【初心者向け】
税効果会計とは?
仕組み・具体例をやさしく解説
はじめまして。この記事では「税効果会計」について、初心者でも理解しやすいように、できるだけ専門用語を噛み砕いて解説していきます。簿記や会計に馴染みのない方や、簿記2級レベルで初めて税効果会計に触れる方を対象にしているため、具体例を交えながら分かりやすく説明します。ぜひ最後までご覧いただき、税効果会計への苦手意識が少しでもなくなれば幸いです。
1. 税効果会計とは何か?その基本的な考え方
◆ 税効果会計の定義
「税効果会計」とは、会計上の利益と法人税法などの税務上の利益に差異(ズレ)が生じたとき、財務諸表にその“税効果”を反映させるための会計処理です。会計上は費用として認識されるものでも、税務上はまだ費用として認められないケースや、その逆のケースがあります。こうした差異を調整して、企業の財務状況や経営成績をより適切に表すのが税効果会計の目的となります。
◆ 会計と税務はなぜズレる?
会計基準は企業の実態(経済的実態)をできるだけ正しく表すためのルールであり、一方の税務は課税を公平に行うための法的ルールです。両者の目的が異なるため、収益や費用を認識するタイミングがズレることが少なくありません。たとえば、
- 賞与を会計上は見積もって引当金として費用計上する
- 税務上は「実際に支給すると確定したタイミング」にならないと費用として認められない
このズレを整合させるために導入されたのが税効果会計です。ズレをそのままにしていると、企業の利益や実質的な税率が歪んで見える場合があるため、このズレを補正しようというわけです。
2. なぜ税効果会計が必要なのか:会計と税務のズレ
◆ ズレを放置するとどんな問題が?
会計上のPL(損益計算書)だけ見ていると、「今期の利益」が数値として示されます。しかし、そのままの金額をベースに税金を計算しているわけではありません。税務上の計算では、会計上は費用とされていても「税務ではまだ費用にならない」といった項目があるからです。
もし、税効果会計を導入せずにズレを無視すると、
- 会計上は費用と計上した結果、当期の会計上利益が小さく見える
- 一方で、税務上の利益は会計上の利益より大きくなり、税金が増える
といったことが起こります。これでは、「会計上の利益」と「実際に支払う税金」がかけ離れてしまい、株主や投資家が企業の財務諸表を正確に評価できなくなる恐れがあるのです。
◆ 税金費用を正しく表すための仕組み
税効果会計はこのズレを適切に表すことで、最終的に企業がどれだけ税金の費用を負担することになるのかを財務諸表に反映させます。これによって、企業の「税引後の利益」や「1株当たり利益」などが、より正確に投資家や利害関係者に伝わるのです。
3. 一時差異と永久差異:どんな違いがあるの?
◆ 一時差異(いずれ解消されるズレ)
一時差異とは、会計上と税務上の認識タイミングが違うだけで、いずれは同じ金額になるズレを指します。たとえば賞与引当金が代表例です。
- 会計上:働いた期間に対するボーナスを見積計上するため、当期の費用に含める
- 税務上:実際に支給が確定したタイミング(例:支給日が到来して最終金額が確定)でしか費用と認めない
こうしたタイミングの違いから、当期に認識される費用額が会計と税務でズレます。しかし、いずれは税務でも支給タイミングで費用が認められるため、最終的には同じ金額になる可能性が高いです。
この「いずれ同じになるズレ」を一時差異と呼びます。一時差異に対しては、税効果会計によって「今は費用にならないけど、その分の税金を先払いしている」という形で調整を行います。
◆ 永久差異(ずっと解消されないズレ)
永久差異とは、会計と税務で認められる(あるいは認められない)金額が、一生埋まらないズレです。代表的なのは交際費の一部などです。
- 会計上:交際費は全額を費用として計上
- 税務上:一定額以上の交際費は損金(税務上の費用)として認められない
このように税務上、永久に費用として認められない部分は「一時的なズレではなく、ずっと差が残り続ける」ため、税効果会計の対象にはなりません(将来においても解消しないので繰延税金資産・負債が生じようがありません)。
4. 具体例で理解する:賞与引当金の税効果会計
◆ 事例:3月決算の会社と冬・夏ボーナス
たとえば3月決算の会社で、社員に対するボーナス(賞与)が以下のように決まっているとします。
- 冬のボーナス:4月から9月までの評価分を12月に支給
- 夏のボーナス:10月から翌年3月までの評価分を6~7月頃に支給
◆ 会計処理(賞与引当金繰入額)
会計は発生主義と呼ばれ、「その期間に発生した費用は、その期間に計上する」という考え方をとります。したがって、「10月~3月分」の働きに対するボーナスは、この決算期(3月末)までに実質的に発生した費用とみなします。
しかし、実際の支払いは数か月先(たとえば7月)です。そこで「賞与引当金」という勘定科目を使い、まだ支払っていないが、当期の費用として計上が適切な金額を見積計上します。
(例)賞与引当金が当期末で100万円と見積もられた場合
借方:賞与引当金繰入額 100万円 / 貸方:賞与引当金 100万円
◆ 税務処理
一方、税法では「実際に支給が確定していないのであれば費用にしてはいけない(債務確定主義)」というルールがあります。社員が途中で退職したり、業績不振でボーナスが減額される可能性もあるため、**「まだ確定していない債務は費用として認めません」**という考え方なのです。
結果として、
- 会計上:100万円の費用計上
- 税務上:その100万円は費用として認められない
となるため、会計と税務の間に100万円の差異が生じます。
税務上の「課税所得」を計算する際には、この差異を加算し(いわゆる「別表4」の加算)、課税所得を増やして税額を計算します。すると、「会計上の利益」よりも「税務上の利益」が100万円分大きい状態になります。
◆ 税効果会計で調整する
会計上の利益が100万円(うち100万円が賞与引当金)で、実効税率が仮に30%とすると、「会計上のPLだけ見れば税金は30万円かな?」と思いますよね。しかし、税務上は100万円のボーナス費用を認めないため、課税所得は +100万円されて計200万円になります。その結果、税金は60万円です。
会計上「利益100万円に対して税金60万円」という状況だけを見ると、**税率は実質60%**になってしまい、おかしな印象を与えます。
そこで、税効果会計では「今期費用にしたはずの100万円が税務上費用にならなかった分(=差異100万円)に30%をかけた30万円」を、PL上「法人税等調整額」として計上し、同時にBSでは「繰延税金資産(Deferred Tax Assets)」を計上します。
法人税等 60万円/ 現金預金など(実際の納税額)
繰延税金資産 30万円/ 法人税等調整額 30万円
これにより、
- 実際の法人税等(仮払い分):60万円
- 法人税等調整額(-30万円)
- 実質的に当期の税金費用は30万円に“調整”される
結果、**会計上の実効税率は30%**に落ち着きます。
◆ 翌期以降の解消
翌期、実際に賞与を100万円支払うときには税務上費用が認められ、今度は会計と税務が反転する形で調整が行われます。最終的に、いずれ同じ金額だけ費用を認めることになるため、ここが「一時差異」の特徴です。
5. 繰延税金資産と繰延税金負債:BS(貸借対照表)に注目しよう
◆ PLよりもBSが重要
税効果会計と聞くと、「最終的に税金を30%に合わせるためのPL上の調整」と思いがちですが、実は考え方の基本はBS(貸借対照表)の項目に注目しているという点です。会計上は資産や負債をどう評価するかで、収益や費用の認識に影響を与えます。
- 繰延税金資産(Deferred Tax Assets)
将来、税務上の費用になる・利益を減らす効果を持つ「一時差異」について、「将来の税金を減らす権利(資産)」として計上するもの。 - 繰延税金負債(Deferred Tax Liabilities)
将来、税務上の利益になる・利益を増やす効果を持つ「一時差異」について、「将来の税金を増やす義務(負債)」として計上するもの。
たとえば、税務上は将来的に収益が増えることが確定しているような差異があれば、将来課税所得が増えて税金が増える可能性があります。こうしたときに繰延税金負債を計上することで、今のうちにそのリスクをBS上に反映させるわけです。
◆ 一時差異をBSにまとめて実務で計算
実務では、各一時差異の期末残高を合計し、それに実効税率をかけて繰延税金資産(または負債)を求めるのが一般的です。一個一個の科目に細かく仕訳を入れていくのではなく、期末にまとめて差額を仕訳します。
6. 回収可能性とは?繰延税金資産が計上できない場合もある
◆ 「将来の税金を本当に減らせるか?」
繰延税金資産は、将来課税所得が十分にある場合にのみ「税金を減らせる」効果を持ちます。しかし、もし企業が今後ずっと赤字で、課税所得自体が生まれない見込みであればどうでしょうか?
税金を支払う予定のない状態で「将来の税金を減らせる権利がある」と言っても、それは使われずに終わってしまう可能性が高いですよね。これが「回収可能性」の問題です。
◆ 分類1~5と評価性引当額
会計基準上、繰延税金資産の計上にあたっては回収可能性を検討しなければなりません。実際には以下のような分類があり、
- 分類1:黒字経営が安定している企業(将来も黒字見込み)
- 分類2~4:将来黒字を見込めるが、過去に赤字があるなど何らかの不確定要素がある
- 分類5:長期間の継続的赤字で、将来の黒字転換が難しい企業
分類5に該当するほど財務状況が厳しい場合、繰延税金資産を計上することはできません。なぜなら、将来黒字の見込みがない以上、「税金を減らせる権利」を持っていても使う場面が来ないからです。
この「回収可能性を考慮した結果、計上できない分」を評価性引当額と言い、差し引いた残りしか繰延税金資産を計上できない仕組みになっています。
7. 税効果会計を実務でどう処理する?実際の流れとポイント
◆ (1) 一時差異を一覧にまとめる
実務では、「別表4」など税務計算書類を使って、当期発生する一時差異を整理し、期末時点でBSに残っている一時差異の合計をまず把握します。
例)
- 賞与引当金 … 〇〇円
- 退職給付引当金 … 〇〇円
- 減損損失 … 〇〇円(税務ではまだ費用にならない部分)
- 貸倒引当金 … 〇〇円(税務では繰入限度が設定されている場合など)
◆ (2) 期末の繰延税金資産・負債を計算
集計した一時差異の合計金額に実効税率(法人税・住民税・事業税などをトータルした税率)を乗じて、当期末に計上すべき「繰延税金資産」または「繰延税金負債」の金額を計算します。
◆ (3) 回収可能性(評価性引当額)の検討
企業の将来の業績見込みや、過去の赤字額や繰越欠損金の状況などを踏まえて、本当にその繰延税金資産は使える見込みがあるかを検討します。もし厳しければ、その分を評価性引当額として繰延税金資産から差し引きます。
◆ (4) 前期末の数値との「差額」を仕訳
最後に、前期末に計上されていた繰延税金資産や繰延税金負債からの増減分(差額)を、「法人税等調整額」としてPLに計上します。具体的には、増えた分は
繰延税金資産 ××円/法人税等調整額 ××円
という仕訳になりますし、減った分は逆仕訳となります。
8. 初心者が覚えておきたいFAQ:よくある疑問とその回答
Q1. 税効果会計はどの企業でも適用されるの?
- A. 一般的に上場企業や大企業は適用必須ですが、中小企業では適用が任意となっています。したがって、多くの中小企業では税効果会計の仕訳を見かけないこともあります。
Q2. 簿記2級の試験範囲に税効果会計は含まれる?
- A. 過去の試験範囲の変更で、簿記2級でも税効果会計に関する基本的な論点が含まれる可能性があります。ただし、詳しい回収可能性の判定などは主に簿記1級や会計士・税理士試験で問われる分野です。
Q3. 繰延税金資産と繰延税金負債は必ず両方計上するの?
- A. 両方が生じることもありますが、年度によっては繰延税金資産だけ計上する場合、あるいは繰延税金負債だけ計上する場合もあります。一時差異の中身次第です。
Q4. 交際費の永久差異は計上しなくていい?
- A. 交際費の「損金不算入額」のように、将来も費用として認められないものは永久差異になります。永久差異は税効果会計の対象ではないので、繰延税金資産や繰延税金負債は生じません。
Q5. 実効税率はどのように求めればよい?
- A. 法人税、住民税、事業税を合計した概算の税率を「実効税率」と呼びます。大企業だと30%前後の場合が多いですが、法改正などで変化するため、その時点での適用税率を正確に確認する必要があります。
9. まとめ:税効果会計の理解を深めるポイント
◆ 税務の考え方を少し押さえるだけで理解が進む
税効果会計に苦手意識を感じる最大の理由は、「会計」と「税務」の2つの視点を同時に考えなくてはいけないからです。しかし、最低限の税務のルール、たとえば「債務確定主義」や「交際費の損金不算入制度」などを知るだけでも格段に理解が進みます。
◆ 実はPLのズレを合わせるよりも、BSの考え方が重要
税効果会計は「会計上の利益と実際の税金費用を一致させる」ための仕組みだと理解されがちですが、本来は「一時差異が将来どう解消するか」をBS上に資産または負債として反映する考え方が根幹にあります。
このため、繰延税金資産の回収可能性(将来の黒字見込み)などが重要になるわけです。
◆ まずは賞与引当金と退職給付引当金を押さえよう
税効果会計の対象となる一時差異は多数ありますが、初心者がまず押さえるべきは**「賞与引当金」と「退職給付引当金」**です。多くの企業で日常的に出てくる、代表的な一時差異だからです。
この2つのケースが理解できれば、減損損失や貸倒引当金などその他の一時差異もおおむね同じ流れで処理する、とイメージしやすくなります。
◆ テスト勉強にも、実務にも活かそう
- 簿記2級レベルでも、基本的な税効果会計の仕組みが出題される場合があります。
- 公認会計士や税理士試験の財務諸表論では、回収可能性や評価性引当額の論点が深く問われることもあります。
- 実務では、月次や年次決算で一時差異を集計し、繰延税金資産・負債を計上する処理をします。特に大企業や上場企業の経理担当者にとっては必須知識です。
★ 最後に
税効果会計は「会計と税務のズレ」を調整し、「実質的な税負担」を正しく財務諸表に示すための仕組みです。一見難しそうに見えますが、本質は『将来費用になるかどうか』『将来黒字があるかどうか』で調整することです。
繰延税金資産や法人税等調整額といった科目は最初とっつきにくいかもしれませんが、賞与引当金など身近な例で考えると理解しやすいでしょう。「一時差異」と「永久差異」を区別しながら、BS視点で回収可能性を検討するという点が押さえどころです。
会計と税務のルールの違いを意識して実務処理を行うと、実際の税金計算や決算書の読み解きがぐっと正確になるはずです。ぜひこの記事を参考に、税効果会計に対する苦手意識を克服していただければと思います。今後の学習や実務にお役立てください。