【税理士に聞いた】
法人税の別表を理由付きで
やさしく理解する方法
1. はじめに:法人税申告書と別表の概要
日本の法人が事業年度ごとに納める法人税。その申告書類はさまざまな「別表」と呼ばれる書式によって構成されています。なかでも代表的な別表には、別表1・別表4・別表5(1)・別表5(2) といったものがあり、それぞれ役割や記載内容が大きく異なります。
しかし、多くの方がつまずきがちなのが、「なぜ別表ごとに数字がつながっているのか」「どこからどこへ数字が流れていくのか」という点です。これを丸暗記してしまおうとすると忘れがちですが、「理由を理解する」ことで整理しやすくなります。
ここでは、税理士から教わったポイントをもとに、法人税の主要な別表同士のつながりを、理由付きでやさしく解説していきます。この記事を読めば、次のような疑問が解消されるはずです。
- 「別表4」から「別表1」へどのように数字が流れるのか
- 「別表5(1)」と「別表5(2)」は何が違って、どこがつながっているのか
- 加算・減算って結局どう使い分けるの?
- 「留保」と「社外流出」って何が違う?
それぞれの仕組みや流れをしっかり把握し、申告書を作成する際の理解を深めていきましょう。
2. 別表の全体像を把握する重要性
2-1. 別表は「会計」と「税法」の橋渡し
法人税の申告書は、企業が作成した決算書(会計)をベースに、会計と税法との違いを調整して税額を確定するための書類です。会計上の利益に対して、税法上は「ここはまだ費用として認めない」あるいは「ここは収益計上しない」などの差異が生じます。
2-2. 各別表の役割
- 別表4
企業の当期純利益をスタートとして、会計と税法の差異を加減(加算・減算)し、税法上の所得(課税所得)を算定するための別表です。いわば「法人税版の損益計算書」とも言えます。 - 別表1
別表4で計算した所得に対して税率をかけ、最終的に法人税額を計算する書類です。いわば「税額計算の最終着地点」。法人税の本税に加え、地方法人特別税や申告調整のための控除なども反映されます。 - 別表5(1)
「法人税等の資本等取引以外の資本剰余金・利益剰余金の明細書」として、いわば「税法上の自己資本(純資産)明細」にあたります。会計上の利益剰余金をベースに、税法上認める・認めないタイミング差(=留保)などを調整して期首・期末の剰余金残高を示します。 - 別表5(2)
「租税公課の納付状況等に関する明細書」のような役割を持ちます。特に未納の法人税・住民税などをどのように計上しているかを記載し、期首から期末までの増減を管理します。会計では「未払法人税等」、税法では「納税充当金」という形で認識し、これらをどう扱うかを明らかにします。
このように、別表4 → 別表1 → 別表5(1) → 別表5(2) という大まかな流れで、最終的な税額や剰余金、未納税額などが整理されます。以下では、個別のつながりについて詳しく見ていきましょう。
3. 別表4と別表1のつながり
3-1. 別表4の一番下の「所得」が別表1の一番上の「所得」へ
まず押さえておきたいのは、「法人税の課税対象は所得である」という大原則です。別表4は、会計上の当期純利益に対し、税法と会計の差異(加算・減算)を行いながら税務上の所得を計算します。
そして、別表1は、その計算された所得に税率を掛けて税額を算定するための書類です。具体的には、別表1冒頭の「課税標準である所得の金額」欄に、別表4で計算し終えた金額がそのまま反映されます。
別表4 ⇒ 別表1 の数字の流れ
- 別表4の最上段に当期純利益(会計上のPLの最終行の数値)
- その下で加算項目・減算項目を調整
- 最終的に算定される「所得」
- 別表1の「所得金額」の欄に転記
- 法人税率を掛けて税額を求める
イメージとしては、別表4が「法人税版の損益計算書」を担い、そこで計算された所得が別表1で「最終的な法人税額」へとつながるというわけです。
3-2. なぜ所得を別表4で計算して別表1で使うのか
理由はシンプルで、「法人税の課税標準は所得である」からです。会計で計上された利益を、そのまま課税標準としないのは、会計と税法の目的の違いがあるからです。
- 会計:企業の財政状態や経営成績を「真実かつ公正」に示す
- 税法:課税の公平を実現するため、一定の政策・ルールを適用
このため、損益計算書の利益に対し、税法独自の認める・認めないを加えて「所得」を算定。その所得が別表1に引き継がれて税額計算の材料となります。
4. 別表4と別表5(1)のつながり
4-1. ポイントは「留保」の調整
次に、別表4と別表5(1)の間にあるつながりを理解しましょう。ここで鍵となるのが、「留保(りゅうほ)」という項目です。留保とは、会計と税法で認めるタイミングが異なる差異のことで、将来にわたって解消される(つまり一時差異が生じる)ものを指します。
- 別表4:当期の所得計算のために、加算・減算を行う
- 別表5(1):期首から期末までの利益剰余金の増減を把握する書類
会計上の利益剰余金と税法上の利益積立金額を突き合わせるときに、将来的に解消される一時差異は「留保」として扱い、別表4では加算・減算して所得を計算します。これら留保項目は後に解消されるため、別表5(1) で利益積立金額にプラス・マイナスをして管理するのです。
別表4 ⇒ 別表5(1) の具体的流れ
- 別表4の加算・減算欄に「留保」として記載された項目(例えば減価償却費の超過額など)
- 別表5(1)の「増加欄」「減少欄」にその留保額を転記
- 期首の利益積立金額に増加・減少を加えて、期末の利益積立金額を計算
こうした流れで、別表4と別表5(1)は「留保」というキーワードを通じて密接につながっています。
4-2. なぜ「留保」が重要なのか
「留保」が重要なのは、将来的に所得計算へ再び影響を与えるかどうかが焦点だからです。たとえば、減価償却費で考えると、税法上は会計より早いペースで償却を認める場合があります。すると当期は償却費が多く、結果的に当期の所得は少なくなりますが、将来には償却できる余地が少なくなり、将来の所得が増えるという構造です。
会計上は一定の償却費を計上、税法上は多めに計上――この差が「留保」として管理され、後の期で解消されます。こうした時間の経過とともに解消される差異をしっかり記録する必要があるため、別表4で留保を加減算し、別表5(1)で期首・期末の剰余金残高に反映していきます。
5. 別表5(1)と別表5(2)のつながり
5-1. 「未納税額(未払法人税等・納税充当金)」の扱いがポイント
別表5(1) は「利益積立金額・資本金等の期首期末残高」を示すのに対し、別表5(2) は「租税公課(法人税等)の支払・未納状況」を示します。どちらも共通しているのは、「未納の法人税や住民税等」をどう扱うかという点です。
- 会計上:未払法人税等
- 税法上:納税充当金
会計では、税金を費用計上したものの、まだ支払っていない分を未払法人税等という負債勘定で処理します。一方、税法では、期末における「まだ支払っていない税額」を厳密には負債として認めません。代わりに「納税充当金」という概念で扱ったり、あるいは「未納の法人税・住民税」として別表上で調整したりします。
別表5(1) と 別表5(2) のつながり
- 別表5(1):下段に「納税充当金」「未納法人税・住民税」の期首・期末残高を記載する欄がある。
- 別表5(2):各税目(法人税、地方法人特別税、住民税など)の納付状況・未納額を期首から期末にかけて増減で示す。
結果的に、別表5(1)でも別表5(2)でも、同じく未納税額を管理する欄が出てくるため、それぞれの金額が一致する必要があります。
5-2. なぜ両方に書くのか
「同じ未納税金をなぜ二重に書くのか?」と疑問に思う方は多いですが、それには以下の理由があります。
- 別表5(1)は剰余金の管理がメイン
- 会計上は未払法人税等を負債として計上するため、その分だけ利益剰余金(純資産)が少なく表示されます。
- 税法上は納税充当金を負債として認めない立場をとるため、会計で引いていた分をプラス・マイナスして「税法上の利益積立金額」に合わせる必要があります。
- 別表5(2)は各税金の納付状況がメイン
- 法人税等、地方法人特別税、住民税などの実際の納付・未納の増減状況を把握するために必要。
- 特に大企業になると、仮払法人税や予定納税、繰越欠損金の状況なども含めて複数の要因があり、まとめて可視化する目的がある。
つまり、剰余金の観点(別表5(1))と税金の納付・未納状況(別表5(2))の観点とで管理目的が違うため、どちらにも書く欄が設けられているわけです。
6. 加算と減算の仕組みを理解するコツ
6-1. なぜ「加算」と「減算」があるのか
先述のとおり、法人税では会計上の利益をベースに税法上の所得を計算します。その際、会計と税法で異なる項目・金額を調整するために「加算」と「減算」という2種類の操作を行います。
- 加算(プラス):会計上の費用を認めなかったり、追加で収益を認識したりするイメージ
- 減算(マイナス):会計上の収益を否認したり、追加で費用を認めたりするイメージ
6-2. 加算・減算を4つのパターンに分ける
実際には、加算・減算には以下の4パターンがあります。
- 加算(費用を否認)
例:会計で費用計上しているが、税法ではまだ費用として認めない → 法人税上の利益(所得)を増やす調整 - 加算(収益を追加計上)
例:会計で収益計上していないが、税法ではすでに収益とみなす → 法人税上の利益(所得)を増やす調整 - 減算(費用を追加計上)
例:会計で費用計上していないが、税法では費用と認める → 法人税上の利益(所得)を減らす調整 - 減算(収益を否認)
例:会計で収益を計上しているが、税法では認めない → 法人税上の利益(所得)を減らす調整
このように、「会計の利益から見て増えるのか、減るのか」を意識すると理解しやすいです。試験や実務で「どちらに書くのか」迷うときは、会計上の利益に対してプラスかマイナスかを考えると分かりやすいでしょう。
7. 留保と社外流出(2種類の差異の把握)
7-1. 留保項目とは「タイミングの差」のこと
先ほども触れましたが、「留保(りゅうほ)」は、将来に解消される一時差異です。例えば減価償却費や貸倒引当金、賞与引当金など、将来的に費用や収益として認められるタイミングが会計と税法でずれているものが該当します。
- 将来的に所得計算に影響するため、別表4の加算・減算で調整しつつ、その差額を別表5(1) で「期首残高 → 当期増加/減少 → 期末残高」として管理します。
7-2. 社外流出項目とは「考え方の差」のこと
一方、「社外流出(しゃがいりゅうしゅつ)」項目は、会計と税法の“考え方”が異なり、永久に解消しない差異をいいます。例えば交際費の一部(損金不算入部分)や、役員賞与(原則損金不算入)など、そもそも税法上は費用として認めないケースが該当します。
- 一度きりで完結し、将来にわたって影響しないため、別表4では「社外流出」として加算・減算を行うものの、別表5(1)で追跡する必要がありません。
留保と社外流出の違い
- 留保:一時差異、将来に解消 → 別表5(1)で残高管理
- 社外流出:永久差異、将来に解消しない → 別表5(1)では追わない
実務では、いずれも「法人税上の調整」として別表4に記載しますが、その後別表5(1)で管理するかどうかが大きく異なるため、しっかり区別しておきましょう。
8. 実務上よくある留保項目・社外流出項目の例
ここでは、実務でよく目にする留保項目と社外流出項目を例示します。税理士に相談するときにも、「これは留保か社外流出か」を確認すると、別表のつながりを把握しやすくなります。
8-1. 留保項目の例
- 減価償却費
- 税法上、会計の定額法と異なる償却方法を取ったり、特別償却を認めたりする場合がある。
- 将来の費用計上タイミングがずれるため、一時差異(留保)となる。
- 貸倒引当金(一部認められるケース)
- 会計上と税法上で繰入基準が異なる場合、当期と将来期で認められる額がズレるため留保となる。
- 賞与引当金
- 税法では、一定の要件を満たせば損金算入できるが、要件外ならば当期には認められない場合などがあり、差異が将来期で解消される。
- 修繕引当金(会計とのタイミング差)
- 法人税法上は引当基準が厳格で、実際の支出が行われるまで費用と認めない場合が多い。
8-2. 社外流出項目の例
- 交際費等の損金不算入額
- 一般に一定額を超える部分が損金不算入(中小法人には定額控除の特例などあり)。
- 税法上は費用として永久に認めないため、当期の加算調整のみで終わる。
- 役員賞与(原則損金不算入)
- 税法上、原則として役員賞与は損金不算入。一部、事前確定届出給与など要件を満たす場合のみ損金算入可。
- 要件を満たさない場合には永久に不算入となるため社外流出項目。
- 罰金・科料等
- 公共性の観点で費用としては認めない場合が多く、永久差異となる。
- 寄附金の損金算入限度超過額
- 法人税法上には寄附金の限度額があり、超過した部分は損金不算入。これも将来にわたって認められない(繰越し不可の部分)ため社外流出項目となる。
9. まとめ:法人税の別表をスムーズに作成するポイント
ここまで見てきたとおり、別表の作成やつながりを把握する際のポイントは「理由」と「流れ」をしっかり理解することです。最後に、スムーズに作成するポイントを整理します。
- 会計のPL(損益計算書)・BS(貸借対照表)の数値を確認
- 当期純利益、未払法人税等、利益剰余金の残高など、基本となる数値が正しく計上されていることが前提。
- 別表4で会計上の利益を“税法上の所得”に調整
- 加算・減算それぞれに対して、「増やす要因か減らす要因か」を明確に意識。
- 留保か社外流出かの区別も同時に行う。
- 別表1に“別表4で計算した所得”を正しく転記
- 所得に対して法人税率を掛け、税額を算定する。控除や税額控除がある場合は別表1で調整。
- 別表5(1)で“留保”分を管理し、法人税版の利益剰余金を把握
- 利益積立金額の期首残高から期末残高への変動を記録。
- 納税充当金・未納法人税等も必要に応じてプラス・マイナスする。
- 別表5(2)で“未納税金”や実際の納付状況を整理
- 法人税、地方法人特別税、住民税など税目ごとの期首残高、納付(減少)、追徴(増加)を記録し、期末未納残高を計算。
- 留保項目は将来も反映されるため、ミスなく計上する
- 減価償却費などは複数年度にわたり影響。年度をまたぐときに取りこぼしがないよう注意。
- 社外流出項目は当期のみの調整なので忘れない
- 交際費等の損金不算入などは翌期以降には影響しない。しかし、当期の計算ミスをするとそのまま納税額を誤ることになる。
こうしたポイントを念頭において、決算書 → 別表4 → 別表1 → 別表5(1) → 別表5(2) という流れで確認を行うのが効率的です。最初は複雑に感じる別表ですが、会計と税法の“違い”をどこで調整しているかを明確にイメージすると理解が深まります。
10. おわりに:税理士から教わった“つながり”を整理するメリット
今回ご紹介したように、法人税の主要な別表である別表4・別表1・別表5(1)・別表5(2)の相互関係は、「会計と税法の考え方の違い」をどのように調整するかで決まります。税理士の先生方からよく指導されるのは、「数字のつながり」を理解すると申告書のミスを減らせるだけでなく、会社の状態をより深く把握できるという点です。
- 正確な申告:加算・減算の計上漏れやダブりを防ぎ、適切な税金を納める。
- 会社の経営状況の可視化:留保や社外流出の項目から、実際に使えるお金(利益)と税法上否認される費用の差を把握できる。
- 将来の税負担の予測:留保は将来に解消されるため、今後の納税額の見通しも立てやすくなる。
税理士から「別表の作り方は暗記ではなく、理由を理解しておくことが大事」とよく言われるのは、まさにこうした背景があるからです。
もし申告書作成で行き詰まったときは、「これは会計と税法のどんな差異で、将来解消されるか(留保か)永久差異か(社外流出か)」「どの別表に数字がつながっているのか」を考えてみましょう。そうすれば、複雑に見える別表でも論理的につながりを理解し、混乱を減らすことができます。
【あとがき】
本記事では、「税理士から教わった知識」をベースに、別表4 → 別表1 → 別表5(1) → 別表5(2) のつながりを解説しました。法人税申告書の作成は、単に書類を埋めるだけではなく、会社の財務・税務状況を総合的に理解する絶好のチャンスでもあります。数字がどのように動いているかを把握することで、経営判断や節税対策にも役立つ情報を得られるでしょう。
- 別表のしくみを一度丁寧に理解しておくと、次年度以降の申告が格段にスムーズになります。
- 分からない点がある場合は、ぜひ税理士の先生に遠慮なく質問し、理由ごと教わることが重要です。
今後の申告業務や税務対応に、ぜひお役立てください。