クルナ、PayPay、OpenAIなどは、今後の成長が注目される企業です。
また、ビジョンファンドは、データブリックス、Day1、Helion、Quantinuumなど、AI関連の新たな投資先にも積極的に投資を行っており、今後の成長戦略の柱となることが期待されます。
7. 財務戦略:安定性と成長性の両立
SBGは、安定した財務基盤を維持しながら、積極的な成長投資を行うという、バランスの取れた財務戦略を継続しています。
- LTV25%未満
- 2年分の社債償還資金を確保
- グループ会社からの配当収入を重視
という3つの財務方針を堅持しつつ、将来的なNAVの拡大を目指しています。
具体的な投資額については、第3四半期は0.6ビリオンとやや少なめでしたが、1月にはOpenAIへの追加投資(1.5ビリオン)を行っており、今後は投資が加速する可能性もあります。
また、自己株取得についても、着実に進めており、4,200億円の進捗となっています。
8. ビジョンファンド:投資先ポートフォリオと決算説明会での言及
ここでは、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の主要な投資先について、決算説明会での言及内容と合わせてご紹介します。SVFは、1号ファンド(SVF1)と2号ファンド(SVF2)に分かれており、それぞれ投資戦略やポートフォリオの特性が異なります。
ソフトバンク・ビジョン・ファンド1(SVF1)の主要投資先(一部)
企業名 | 事業内容 | 決算説明会での言及 |
バイトダンス | 短編動画プラットフォーム「TikTok」などを運営する中国のテクノロジー企業 | 孫会長は、SVF1の残存ポートフォリオの中で、今後の価値向上が期待できる企業の一つとして言及。 |
Fanatics | スポーツ用品のオンライン小売大手 | 同上。 |
DiDi | 中国の配車サービス大手 | 同上。ただし、中国の規制リスクなどについては留意が必要。 |
Coupang | 韓国のeコマース大手 | 第3四半期は株価が下落したが、これは韓国の政治的混乱などの影響による一時的なものと見ている。 |
Grab | 東南アジアの配車・フードデリバリーサービス大手 | 第3四半期は株価が上昇。 |
ソフトバンク・ビジョン・ファンド2(SVF2)の主要投資先(一部)
企業名 | 事業内容 | 決算説明会での言及 |
クルナ (Klarna) | 後払い決済サービス(BNPL)を提供するスウェーデンのフィンテック企業 | 上場準備が進んでいる企業の一つとして言及。 |
PayPay | 日本のQRコード決済サービス大手 | 今後の大きな期待値を持つ企業の一つとして言及。 |
OpenAI | AI研究開発企業。ChatGPTなどの生成AI技術で世界的に注目を集める | 今後の価値向上に非常に期待できる企業として言及。2024年1月にはセカンダリーで15億ドルの追加出資を実施。 |
DataBricks | 企業向け統合クラウドプラットフォームを提供する米国企業 | 第3四半期に新規投資を実施した企業の一つとして紹介。 |
Day1 | アジアで最先端のデータセンタービジネスを展開する企業 | 同上。 |
Helion Energy | 次世代の核融合発電技術を開発する米国企業 | 同上。電力分野への投資の一環として紹介。 |
Quantinuum | 量子コンピューター開発企業 | 同上。 |
Swiggy | インドのフードデリバリーサービス大手 | 2024年に世界最大のテック株IPOとして上場。 |
決算説明会での投資先に関する補足
五藤CFOは、決算説明会の中で、ビジョンファンドの投資先について、以下のような点を強調しました。
- SVF1: 新規投資は終了し、既存ポートフォリオのモニタリングとエグジットに注力。
- SVF2: AI関連の有望な未公開企業への投資を継続。特にレイトステージの企業への投資に注力。
- OpenAI: SVF2の重要な投資先の一つであり、今後の成長に大きく期待。
- IPO: 2024年度は4件のIPOがあったが、今後もIPOを目指す企業が多数存在する。
これらの情報から、SBGがAI分野を中心に、将来性の高い企業への投資を積極的に行っていることが分かります。特に、OpenAIへの追加出資は、SBGのAI戦略における重要な一手と言えるでしょう。
まとめ:ASI実現に向けたSBGの挑戦は続く
今回の決算説明会を通じて、SBGが「ASI」実現に向けて、着実に歩みを進めていることが明確になりました。
アームの好調な業績、「スターゲート」プロジェクトや「クリスタルインテリジェンス」といった新たな取り組み、そしてビジョンファンドによるAI関連企業への投資など、SBGの成長戦略は多岐にわたります。
もちろん、巨額の投資にはリスクも伴いますが、SBGは安定した財務基盤を維持しながら、積極的にチャレンジしていく姿勢を明確にしています。
私自身、元財務経理担当者として、SBGの今後の動向を注視していきたいと思います。
最後に
今回の記事が、SBGの決算内容や今後の戦略について理解を深める一助となれば幸いです。
今後も、企業の決算情報や経済動向について、分かりやすく解説していきますので、ぜひフォローしてください。
免責事項
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