税理士に聞いた!円安や物価高騰の影響も考慮した日当設定のコツと、役職別支給でムリなく節税する具体策

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税理士に聞いた!
円安や物価高騰の影響も考慮した日当設定のコツと、
役職別支給でムリなく節税する具体策


1. はじめに

企業経営において、税負担は避けて通れない大きな課題です。「売上が伸びているのに、思ったよりも手元に資金が残らない」と感じる経営者の方も多いのではないでしょうか。そこで注目すべきなのが、出張旅費規程を整え、日当を活用することで税負担を合法的に軽減する方法です。

この節税策は、日頃の雑多な経費をまとめて「日当」として支給し、法人税はもちろん、個人の所得税や社会保険料の軽減にもつなげることが期待できます。さらに、現状の円安物価高を踏まえ、日当額を見直すことで、より実態に合った制度を構築しやすくなりました。特に役職や業務内容によって支給額を変えるなど、柔軟な設計ができるのが日当の大きな特徴です。

本記事では、税理士からの実務的なアドバイスを踏まえながら、円安や物価の影響を考慮した日当設定のコツや、役職別にどう設定するか、出張旅費規程の作り方や税務調査の注意点などを詳しく解説します。ぜひ参考にしていただき、実態に即した制度を整え、事業の安定と発展につなげてください。


2. 日当とは? 出張旅費規程で節税を狙う大きなメリット

2-1. 日当の概要

日当とは、業務に必要な外出や出張に伴う、細かい費用(食事代・喫茶代・雑費など)をまとめて支給するお金のことです。個別の経費をすべて領収書ベースで精算すると面倒ですが、日当を利用することで支給方法が簡素化できます。

また、出張旅費規程に基づく日当は、受け取る個人にとって課税対象(給与扱い)にならないケースが大半です。法人側は経費として計上しやすく、かつ個人側も所得税や住民税、社会保険料を増やさずに済むというメリットがあります。

2-2. 法人・個人にとってのメリット

  • 法人:課税所得の圧縮ができる
    日当分は会社にとって経費となるため、結果的に法人税の課税所得を圧縮可能。税率分だけ直接的に税負担が軽くなります。
  • 個人:非課税扱いで手取りアップ
    会社からの「給与手当」の名目ではなく、出張旅費規程に基づく日当であれば、多くの場合非課税です。よって、個人の所得税・住民税や社会保険料の負担が増えることなく、実質的な「手取り」を増やせます。

3. 円安・物価高が進むいま、日当の見直しが有効な理由

円安や物価高が続くと、業務上の諸経費や出張費用も増加しがちです。そこで「ホテル代」「交通費」「食事代」などを実費で精算していくと、従来より高額になってしまい、結果的に会社や従業員の負担が増える可能性があります。

3-1. 日当のメリットがさらに大きく

  • 諸経費の上昇に対応しやすい
    物価上昇で宿泊費や食事代が高騰しても、あらかじめ定めた日当を支給しておけば、その範囲内である程度カバー可能。
  • 実態に合った金額設定がしやすい
    出張旅費規程を改定し、日当額を引き上げることで、従業員や役員の負担を軽減できます。ただし、後述する税務調査の注意点を踏まえ、社会通念上「高すぎない」範囲で設定することが重要です。

3-2. 「為替レート」「エネルギーコスト」などを加味

特に海外出張がある場合、円安の影響で渡航費や現地費用が軒並み上昇しています。海外出張用の日当は、通常の国内出張よりも高めに設定している企業が多いため、この機会に改定を行い、実態に合った制度へアップデートするのがよいでしょう。


4. 役職別の設定も視野に!日当の相場と設定ポイント

4-1. 一般的な「日当」相場

  • 日帰りの場合:3,000円~5,000円程度
  • 宿泊を伴う場合:5,000円~7,000円程度(宿泊費は実費精算+宿泊日当として支給)

もちろん、業種や職種、出張頻度によっても大きく変わります。製薬会社のMRや営業が多い業種では、日当制度が広く普及しており、一日の外出で5,000円程度の支給は比較的一般的です。

4-2. 役職や業務内容に応じた設定

企業規模や役員・従業員の職責によっては、下記のように日当額に差をつけることも可能です。

  1. 一般社員・スタッフ
    • 移動範囲が限られ、単なる1~2時間の打ち合わせが中心なら、3,000円程度が目安。
    • 一方で5時間以上にわたる長時間の外出・現場作業が多いなら、5,000円程度も検討可能。
  2. 中間管理職・マネージャー
    • 一般社員よりも外出回数が多い、関係先との長時間打ち合わせが多いなどの場合、日当を高めに設定しても妥当性が認められることも。
    • 4,000円~6,000円程度を目安にし、かつ「1日5時間以上または○○km以上の移動があった場合」など条件を明確化すると安心です。
  3. 役員・取締役・代表取締役
    • 経営責任者は大きな取引先との交渉など出張規模も大きくなる傾向があります。
    • 一般社員や管理職よりもさらに1,000~2,000円上乗せして設定する企業もあります。
    • ただし、あまりに高額だと税務署から「実質的な役員報酬の増額」とみなされるリスクもあるため、周囲の相場をよく確認しつつ適正なラインを探ることが重要です。

4-3. 物価・円安を踏まえた上乗せ

円安やインフレが進行している状況を考慮し、2~3年前に比べて1割~2割ほど日当を引き上げる企業も珍しくありません。ただし、あくまで「業務に必要な経費」として社会通念上許容される範囲かどうかを、税理士などの専門家に相談しながら判断しましょう。


5. 宿泊あり・なし、どちらでも使える出張旅費規程の整え方

5-1. 日当を支給するための大原則:規程化

日当を支給する際、税務面で問題が起きないようにするには、出張旅費規程をきちんと整備することが必須条件です。具体的には、以下のような項目を明記します。

  • 出張・外出の定義
  • 宿泊・日帰りごとの支給基準と金額
  • 役職・職種別の差異を設ける場合の根拠
  • 実際に支給を行う際の手続き(申請書、報告書など)

5-2. 「宿泊の場合」と「宿泊なしの場合」の相違点

  1. 宿泊の場合
    • 宿泊費は領収書で実費精算することが多い
    • 宿泊日当として、一晩あたり5,000円前後で設定する例が多い
    • 交通費(飛行機・新幹線・タクシー等)は別途精算
  2. 宿泊なし(日帰り)の場合
    • 「○時間以上の外出」あるいは「○km以上の移動」などの条件を設定
    • 3,000~5,000円程度の一律支給(上限額・条件を明確化)

5-3. 円安や物価高に応じた運用

ホテルや交通機関の料金は、経済情勢に応じて変動しやすい部分です。定期的に相場をチェックし、必要に応じて社内規程を改定することをおすすめします。あまり長期間にわたり一度も見直さないままだと、実態とかけ離れた設定になり、結果的に従業員・役員の負担や会社の税務リスクを高める要因となりかねません。


6. 税務調査のチェックポイントとリスク回避の方法

6-1. チェックされやすいポイント

  1. 出張実態の有無
    • 本当に仕事のための外出だったのか?
    • 証拠書類(出張命令書・日報・打ち合わせ記録など)があるか?
  2. 金額の妥当性
    • 「日当があまりに高額ではないか」
    • 「他の従業員・他社の相場と比較して過剰ではないか」
  3. 規程と実際の運用との整合性
    • 規程で定めた金額・条件を守っているか?
    • 社内で一貫したルール運用がなされているか?

6-2. リスク回避策

  • 規程を必ず整備し、社内周知を徹底
    業務の実態と制度を明確化することで、税務署から「恣意的な手当」扱いされにくくなります。
  • 証拠書類をしっかり保管
    領収書やメール履歴、打ち合わせ議事録など、出張や外出が本当に業務目的であることを示す資料を残すと安心。
  • 役職ごとの支給差にも根拠づけを
    「役員は責任が重く、出張内容が複雑なので日当が高い」という形で、論理的に説明できるようにしておくと否認リスクを下げられます。

7. 出張旅費規程の作成・運用フロー

  1. 会社の実態把握
    • 従業員の外出頻度、宿泊出張の有無、移動距離、打ち合わせ先の多さなどを調査。
    • 円安・物価高の影響も踏まえ、目安としていく。
  2. 規程案の作成
    • 日当金額、役職別の差、宿泊なし・あり、海外出張などをそれぞれ設定。
    • 社会通念上、妥当と思える範囲かどうかを意識。
  3. 社内承認・告知
    • 経営者や役員会などで承認を得る。
    • 全従業員に配布・説明して運用開始日を決定。
  4. 運用開始後のフォロー
    • 出張命令書、出張報告書、経費精算システムなどを整備。
    • 必要書類をそろえやすくしておき、支給実態をチェックできる体制を作る。
  5. 定期的な見直し
    • 経済情勢や物価、会社の状況に応じて年に1回程度は改訂を検討。
    • 改訂のたびに従業員・役員へ周知徹底。

8. トラブル事例Q&A:こんなときはどうする?

Q1. 円安・物価高で宿泊費が高騰。日当や宿泊費を大幅アップしても大丈夫?

A. 一定の根拠づけがあれば問題ありません。たとえば、「今年度はホテル代が軒並み○割上昇している」「交通費も過去に比べて○円増えた」など、データを示せると説得力が高まります。ただし、アップ幅が大きすぎると税務署から「過剰な手当」とみなされる可能性もあるので、あくまで「業務に必要な実費+日当」であることが分かる範囲にとどめましょう。

Q2. 役員だけに高額な日当を設定しているが大丈夫?

A. 役員や管理職が高額な出張日当をもらうこと自体は、業務実態があれば問題ありません。ただし、極端に高い日当は「実質的な役員報酬」扱いされる可能性があります。**「なぜ役員のほうが高いのか」**をきちんと説明できるように、業務内容や責任範囲などを示すようにしましょう。

Q3. 海外出張の日当はどう設定すればよい?

A. 一般的に、海外出張の日当は国内より高めに設定します。現地の物価や為替レートが大きく影響するため、**「海外×宿泊あり」「海外×宿泊なし」**のように区分し、米ドルやユーロでの現地物価を加味しておくとよいでしょう。

Q4. 近場(数km程度)の外出でも日当を出して問題ない?

A. 距離基準が短すぎると、税務署から「単なる給与の加算では?」と疑われるリスクがあります。どうしても短距離・短時間の外出が多い場合は、**「○時間以上(例:5時間以上)の外出で日当支給」**といった時間基準を設ける方法がおすすめです。


9. 実践的なポイントまとめ:日当の見直しでムリなく節税を

  1. 出張旅費規程の策定は必須
    • 「どんなときに、いくら支給するか」のルールを明確化。
    • 円安・インフレを念頭に置き、現行規程が実態に合わなくなっていないか定期的にチェック。
  2. 宿泊なしでも日当はOK
    • 距離や時間を基準に設定すれば、日帰りでも問題なく支給可能
    • ただし、極端に短距離・短時間の外出が頻繁に日当対象になるのはリスキー。
  3. 役職による金額差は根拠づけが大切
    • 役員や管理職は責任の範囲が広く、出張内容も複雑な傾向があるため、やや高めの設定もあり。
    • あまりに差が大きいと、税務署に「給与の上積み」とみなされる危険性あり。
  4. 証拠書類の整備と保管を徹底
    • 出張・外出の目的、日時、訪問先、打ち合わせ内容などがわかる資料を残す。
    • 経理・管理部門が一元管理し、税務調査時に即座に提示できるようにしておく。
  5. 顧問税理士や専門家のサポートを受ける
    • 出張旅費規程の作成や改訂は、税理士や社労士に相談するのがベター。
    • 日当がどの程度「妥当」なのか、税務面のリスクはないかなど、総合的な視点から助言が得られます。

10. まとめ

円安や物価高が続く時代背景のなか、出張旅費規程を活用して日当を支給することは、企業にとっても従業員・役員にとっても大きなメリットがあります。

  • 法人税・所得税・社会保険料の負担を軽減
  • 外出・出張時に発生する細かい経費を簡素化
  • 円安・インフレが進んでも実態に合わせて柔軟に改定可能

とはいえ、無制限に高額な日当を設定すると、税務署から「実質的な給与の上積み」とみなされ、後に追徴課税否認を受けるリスクもあるため注意が必要です。そこで大切になるのが、**「出張旅費規程をしっかり整備し、社内で一貫して運用する」**こと。そして、役職や業務内容、円安や物価水準を踏まえて、適切な金額を設定することです。

  • ポイント1:妥当な基準・金額設定をする
    距離や時間で基準を明確化し、業務実態に合わせる。
  • ポイント2:役員や管理職への支給根拠を明確化
    なぜ高めに設定しているのか? 業務範囲や責任の大きさを説明できる体制を作る。
  • ポイント3:証拠書類の整備・保管を徹底
    出張命令書や日報などを残し、業務の実態を示す。

これらを踏まえて日当を上手に運用すれば、現場での経費精算や事務作業がスムーズになるだけでなく、節税によるキャッシュフローの改善にもつながります。もし不安や疑問があれば、税理士や社会保険労務士などの専門家にぜひ相談してみてください。企業規模や業種、社内の出張実態に合った最適な制度設計を提案してもらえるはずです。

この機会にぜひ一度、自社の出張旅費規程を見直し、円安や物価高にも負けない、役職別・実態重視の日当設定でムリなく節税を実践していきましょう。

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