年金受給者が
見逃しがちな不足額給付と定額減税
の最新情報を徹底解説
はじめまして、エンジョイ経理編集長です。私はこれまでIT大手上場企業の財務経理幹部として長年勤務し、現在は「エンジョイ経理」というメディアを運営しています。今回、自分の親が「定額減税」や「不足額給付」の対象になりそうだという話を聞き、実際にお世話になっている顧問税理士に詳しく確認してみました。
日本の税制はしばしば複雑で、制度の名称が似通っているため誤解を招きやすいものです。特に「年金受給者」は、給与所得者と比べて申告に対する意識や日頃の手続きが少ない傾向にあり、最新の給付金や減税措置の情報を見逃してしまうケースも見受けられます。本記事では、年金受給者の方々を中心に、定額減税と不足額給付がなぜ行われるのか、どのように進めればよいのか、そして今後どんなタイミングで手続きや申請を行えばよいのかをわかりやすく解説します。
- この記事で得られる情報
- 定額減税のしくみと狙い
- 不足額給付(1)と(2)の違い
- 年金受給者が注意すべきポイント
- 申請が必要なケースと不要なケース
- 具体的な給付時期の目安と最新動向
ぜひ、ご自身やご家族、親御さんの状況に合わせてご覧ください。なお、本記事はあくまで一般的・公的情報や法令解釈に基づく内容であり、個々のケースによっては異なる対応が必要になる場合があります。最終的には必ず税理士や自治体の窓口などの専門家へご相談ください。
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1.記事を書いた目的と経緯
1-1.執筆の背景
私は、IT大手上場企業で長らく財務経理の実務を担当してきました。法人税や消費税、会計基準など幅広く学んできた立場ではありますが、個人向けの給付金や減税に関しては、正直なところ“自分が対象にならないと深く調べない”という方が多いのが現状です。
しかし、私自身の親が年金生活者であり、ニュースなどで取り上げられる「定額減税」や「不足額給付」といった言葉に「自分は対象なのか?」「どんな手続きが必要なのか?」と疑問を抱いたことをきっかけに、身近にいる顧問税理士に確認することにしました。
1-2.税理士に質問した内容
私の親が抱えた疑問は、まさに多くの年金受給者の方が抱えている疑問と同じではないかと思います。
- 「住民税がかからない人でも10万円が支給されるのは本当か?」
- 「定額減税は4万円というが、所得税3万円+住民税1万円の内訳はどう計算されるのか?」
- 「年金受給者は不足額給付の対象になるのか?」
- 「手続きは自治体なのか、税務署なのか、どこに申請するのか?」
- 「申請が不要のパターンと、申請が必要なパターンがあると聞いたが本当か?」
こうした疑問について、顧問税理士から丁寧に解説してもらいました。本記事では、その内容をかみ砕いてまとめています。
2.定額減税と不足額給付の全体像
2-1.定額減税とは?
**「定額減税」**は、国民一人あたりに一定額の税負担を減らす政策です。今回の場合は、1人あたり4万円分の税金を減らすとされており、内訳は以下のとおりと想定されています。
- 所得税:3万円
- 住民税:1万円
ただし、「減税」と言われても、もともとその人に課されている税金が4万円未満ならば、差額(つまり4万円から実際に課されている税額を引いた部分)が生じます。これが「定額減税しきれない額」と呼ばれ、税金が少ない低所得者層にもある程度公平に還元するために、**「不足額給付」**という給付金として支給する仕組みが用意されました。
2-2.10万円の給付金との関係
「低所得者向けの10万円給付金」と似た話題として混同されがちですが、こちらは住民税非課税世帯や均等割のみ課税世帯などの一定要件を満たす世帯向けにすでに支給が始まっています。
つまり、すでに住民税非課税世帯などとして10万円を受け取っている方は、「定額減税」の適用や「不足額給付」は別枠で考える必要があります。一方、どちらにも該当しない中間的な層(一定以上の所得があるために住民税非課税世帯ではないが、あまり税金を納めていない層)に関しては、不足額給付(2) という形で救済措置が設けられました。この辺りの整理が非常に紛らわしく、誤解が生じやすい部分です。
3.年金受給者が知っておくべきポイント
3-1.年金受給者は「税金0円」かどうかをまず確認
年金のみで生活されている方の場合、「所得税」「住民税」がかからないケースが一定数あります。公的年金にも控除があり、65歳以上であれば110万円の公的年金控除があるなど、実は優遇措置が手厚いのです。
もし所得税・住民税ともに課されていない(まったく納税していない)場合は、「そもそも減税を受ける税額がない」という状況になります。したがって、
- まったく課税されていない→定額減税の恩恵は受けられない
- 住民税非課税世帯であれば、別途10万円給付の対象になっている可能性が高い
- 非課税ではあるが、10万円給付対象世帯にも該当せず、かつ合計所得金額48万円超の場合など→不足額給付(2)が検討される
こうしたパターン分けで自分が該当するかどうかを整理するとわかりやすいでしょう。
3-2.「所得税は少ないけど一部課税」という人
年金額がそこそこ大きかったり、他に少額でも収入(パートや不動産収入など)があると、わずかに所得税や住民税が発生するケースもあります。このような場合、定額減税を4万円分完全に引ききるだけの納税額がないとなると、不足分が給付金として支給されます。これを**「不足額給付(1)」**と呼びます。
たとえば、仮に自分の所得税が2万円、住民税が1万円だったとすれば、合計3万円の税額になります。ところが減税額は4万円ですから、あと1万円分は減税しきれない、つまり給付金として1万円がもらえる可能性がある、という考え方です。
4.不足額給付①:当初給付との差がある場合
4-1.当初給付とは
実はこの「不足額給付」には、2段階の給付が存在します。一度目は**「当初給付」と呼ばれ、昨年夏以降に推計ベース**で支給されたものでした。所得税や住民税の計算は基本的に「前年の所得」あるいは「年末調整の結果」をベースに行われるため、実際の2023年(令和5年)や2024年(令和6年)の所得税額が確定する前に、見込みで支給してしまったケースがあります。
- 所得税:令和5年中の実績値をベースに「令和6年の税額」を推計
- 住民税:1年遅れで課税されるため、令和6年度分の住民税はすでに令和5年中の所得によって計算
このように、あくまで“見込み”で給付されたため、実際に確定した所得税・住民税の額とズレが生じることがあります。そこで、最終的に本来の不足額との差分を今年の夏以降に「不足額給付(1)」として再精算する仕組みになっているのです。
4-2.なぜ「2段階給付」なのか
国としては、「なるべく早く給付を行い、景気対策や支援を行いたい」という意図がありました。しかし、所得税や住民税は申告や年末調整により前年の所得に応じて遅れて確定する性格上、すべてが確定してから給付金を配ると時期が遅すぎるという問題がありました。そのため、一旦推計で払ってから最終的に誤差を調整するという方法がとられたのです。
なお、もし当初給付を受けすぎていた場合でも、国が「返還」を求めることはありません。逆に「もらい足りなかった」場合は、追加で不足額が支給されるというわけです。
4-3.年金受給者の場合の注意点
年金は毎年少しずつ増減があり、特に物価スライドなどに応じて上がる(下がる)こともあります。また、扶養親族の増減(配偶者の状況が変わったり、お子さんや孫を扶養に入れた・外したなど)によって、所得控除が変わり所得税額にも影響が出ます。
このため、前年と今年の年金受給額が微妙に異なる場合は、当初給付と実際の不足額に差が出ることがあり、「不足額給付(1)」の対象になり得ます。ただし、極端に年金額が変わらない限りはそんなに大きな増減は期待できませんので、「なんで私は追加でもらえないの?」と不安になりすぎず、まずは自治体からの通知を待つことが重要です。
5.不足額給付②:減税も10万円給付もない人への救済措置
5-1.制度の狭間にいる人が対象
「住民税非課税世帯なら10万円の給付があるし、4万円の定額減税が受けられるほどの税額を払っている人は定額減税そのものが受けられる。じゃあ、そのどちらにも該当しない人は?」という疑問が生じます。
実は、住民税非課税世帯にも当たらず、かつ税金が0円または限りなく少ないという人が存在します。その代表例が、年金収入が158万円超~170万円前後の65歳以上の方。こうした方々は、公的年金控除や基礎控除などで結果的に所得税・住民税が発生しない(もしくは極めて少ない)のに、合計所得金額が48万円超となるため、住民税非課税世帯の10万円対象にも入らないという厄介な立ち位置になりがちです。
5-2.具体的な事例
たとえば、65歳以上の年金受給者で年金収入が165万円の方がいるとします。公的年金控除110万円を差し引くと、雑所得としての合計所得は55万円程度になります。基礎控除などの影響もあり、最終的な所得税・住民税はゼロまたはごくわずかとなる場合があります。
ところが、住民税非課税世帯の要件は「合計所得金額48万円以下」などとなるため、55万円の雑所得では住民税非課税世帯の範囲を超えてしまうのです。結果として、定額減税(4万円)の恩恵もなく、10万円給付の対象にも入れないという「狭間」に陥ります。
このような方々を対象に、「不足額給付(2)」として最大4万円が支給されることになりました。これにより、まったく何の恩恵もないという不公平感を解消する狙いがあります。
5-3.要件の3つのポイント
不足額給付(2)が支給される要件は主に3つとされています。
- 所得税も住民税も課税されていない(つまり税金ゼロ)
- 合計所得金額が48万円超である
- 住民税非課税世帯など、10万円給付の要件を満たさない
先述のように年金受給者で、年金収入が158万円超~170万円前後の方が典型例です。ご自身の年金収入額と、公的年金控除の仕組み(65歳以上なら110万円控除など)を把握し、合計所得金額がどうなるのかを確認してみましょう。
6.受給のための手続きと注意点
6-1.基本は「プッシュ型」
不足額給付(1)については、自治体が年金支払報告書などの情報をもとにあなたの税額を把握しているため、**通常は自治体側から連絡が届く(プッシュ型)**ことが想定されています。税務署に行って自分で申告する必要はありません。
一方、不足額給付(2)のように「狭間」にいるケースは、自治体側で全容を把握しづらいため、あなたからの申請が必要になる可能性が高いとされています。
6-2.どこに申請するのか
税金の話なので「税務署?」と思われがちですが、不足額給付や住民税非課税世帯向けの給付金関連は自治体(市区町村)が窓口になるケースがほとんどです。所得税部分の不足額給付ですら、実際には国税庁ではなく、あなたの住む市区町村役場が担当しています。
そのため、最新情報を得るには、住んでいる自治体の公式ホームページをチェックするか、電話や窓口で問い合わせを行いましょう。市区町村によって給付時期や申請開始時期が異なる可能性があります。
7.申請が必要となるケース
7-1.不足額給付(1)でプッシュ通知が来ない場合
本来、当初給付との差分を自動的に支給することになっていますが、自治体側で把握できていないケースや、何らかの事務的エラーで通知が来ないことが万が一あるかもしれません。年金の支払報告が正しく行われているか、過去に修正申告を行ったかなど、気になる点がある場合は、自分から問い合わせてみるのが得策です。
7-2.不足額給付(2)の狭間にいる場合
先述した通り、最も申請が必要なのは「不足額給付(2)」対象者です。特に、世帯構成や合計所得金額が微妙なラインにある場合は、市区町村が自動的に**「この人は何ももらっていない」**と正確に判断できない場合もあります。
また、家族構成の変化があったり、扶養認定の状況などが絡む場合は、家族の合計所得金額や課税状況が変わるため、給付の対象となるかどうかは個別判断が必要です。ぜひ市区町村や専門家に確認をとりましょう。
8.よくある質問Q&A
Q1:年金収入しかない場合、確定申告は必ずしないと不足額給付は受けられない?
A1:必ずしも確定申告は不要です。なぜなら、市区町村は年金支払報告書を通じて、あなたの年金所得情報を把握できるからです。ただし、医療費控除やその他の所得控除を受けたい場合は確定申告が有利になる可能性がありますし、申告義務がある人はきちんと申告を行う必要があります。
Q2:今年は収入が変わったので来年の税額が変わりそう。給付金もまた増減する?
A2:その可能性はあります。ただ、今回の不足額給付はあくまで令和6年度分(所得は令和5年中)や令和6年中の所得税額をもとにした制度です。将来さらに収入が変わっても、今回の「定額減税・不足額給付」とは直接連動しない可能性があります。今後新たな制度が追加されれば、別途判断が必要です。
Q3:住民税非課税世帯の10万円給付と定額減税・不足額給付は同時に受けられるの?
A3:どちらも要件を満たせば重複で受給可能です。ただし、住民税非課税世帯なら住民税が0円なので、定額減税は適用しようにも税額がない(=減税枠は発生しない)ので、「結果的に不足額給付になるか?」という点は個別に確認する必要があります。
Q4:当初給付で多くもらいすぎた場合は返す必要があるの?
A4:国は返還を求めないと明言しています。「余分にもらえてしまった」というケースでは、追加の手続きは不要です。
9.まとめ:今後の流れと最新情報
9-1.給付実施の時期
多くの市区町村では、「今年の夏以降に再度の不足額給付を行う」「7月~8月頃に自治体から通知を発送する」という方針を発表しています。たとえば千葉市は「6月下旬~7月上旬にお知らせ」、埼玉県新座市は「8月頃にお知らせを発送予定」と公表しています。
つまり、自治体によって時期や段取りが少しずつ異なるため、必ずお住まいの市区町村のホームページや広報紙などで最新情報をご確認ください。
9-2.政局の動向にも注目
定額減税をはじめとする今回の政策は、岸田政権下で決定されたものです。ただし、政権交代や内閣改造などが起こると、今後の方針変更があり得るかもしれません。制度設計が長期にわたって混乱している状況なので、国の方針によってはさらに変更がなされる可能性もゼロではありません。
しかし、現時点では**「不足額給付を打ち切る」**という話は出ていないため、原則として今回お伝えした内容に沿って進んでいく見通しです。
9-3.受給資格がありそうなら自治体への確認を
今回の記事を読んで、「自分はどうなんだろう?」と思った場合、まずは住民税の課税状況や前年(令和5年)の年金収入額を確認してみてください。不足額給付(2)に当てはまりそうという場合は、自治体の担当部署へ問い合わせ、申請時期や必要書類を案内してもらうとよいでしょう。
とくに「本当は10万円給付の対象だと思っていたが、実は合計所得金額が48万円を超えていて対象外になっていた」ケースなど、ややこしい条件に該当する方が少なくありません。申請期限なども自治体により異なりますので、対応はお早めに。
10.免責事項
本記事は、執筆時点での公開情報や法令、一般的な税務・会計上の解釈をもとに作成していますが、実際の適用・判断については各個人の所得状況や家族構成、自治体の方針などにより異なります。また、税制や給付金制度は国や地方自治体の判断で予告なく変更される場合があります。
そのため、本記事の内容を鵜呑みにせず、最終的には必ず税理士や市区町村の担当部署、専門家に相談のうえでご自身の状況に合った判断を行ってください。本記事の情報を利用したことにより、いかなるトラブルや損害が生じても、当方は一切の責任を負いかねますのでご了承ください。
以上、IT大手上場企業で財務経理幹部を務めていた経験を活かしつつ、自分の親が年金受給者として実際に疑問に思ったことをスタートに、顧問税理士に確認した結果をまとめました。定額減税や不足額給付は分かりにくい点が多いですが、正しく理解すれば確実に家計の助けとなります。この記事が皆さまの制度活用の一助となれば幸いです。今後も最新情報を適宜チェックし、必要に応じて専門家へご相談ください。