皆さん、こんにちは!エンジョイ経理編集長の〇〇です。
突然ですが、皆さんの会社の経理部門、人手不足に悩んでいませんか?「また求人を出したけれど、なかなか応募がない」「ベテラン社員に頼りきりで、もしもの時が不安」「新しい制度に追いつくのに精一杯で、他の業務に手が回らない…」
こうした声は、今や多くの企業で日常的に聞かれるようになりました。私自身も、かつて経理の現場で汗を流していた頃は、毎日のルーティンワークに追われ、「もっと本質的な業務に時間を割きたい」と常々感じていました。時代は変わり、課題はより深刻化していると痛感しています。
でも、安心してください。この人手不足は、単なる「危機」ではありません。むしろ、経理部門が大きく変革し、企業全体の成長エンジンへと進化するための「絶好のチャンス」だと私は考えています。
本記事では、なぜ今、経理部門で人手不足が問題になっているのか、その構造的な要因を深く掘り下げるとともに、AIや自動化ツールが経理業務にどんな革命をもたらすのか、そして私たち経理パーソンがAI時代を生き抜くためにどんなスキルを身につけ、どう育成していくべきか、具体的なロードマップとしてお伝えしていきます。
ただ情報を並べるだけでなく、私自身の経験や、多くの企業を見てきた中で感じたリアルな声も交えながら、皆さんの悩みに寄り添い、具体的な解決策を提示できるよう心を込めて執筆しました。さあ、一緒に「自走する経理部門」への一歩を踏み出しましょう!
イントロダクション
経理部門の現状と人手不足の深刻化
今、多くの企業で経理部門の人手不足が深刻化しています。これは単なる一時的な現象ではなく、構造的な要因が複雑に絡み合って起きている問題だと、私自身も日々感じています。
なぜ今、経理部門で人手不足が問題になっているのか?
少子高齢化による労働人口の減少
ご存知の通り、日本は世界に類を見ないスピードで少子高齢化が進んでいます。これは、特定の業界に限らず、あらゆる分野で「人が足りない」という状況を生み出しています。経理部門も例外ではありません。特に若手人材の確保は年々困難になっており、ベテラン層への負担が集中しがちです。
経理業務の複雑化(インボイス制度、電子帳簿保存法など)
さらに、追い打ちをかけるように経理業務自体が複雑さを増しています。記憶に新しいところでは、2023年10月に導入された「インボイス制度」や、2022年1月に改正され猶予期間を経て本格適用が始まった「電子帳簿保存法」など、次々と新しい制度が導入されています。これらの制度対応には、従来の業務フローの見直しや、システム改修、そして何よりも担当者の専門知識の習得が不可欠です。私も多くの企業でこの対応に追われる経理担当者の方々を見てきましたが、そのご苦労は想像を絶するものがあります。
専門知識とITスキルの両立が難しい人材要件
現在の経理部門では、「簿記の知識があるだけ」では不十分になりつつあります。むしろ、新しい制度やテクノロジーに対応するためには、経理や税務の専門知識に加え、クラウド会計ソフトやRPA、ExcelマクロといったITスキル、さらにはデータ分析能力まで求められるようになりました。しかし、この専門知識とITスキルの両方を高いレベルで持ち合わせる人材は非常に少なく、採用市場でも貴重な存在となっています。
簿記だけでは解決できない「実践的な」課題
経理部門の課題は、単に「人が足りない」だけではありません。
定型業務に追われ、戦略的な業務に手が回らない実態
日々の仕訳入力、請求書処理、支払業務、そして月次・年次決算といった定型業務は、企業の存続に不可欠です。しかし、これらのルーティンワークに多くの時間と労力が費やされ、会社の将来を考えたり、経営戦略に資する情報を提供したりするような「戦略的な業務」に、なかなか手が回らないのが実情ではないでしょうか。
属人化による業務停滞リスク
特定のベテラン社員しか知らない業務、特定の担当者しかできない処理。これは経理部門に限らず、多くの部署で起こり得る問題ですが、経理業務は会社の金庫番ともいえる重要な役割を担っているため、属人化は業務停滞だけでなく、重大なリスクにもつながります。その担当者が突然休職したり、退職したりした場合、業務が滞ってしまうだけでなく、不正のリスクさえ高まってしまうのです。
本記事で解決できること:人手不足解消へのロードマップ
このような深刻な状況を前に、「どうすればいいのだろう…」と途方に暮れている方もいらっしゃるかもしれません。ご安心ください。本記事は、そんな皆さんの具体的な悩みや課題を解決するための「ロードマップ」となることを目指しています。
AI・自動化ツールの具体的な活用法
AI-OCRやRPA、生成AIといった最新テクノロジーが、どのように経理業務を変革し、人手不足の解消に貢献するのか。その可能性と具体的な導入方法をステップバイステップで解説します。どのツールを選び、どう活用すれば良いのか、実践的な情報をお届けします。
経理パーソンに求められる新たなスキルと育成戦略
AIが定型業務を代替する時代において、私たち経理パーソンにはどんなスキルが求められるのでしょうか?データ分析能力、ITリテラシー、コミュニケーション能力など、新たな時代を生き抜くために必要なスキルと、それを身につけるための具体的な育成戦略についても深掘りします。
成功事例と失敗事例から学ぶ実践的なノウハウ
実際にAIや自動化ツールを導入し、人手不足の解消に成功した企業の事例、そして残念ながら導入がうまくいかなかった失敗事例からも、学びとヒントを得ていきましょう。他社の経験から得られる知見は、皆さんの会社での取り組みにおいて、かけがえのない財産となるはずです。
さあ、次章からは、経理部門の人手不足が抱える構造的な要因と、それが企業経営に与える具体的なリスクについて、さらに深く掘り下げていきましょう。
経理部門人手不足の構造的要因と企業への影響
経理部門の人手不足は、単に「人が足りない」という表面的な問題に留まりません。その背後には、経理業務特有の構造的な要因があり、それが企業経営全体に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
経理業務が属人化しやすい理由
私が多くの企業を見てきて感じるのは、経理業務が非常に属人化しやすいという点です。これは、経理業務の特性に起因するところが大きいのです。
ベテラン依存と知識のブラックボックス化
暗黙知化された業務フローとマニュアル不在
「これは〇〇さんに聞けばわかる」「あの処理は△△さんしかできない」—こんな会話、皆さんの職場でも耳にすることはありませんか?長年培われた経験や勘に基づく業務の進め方は、しばしば明文化されず、「暗黙知」として特定のベテラン社員の頭の中に蓄積されてしまいます。その結果、体系的なマニュアルが整備されず、新しい担当者が入ってもスムーズに業務を引き継げない状況が生まれます。私も若い頃、先輩の背中を見て覚えるしかなく、苦労した経験があります。
特定の担当者しか知らない例外処理
さらに、経理業務には「イレギュラー」がつきものです。通常の仕訳や決算処理とは異なる、特定の取引先との複雑な契約、過去の特殊な会計処理、税務上の特例対応など、通常のマニュアルではカバーしきれない例外処理が多々発生します。これらは多くの場合、担当者が個別に記憶し、対応しているため、その担当者が不在になると誰も対応できなくなり、業務が完全にストップしてしまうリスクを抱えることになります。
定型業務の多さと煩雑性
仕訳入力、請求書処理、消込業務などの繰り返し作業
経理業務の多くは、毎日、毎週、毎月、毎年繰り返される定型作業で占められています。例えば、膨大な量の仕訳入力、取引先からの請求書の確認と支払処理、入金確認と売掛金の消込作業など、どれも正確性とスピードが求められるものの、その内容は非常に反復的で、かつて私も正直「もっとクリエイティブな仕事がしたい…」と感じたものです。
手作業によるミス発生リスクとチェック工数
これらの定型業務を手作業で行う場合、どうしてもヒューマンエラーのリスクが伴います。例えば、数字の入力ミス、勘定科目の誤選択、請求書の二重処理など、小さなミスが後々大きな問題へと発展することもあります。そのため、ミスを防ぐための二重三重のチェック体制が必要となり、これがさらに経理部門の工数を圧迫し、残業時間の増加や生産性の低下を招いているのです。
人手不足が企業経営に与える具体的なリスク
経理部門の人手不足は、単に経理担当者が忙しくなるという問題に留まらず、企業経営全体に深刻なリスクをもたらします。
決算遅延と情報開示リスク
株主や金融機関からの信頼低下
人手不足により月次・年次決算業務が滞れば、当然ながら決算の確定が遅延します。上場企業であれば、決算発表の遅延は株主や投資家からの信頼を大きく損ねることに直結します。非上場企業であっても、金融機関からの融資判断や取引先との信頼関係に悪影響を及しかねません。私自身、中小企業を支援する中で、決算が間に合わず融資審査に影響が出たケースも見てきました。
適時開示義務違反のリスク
特に上場企業の場合、金融商品取引法に基づく「適時開示義務」があります。決算遅延がこの義務違反につながれば、行政処分や企業イメージの著しい低下、さらには株価への影響も避けられません。企業活動の根幹を揺るがす事態に発展する可能性もあるのです。
内部統制の脆弱化と不正リスク
チェック体制の機能不全
人手が足りなくなると、業務を効率化するために本来必要なチェック体制が簡素化されたり、時には省略されてしまったりするケースが見受けられます。これは、内部統制の機能を著しく低下させ、企業にとって非常に危険な状況を招きます。
社内不正(横領・着服)発生の温床
チェック体制が甘くなると、残念ながら社内不正のリスクが高まります。経理部門は会社のお金を扱うため、横領や着服といった不正が発生しやすい環境になりかねません。これは企業の財務状況を悪化させるだけでなく、企業の信用失墜にもつながる深刻な問題です。
経営判断の遅れと成長機会の損失
リアルタイムな経営情報の欠如
経理部門が日常業務に忙殺されていると、リアルタイムな経営情報の集計や分析に手が回らなくなります。資金繰り、売上動向、コスト構造など、経営判断に必要な情報がタイムリーに提供されなければ、迅速かつ的確な意思決定は不可能です。
データ分析に基づかない意思決定
現代のビジネス環境は変化が激しく、データに基づいた意思決定が不可欠です。しかし、人手不足でデータ分析まで手が回らないと、経験や勘に頼った経営判断に陥りがちです。これは、成長機会を逃したり、誤った戦略を選択したりするリスクを高め、企業の競争力低下を招くことになります。
このように、経理部門の人手不足は、企業経営全体に多岐にわたる深刻なリスクをもたらします。しかし、ここで立ち止まってはいけません。次章では、この課題を解決するための強力な味方、「AI・自動化ツール」が経理業務にどんな革命をもたらすのか、具体的な可能性と選び方について詳しく見ていきましょう。
AI・自動化ツールが経理業務にもたらす革命
経理部門の人手不足という喫緊の課題に対し、強力な解決策として注目されているのがAI(人工知能)や自動化ツールです。これらの技術は、従来の経理業務のあり方を根本から変え、私たち経理パーソンを定型業務の呪縛から解放する可能性を秘めています。
経理部門のAI導入による変革と成功戦略については、こちらの記事もご参照ください。
経理部門のAI導入で未来を掴む!実践的ステップと成功戦略:あなたの会社が変わる秘訣
AIが経理業務をどう変えるのか?可能性と限界
AIは、経理業務の多くの側面でその能力を発揮し始めています。私自身もその進化には目を見張るものがあり、活用しない手はないと感じています。
生成AIによるドキュメント作成・分析支援
最近特に注目されているのが「生成AI」です。
請求書、契約書、税務書類などの自動生成・要約
生成AIは、自然言語処理能力が高く、指示に応じて文章を生成することができます。例えば、テンプレートや過去のデータを学習させることで、請求書や契約書のひな形を自動生成したり、複雑な税務書類の作成を支援したりすることが可能です。また、長文の会議議事録やレポートを要約する能力も持ち合わせており、情報収集や資料作成の時間を大幅に短縮できます。
財務データの傾向分析と異常検知
さらに、生成AIは財務データの分析においても力を発揮します。大量の会計データを読み込ませることで、売上や利益の傾向、コスト構造の変化などを素早く分析し、その結果を人間が理解しやすい言葉でレポートとして出力できます。異常な取引や不審な支出パターンを自動で検知し、不正の早期発見にも貢献する可能性を秘めています。もちろん、最終的な判断は人間が行うべきですが、その判断材料をAIが提供してくれるのは非常に心強いです。
AI-OCRによるデータ入力自動化
OCR(光学的文字認識)技術にAIが組み合わさることで、データ入力の自動化は飛躍的に進化しました。
領収書、請求書、証憑データの自動読み取りと仕訳提案
AI-OCRは、紙媒体やPDF形式の領収書、請求書、証憑類から、会社名、日付、金額、品目といった必要な情報を高精度で自動的に読み取ることができます。さらに、読み取った情報に基づいて、適切な勘定科目を判断し、仕訳を自動で提案してくれる機能も備わっています。これにより、これまで人手で行っていた膨大な量のデータ入力作業を大幅に削減し、ミスも劇的に減らすことができます。
手入力ミスの削減と処理速度向上
手入力によるミスは、後工程での修正作業やチェック工数を増大させ、時間とコストを浪費します。AI-OCRを導入することで、こうした手入力ミスを根本から減らし、データ処理の速度を格段に向上させることが可能です。これにより、月次決算の早期化にも貢献します。
RPAによる定型作業の効率化
RPA(Robotic Process Automation)は、AIとは少し異なりますが、経理業務の自動化において非常に重要な役割を担っています。
会計システムへのデータ入力、銀行口座連携、レポート作成
RPAは、PC上で行われる定型的な繰り返し作業をソフトウェアロボットが代行する技術です。例えば、経費精算システムから会計システムへのデータ入力、インターネットバンキングからの入出金明細のダウンロードと会計システムへの連携、月次レポートの作成といった一連の作業を自動化できます。複数のシステム間をまたがるデータ転記なども得意分野です。
複数システム間の連携と自動データ転記
RPAの大きな強みは、既存のシステムに手を加えることなく、システム間の連携を自動化できる点にあります。API連携が難しい古いシステムや、異なるベンダーのシステム間でも、人が行う操作を模倣することでデータをスムーズに連携させ、手作業による煩雑なデータ転記作業をなくすことが可能です。
導入すべきAI・自動化ツールの種類と選び方
「AIや自動化ツールが良いのは分かったけれど、具体的にどれを導入すればいいの?」そう思われた方もいるでしょう。様々なツールがありますが、自社の状況に合わせて選ぶことが重要です。
クラウド会計ソフト連携型AI
freee会計、マネーフォワードクラウド会計のAI機能活用
中小企業やスタートアップ、マイクロ法人であれば、freee会計やマネーフォワードクラウド会計といったクラウド会計ソフトの活用から始めるのがおすすめです。これらのソフトは、銀行口座やクレジットカード、POSレジなどとの自動連携機能を備え、AIが取引データから勘定科目を推測し、仕訳を自動で作成してくれます。使い込むほどに学習し、精度が向上していくため、データ入力の手間を大幅に削減できます。私自身、個人事業主時代からこれらのサービスには大変お世話になっています。
データ連携の容易さと自動学習機能
クラウド型なので、インターネット環境があればどこからでもアクセスでき、税理士や顧問会計士とのデータ共有も容易です。また、過去の仕訳履歴から学習し、自動仕訳の精度を高めていく機能は、導入すればするほど業務効率化を実感できるでしょう。
RPAツール
WinActor、UiPath、Automation Anywhereなどの主要製品比較
RPAツールは、WinActor(国産)、UiPath、Automation Anywhereなどが代表的です。
自社のPC環境、自動化したい業務の複雑さ、予算に合わせて選定しましょう。
大規模導入からスモールスタートまで対応可能な選択肢
RPAは、全社的な大規模導入だけでなく、まずは経理部門内の特定の業務からスモールスタートで導入し、効果を検証しながら徐々に適用範囲を広げていくことも可能です。これにより、導入リスクを抑えながら確実に成果を出すことができます。
AI-OCRサービス
invox受取請求書、Bill Oneなどの専門サービス
AI-OCRは、クラウド会計ソフトに付属しているものもありますが、より高精度な読み取りや多様な証憑に対応したい場合は、invox受取請求書やBill Oneのような専門サービスを検討すると良いでしょう。
読み取り精度と対応フォーマットの確認
これらのサービスは、手書き文字や複雑なレイアウトの書類でも高い精度で読み取れるのが特徴です。導入前に、自社で扱う領収書や請求書のフォーマットがどれだけ対応しているか、無料トライアルなどを活用して読み取り精度を必ず確認しましょう。
その他の業務効率化ツール
AIやRPAだけでなく、身近なツールも工夫次第で強力な自動化ツールとなります。
Google Workspace連携(Google Apps Script/GAS)
GoogleスプレッドシートやGoogleドキュメントを使っている企業であれば、Google Apps Script(GAS)を活用しない手はありません。GASはJavaScriptベースのプログラミング言語で、Google Workspaceの各アプリを連携させたり、定型業務を自動化したりすることができます。例えば、スプレッドシートにデータが入力されたら自動でメールを送信したり、特定のデータを抽出してレポートを作成したりといったことが可能です。費用を抑えて自動化を始めたい中小企業に特におすすめです。
Pythonによるデータ処理・スクリプト作成
より高度なデータ分析や複雑な処理を行いたい場合は、プログラミング言語「Python」が非常に強力です。Pythonはデータサイエンス分野で広く使われており、会計データの分析、レポートの自動生成、他システムとのAPI連携など、様々な自動化が可能です。経理パーソンが少しずつでもPythonを学ぶことで、業務の可能性は大きく広がります。
Excel VBAによるマクロ自動化
そして、多くの経理部門で今もなお活用されているのがExcelです。ExcelのVBA(Visual Basic for Applications)を使えば、データ集計、グラフ作成、レポート出力など、Excel上での定型作業を自動化するマクロを作成できます。既にExcelを使いこなしている方であれば、比較的学習コストを抑えて自動化に着手できるでしょう。Excel VBAで劇的に業務効率化し、キャリアを切り開いた実例も参考にしてください。
Excel VBAが引き寄せた経理人生大逆転!「仕事が爆速すぎて創業者のカリスマ社長直属に抜擢」&サボりながらコーポレート部門出世術 実録ストーリー
このように、AI・自動化ツールと一口に言っても多種多様です。大切なのは、自社の業務課題と規模に合わせた最適なツールを選び、スモールスタートで導入していくことです。次章では、具体的な導入ステップについて、より詳しく解説していきます。
AI・自動化ツール導入のステップバイステップ実践ガイド
AI・自動化ツールの導入は、一見複雑に思えるかもしれません。しかし、適切なステップを踏むことで、着実に成果を出すことができます。ここでは、私が実際に様々な企業で見てきた成功事例に基づいた実践的な導入ガイドをお伝えします。
Step1: 現状分析と課題の特定
何事も、現状を正しく把握することから始まります。闇雲にツールを導入しても、期待する効果は得られません。
業務の可視化とボトルネックの発見
スクリーン録画+AI分析による業務フローの棚卸し
まず、経理部門で行われているすべての業務を洗い出し、可視化することから始めましょう。おすすめは、実際に業務を行っている担当者に「スクリーン録画」をしてもらうことです。PC操作を録画することで、どのような手順で、どのくらいの時間がかかり、どんなツールを使っているのかを客観的に把握できます。最近では、この録画データをAIが分析し、自動化に適した業務やボトルネックを特定してくれるサービスも登場しています。
私もかつて、自分の業務をビデオで撮ってみて、無意識に行っていた無駄な操作や、意外と時間がかかっていた作業に気づかされた経験があります。
経理担当者へのヒアリングと課題の洗い出し
業務フローの棚卸しと並行して、実際に業務に携わっている経理担当者への丁寧なヒアリングが不可欠です。「この作業、実はもっとこうなったら楽なのに…」「〇〇の処理はいつも時間がかかって困る」といった生の声の中にこそ、自動化すべき課題のヒントが隠されています。現場の意見を吸い上げることで、導入後のツールの定着にもつながります。
自動化対象業務の選定基準
業務が可視化できたら、次に自動化すべき業務を具体的に選定します。
定型性、反復性、処理量の多さ、エラー発生率
自動化に適しているのは、「定型性が高く」「繰り返し行われ」「処理量が多く」「手作業によるエラーが発生しやすい」業務です。例えば、毎日の仕訳入力、月末月初に集中する請求書処理、月次のデータ集計・レポート作成などが該当します。
費用対効果の高い業務からの優先順位付け
すべての業務を一度に自動化するのは現実的ではありません。まずは、自動化することで最も大きな効果が見込まれる業務、つまり「費用対効果の高い」業務から優先的に着手しましょう。時間削減効果やミス削減効果が大きい業務を選ぶことで、早期に成果を実感でき、次のステップへのモチベーションにもつながります。
Step2: 導入計画の策定と予算確保
自動化対象業務が明確になったら、具体的な導入計画を立て、必要な予算を確保します。
費用対効果の算出方法
人件費削減効果、ミス削減効果、時間短縮効果の数値化
経営層を説得するためには、具体的な数値に基づいた費用対効果を示すことが重要です。自動化によって「どのくらいの作業時間が削減できるのか(時間短縮効果)」「それにより人件費がどのくらい削減されるのか(人件費削減効果)」「ミスが減ることで、その後の修正にかかる工数やリスクがどのくらい低減されるのか(ミス削減効果)」などを具体的に数値化しましょう。例えば、「月間〇時間分の業務が削減され、年間〇〇万円の人件費削減に繋がる」といった具体的な金額を示すことで、ツールの投資対効果が明確になります。
初期導入費用、運用コスト、保守費用の見積もり
ツールの導入には、初期費用(ライセンス料、導入支援費用など)、月々の運用コスト(サブスクリプション費用)、そして必要に応じて保守費用がかかります。これらの費用を正確に見積もり、前述の費用対効果と比較検討することで、投資の妥当性を評価します。
経営層への説得材料とプレゼン術
経営リスク回避と企業価値向上への貢献を強調
経営層へのプレゼンテーションでは、単に「業務が楽になる」というだけでなく、経理部門の人手不足が引き起こす「経営リスクの回避」と、自動化が「企業価値向上」にどう貢献するのかを強調しましょう。例えば、決算の早期化による迅速な経営判断、内部統制強化による不正リスクの低減、戦略的な業務へのシフトによる企業成長への貢献など、経営者の視点に立ったメリットを具体的に提示することが重要です。
具体的数値と他社成功事例を用いた説明
Step1で算出した具体的な費用対効果の数値を示し、さらに、業界内の他社がどのように自動化を進め、どのような成果を上げているかの成功事例を引用することで、説得力が増します。
Step3: ツール選定とテスト導入
計画が固まったら、いよいよツールの選定とテスト導入です。
無料トライアルとベンダー比較のポイント
操作性、サポート体制、セキュリティ、既存システムとの連携性
候補となるAI・自動化ツールがいくつか見つかったら、必ず無料トライアルを活用しましょう。実際に使用してみて、担当者にとって「操作しやすいか」「サポート体制は充実しているか」「セキュリティは万全か」「既存の会計システムや基幹システムとの連携はスムーズか」といった点を重点的に確認します。複数のベンダーから情報を収集し、比較検討する姿勢が大切です。
複数ツールを比較検討する重要性
一つのツールに最初から絞り込むのではなく、いくつかの候補を比較検討することで、自社のニーズに最も合致した最適なツールを見つけることができます。費用だけでなく、機能、操作性、サポートの質など、多角的に評価しましょう。
スモールスタートでの効果検証
一部の業務や小規模な範囲で導入し、効果と課題を検証
いきなり全社的に大規模導入をするのではなく、まずは経理部門内の特定の業務や、少人数のチームなど、小規模な範囲でテスト導入(PoC: Proof of Concept)を行うことを強くお勧めします。これにより、導入にかかる費用や時間、リスクを最小限に抑えながら、実際の効果や予期せぬ課題を早期に発見し、改善に繋げることができます。
導入後のフィードバック収集と改善
テスト導入後には、実際にツールを使った担当者から率直なフィードバックを収集しましょう。「思っていたより便利だった点」「ここが使いづらい点」「もっとこうなれば良いのに」といった意見を吸い上げ、ツールの設定変更や業務フローの見直しに活かしていきます。私もテスト導入では、想定外の課題が見つかることが多く、フィードバックの重要性を痛感しています。
Step4: 本格導入と運用定着化
テスト導入で効果が確認できたら、いよいよ本格導入と運用定着化を進めます。
社内でのトレーニングとマニュアル整備
AI・自動化ツールの使い方研修とQ&A体制の構築
新しいツールを導入しても、従業員が使いこなせなければ意味がありません。全経理担当者を対象とした使い方研修を丁寧に行い、ツールの操作方法だけでなく、なぜこのツールを導入するのか、業務がどう変わるのかといった目的意識も共有しましょう。また、疑問点や問題が発生した際に、すぐに相談できるQ&A体制(社内ヘルプデスクなど)を構築することも重要です。
継続的な教育によるスキルアップ支援
一度研修を行って終わりではなく、ツールのアップデートに合わせて定期的な勉強会を開催したり、関連するオンライン講座の受講を推奨したりするなど、継続的な教育機会を提供し、従業員のスキルアップを支援しましょう。
導入後の効果測定と改善サイクル(PDCA)
KPI設定と定期的な効果測定
導入の効果を客観的に評価するため、具体的なKPI(重要業績評価指標)を設定します。例えば、「月次決算にかかる時間の〇%短縮」「データ入力ミス率の〇%削減」「残業時間の〇%削減」などです。これらのKPIを定期的に測定し、目標達成度を確認しましょう。
運用課題の洗い出しと継続的な改善活動
ツールは導入して終わりではありません。実際に運用していく中で、新たな課題や改善点が見つかることも多々あります。定期的なレビュー会議を開催し、運用課題を洗い出し、ツールの設定変更や業務フローの見直し、あるいは別のツールの導入検討など、継続的な改善活動(PDCAサイクル)を回していくことが、自動化の効果を最大化し、定着させるための鍵となります。
これらのステップを確実に踏むことで、AI・自動化ツールの導入は必ず成功へと導かれます。しかし、最も重要なのは「人」です。次章では、AI時代に求められる経理パーソンの新たなスキルと、人材育成戦略について掘り下げていきましょう。
人材育成とキャリアパス再構築:AI時代を生き抜く経理パーソン
AIや自動化ツールが経理業務に浸透していく中で、「経理の仕事はなくなるのか?」と不安に感じる方もいるかもしれません。しかし、私はそうは思いません。むしろ、AIに代替される定型業務から解放され、より高度で戦略的な業務に集中できるようになることで、経理パーソンはこれまで以上に重要な役割を担うことができると信じています。そのためには、私たち自身のスキルとキャリアパスを見直す必要があります。
「簿記だけ」では通用しない!経理パーソンに求められる新たなスキル
かつては「簿記一級を持っていれば経理は安泰」と言われた時代もありました。もちろん簿記の知識は経理の基礎であり、今後も不可欠です。しかし、それだけでは通用しない時代になったことは間違いありません。AI時代に経理パーソンが年収アップを実現するための具体的なスキルとキャリアパスについては、こちらの記事も参考にしてください。
簿記2級+英語で年収1000万円超え!外資系は頭脳不要?立替精算+生成AIで3000万円も
データ分析能力とITリテラシー
会計データから経営課題を抽出・分析する能力
AIがデータを処理し、レポートを生成してくれる時代だからこそ、私たち人間には、そのデータから「何を読み解き」「どのような経営課題があるのか」を抽出し、「どうすれば解決できるのか」を分析する能力が求められます。単に数字をまとめるだけでなく、数字が持つ意味を深く理解し、ビジネスのインサイトを見出す力が不可欠です。
クラウドツールやBIツールの活用スキル
また、AI・自動化ツールを使いこなすためのITリテラシーも必須です。クラウド会計ソフトはもちろんのこと、データを可視化し分析するためのBI(ビジネスインテリジェンス)ツール(Tableau, Power BIなど)の活用スキルも身につけていく必要があります。これらのツールを使いこなせれば、膨大なデータの中から必要な情報を素早く抽出し、経営層に分かりやすく提示できるようになります。
コミュニケーション能力と問題解決能力
他部門との連携強化と課題解決への貢献
AIがデータ入力などの定型業務を担うことで、経理パーソンは他部門との連携により多くの時間を割けるようになります。例えば、営業部門の売上データ、製造部門のコストデータなど、他部門から得られる情報を会計データと結びつけ、会社全体の課題解決に貢献する役割が期待されます。そのためには、他部門の担当者と円滑にコミュニケーションをとり、彼らのニーズを理解し、経理の視点から解決策を提案する能力が重要になります。
AIが出力した情報を理解し、適切な判断を下す能力
AIはあくまでツールであり、完璧ではありません。AIが出力したレポートや提案内容が本当に正しいのか、ビジネスの文脈に合致しているのかを判断し、必要に応じて修正や補足ができるのは人間だけです。AIとの協働において、そのアウトプットを「解釈」し、「評価」し、最終的な「判断」を下す能力が求められます。
戦略的思考と経営視点
財務情報から事業戦略を提案できる能力
経理パーソンは、会社のお金の流れを最もよく理解している存在です。この強みを活かし、財務情報から会社の強みや弱みを分析し、新規事業への投資判断、コスト削減策の立案、M&A戦略の支援など、具体的な事業戦略を提案できる能力が求められるようになります。単なる「過去の記録者」ではなく、「未来を創る戦略パートナー」へと進化していくのです。
変化の速いビジネス環境への適応力
ビジネス環境は常に変化し、新しい制度や技術が次々と登場します。このような変化の速い時代において、常に新しい知識を吸収し、自らをアップデートし続ける適応力も重要です。私も「学び続けること」こそが、AI時代を生き抜く唯一の道だと感じています。
人手不足を解消する人材育成プログラムの設計
これらの新たなスキルを身につけ、人手不足を解消するためには、体系的な人材育成プログラムが不可欠です。
OJTとOFF-JTの組み合わせ
実務を通じたOJTと、外部研修・オンライン講座による体系的学習
日常業務を通じたOJT(On-the-Job Training)は重要ですが、それだけでは体系的なスキルアップは難しいでしょう。そこで、外部の研修やオンライン講座、eラーニングなどを活用したOFF-JT(Off-the-Job Training)を組み合わせることをお勧めします。例えば、基本的なプログラミング言語の講座、データ分析ツールの使い方セミナー、最新の税務・会計トピックスに関するウェビナーなど、多様な学習機会を提供します。
外部講師を招いた社内研修の実施
特定のスキルを短期間で集中的に習得させたい場合は、外部の専門家を招いて社内研修を実施するのも有効です。自社の業務内容に合わせたカスタマイズされた研修は、受講者の理解度とモチベーションを高める効果があります。
外部研修・スクール活用のすすめ
データサイエンス、プログラミング(Python, GAS)、クラウド会計知識の習得
データ分析能力を向上させるためには、データサイエンスの基礎知識や、Python、Rといったプログラミング言語の学習が有効です。GAS(Google Apps Script)は、Google Workspaceを活用している企業であれば、すぐに業務に活かせるため、入門としては最適でしょう。また、クラウド会計ソフトのベンダーが提供する認定講座なども、ツールの習熟度を高める上で非常に役立ちます。
資格取得支援と自己啓発奨励
これらのスキルに関する資格取得を奨励し、受験費用や学習費用の一部を補助する制度も有効です。また、経理部門全体の学習意欲を高めるため、自己啓発にかかる費用補助や、業務時間内での学習機会の提供なども検討すると良いでしょう。
魅力的なキャリアパスで人材定着・確保
人手不足を根本的に解決するには、新たなスキルを身につけさせるだけでなく、経理パーソンにとって魅力的なキャリアパスを提示し、優秀な人材の定着と確保に繋げる必要があります。
定型業務からの解放と高付加価値業務へのシフト
AIが定型業務を代替することで、経理パーソンはこれまで時間を割けなかった「高付加価値業務」に集中できるようになります。例えば、財務戦略の立案、M&Aにおけるデューデリジェンス、予実管理の高度化、リスクマネジメント強化などです。
経理の「守り」から「攻め」への役割転換
これにより、経理部門の役割は、単に過去の数字を正確に記録・報告する「守りの経理」から、未来の成長に貢献する「攻めの経理」へと大きく転換できます。この役割転換は、経理パーソンの仕事に対するモチベーションを大きく向上させ、キャリアに対する魅力を高めます。
経営企画、財務戦略、M&A担当などへのキャリアパス
実際に、AI時代を先取りしている企業では、経理部門から経営企画、財務戦略、M&A担当といった部署へキャリアアップするパスが用意され始めています。経理の知識と新たなスキルを組み合わせることで、企業の中核を担う人材へと成長できる可能性が広がります。
評価制度の見直しとスキルアップ支援
新たなスキルと貢献度を評価する仕組み
これまでの経理の評価制度は、正確性や効率性といった側面が重視されがちでした。しかし、今後はデータ分析能力、ITスキル、戦略的思考、他部門との連携といった新たなスキルや、高付加価値業務への貢献度を適切に評価する仕組みへと見直す必要があります。
スキルアップによる報酬増とキャリアアップ機会の提供
新たなスキルを習得し、会社の成長に貢献した従業員に対しては、報酬増やキャリアアップの機会を積極的に提供することで、自己成長意欲を刺激し、優秀な人材の定着に繋げることができます。
このように、AI時代における人材育成とキャリアパスの再構築は、単なる教育の枠を超え、企業の競争力そのものを高める戦略的な投資となります。次章では、実際にAI・自動化ツールを導入した企業の成功事例や、陥りがちな失敗事例から、さらに実践的な教訓を学びましょう。
導入事例と失敗から学ぶ成功の秘訣
AI・自動化ツールの導入は、企業の規模や特性によってアプローチが異なります。ここでは、具体的な導入事例と、そこから学ぶべき成功の秘訣、そして失敗事例から得られる教訓を共有したいと思います。私自身も、多くの企業で試行錯誤を繰り返す中で、成功と失敗の両方を見てきました。
中小企業・マイクロ法人における成功事例
限られたリソースの中で、いかに効率化を実現するかは中小企業・マイクロ法人にとって喫緊の課題です。中小企業における経理自動化の具体的な方法については、以下の記事も参考にしてください。
【中小企業経理】2025年は「経理の自動化」で中小企業が生き残る!エクセル・スプレッドシート×生成AIで劇的に業務効率化する方法
限られたリソースで効率化した具体的な方法
クラウド会計とAI-OCRの徹底活用による入力業務の半減
ある中小企業(従業員数30名程度)では、経理担当者が1名という状況で、毎日の領収書・請求書処理に膨大な時間を費やしていました。そこで、freee会計とinvox受取請求書(AI-OCRサービス)を導入。紙の領収書はスキャンし、送られてくるPDF請求書はinvoxにアップロードするだけで、AIが自動で内容を読み取り、freee会計に仕訳データとして連携するようにしました。
結果として、手入力業務が約50%削減され、経理担当者は月次決算にかかる時間を大幅に短縮。削減できた時間で、資金繰り計画の策定や、各部署の予算実績管理といった経営サポート業務に集中できるようになりました。この事例は、まさに「守りの経理」から「攻めの経理」への転換を体現しています。
GASを用いたスプレッドシート自動化で月次決算を短縮
別のマイクロ法人(従業員数5名)では、外注費の集計や売上の予実管理にGoogleスプレッドシートを活用していましたが、毎月の集計作業に数時間を要していました。そこで、経営者自身がGAS(Google Apps Script)を学習し、スプレッドシートに入力されたデータを自動で集計・グラフ化するスクリプトを作成しました。
このシンプルな自動化により、月次集計作業はほぼゼロになり、経営者は常に最新の財務状況を把握できるようになりました。特に、GASはGoogle Workspaceユーザーであれば追加費用なしで始められるため、限られた予算で自動化を進めたい企業にとって非常に有効な手段だと、私も実感しています。
経営者が実践したDX推進の実際
両事例に共通するのは、経営者自身がDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に強い意識を持ち、率先して行動した点です。
トップダウンでの意思決定と従業員への丁寧な説明
「人手不足は会社の成長を阻害する」という明確な課題認識のもと、経営者がトップダウンで自動化ツートルの導入を決定しました。しかし、単に命令するだけでなく、「なぜ今、自動化が必要なのか」「導入によって皆の仕事がどう変わるのか」を従業員に丁寧に説明し、理解と協力を求めたことが成功の鍵でした。
スモールスタートで成功体験を積み重ねる戦略
どちらの企業も、いきなり大規模なシステム導入ではなく、まずは特定の業務からスモールスタートで始め、成功体験を積み重ねました。小さな成功が次のステップへの自信とモチベーションとなり、徐々に自動化の範囲を広げていったのです。
大企業における大規模導入のポイント
大企業の場合、組織規模が大きく、既存システムとの連携など、中小企業とは異なる課題があります。
複数部門連携とシステム統合の課題
各部門のニーズ調整と共通基盤の構築
大企業での導入では、経理部門だけでなく、営業、購買、人事など複数の部門が関連するため、それぞれの部門のニーズを調整し、共通の自動化基盤を構築するプロセスが重要です。部署ごとの利害が衝突することもあるため、全社的な視点での調整役が不可欠です。
レガシーシステムからのデータ移行と整合性確保
長年運用されてきたレガシーシステム(既存の古いシステム)から新しい自動化ツールへのデータ移行や、複数システム間でのデータ整合性を確保することは、大企業ならではの大きな課題です。データクレンジングやマスタデータの整備に多くの時間とリソースを割く必要があります。
全社的なDX戦略との整合性
経理部門のDXが企業全体のデジタルトランスフォーメーションにどう貢献するか
大企業における経理部門のDXは、単なる業務効率化に留まらず、企業全体のデジタルトランスフォーメーション戦略の一環として位置づけられるべきです。経理部門の自動化が、会社全体の情報活用を促進し、経営判断のスピードアップや新たなビジネスモデル創出にどう貢献するか、全体像を描くことが重要です。
失敗事例から学ぶべき教訓
残念ながら、AI・自動化ツールの導入がうまくいかないケースも存在します。これらの失敗から学び、同じ轍を踏まないようにしましょう。
丸投げコンサル依存の罠
自社業務の理解不足によるミスマッチと高額費用
「とにかく自動化したい」という漠然とした要望で、外部のコンサルティング会社に丸投げしてしまったケースです。コンサルタントは確かに専門知識を持っていますが、自社の経理業務の細かな特性や例外処理、現場の暗黙知までは把握できません。結果として、導入されたシステムが自社の業務フローに合わず、現場で使いこなせない「ミスマッチ」が発生。高額な費用をかけたにもかかわらず、ほとんど効果が得られなかったという残念な結果に終わることがあります。
内製化と外部リソースの適切なバランス
自動化は、外部の専門知識を借りつつも、自社の業務を最もよく知る経理部門自身が主体性を持って取り組むことが不可欠です。完全に丸投げするのではなく、導入初期のコンサルティングや技術支援は外部に依頼しつつ、運用や改善は社内で内製化する、あるいは外部リソースとの適切なバランスを見つけることが重要です。
計画性なき導入の末路
目的意識の欠如とツールの「導入」自体が目的化する問題
「AIが流行っているから」「競合他社も入れたから」といった漠然とした理由で、明確な目的意識や課題認識がないままツールを導入してしまったケースです。「何のために、何を自動化したいのか」「導入することで、どんな効果を期待するのか」が曖昧なままでは、最適なツールを選べず、導入後の評価もできません。
現場の反発と定着しない運用
目的意識が共有されていないと、現場の従業員は「なぜ今、新しいツールを導入するのか」「使い方が面倒だ」といった反発を感じやすくなります。適切なトレーニングやサポートがないままでは、新しいツールが現場に定着せず、結局以前の手作業に戻ってしまうという事態も起こり得ます。ツールはあくまで「手段」であり、「導入」自体が目的化してはいけない、ということを強く心に留めておくべきです。
これらの成功事例と失敗事例から得られる教訓は、私たちに多くのヒントを与えてくれます。大切なのは、自社の状況を正確に分析し、計画的に、そして現場の声を大切にしながら導入を進めることです。
まとめ:経理部門の人手不足は「変革のチャンス」
ここまで、経理部門の人手不足という現代的な課題に対し、その構造的要因からAI・自動化ツールの具体的な活用法、そしてAI時代を生き抜くための人材育成戦略、さらには具体的な導入事例と失敗談まで、深く掘り下げて解説してきました。
私自身、多くの企業の経理部門を見てきた中で、この人手不足の波は避けられない現実だと感じています。しかし、同時に、これは経理部門がその役割と存在意義を大きく見直し、進化する「変革のチャンス」であると確信しています。
AIと人材育成で実現する「自走する経理部門」
AIや自動化ツールが定型業務を担うことで、私たち経理パーソンは、これまで手作業に費やしてきた時間と労力を、よりクリエイティブで、より戦略的な業務に振り向けることができるようになります。データ分析を通じて経営層に新たな視点を提供したり、他部門と連携して企業全体の課題解決に貢献したりする、まさに「攻めの経理」へと進化するのです。
そして、そのような高付加価値業務を担う人材を育成し、魅力的なキャリアパスを提供することで、経理部門は優秀な人材が集まる部署となり、人手不足という課題を根本から解消することができます。
経理部門のAI活用による未来の姿とロードマップについては、ぜひこちらの記事もご覧ください。
【経理の未来】生成AIで激変!業務効率化から戦略的経理へのシフトを成功させるロードマップ
労働力不足の時代における持続可能な経理体制の構築
AIと人材育成を両輪で進めることで、たとえ労働力人口が減少する時代であっても、持続可能で、常に進化し続ける「自走する経理部門」を構築することが可能になります。これは、企業が厳しい競争環境を勝ち抜くための、強力な武器となるでしょう。
経理部門が企業の成長エンジンとなる未来
経理部門が単なるコストセンターではなく、企業の成長を牽引する「成長エンジン」となる未来。それは決して夢物語ではありません。AIと人間が協働し、それぞれの強みを最大限に活かすことで、この未来は必ず実現できます。
今すぐ始めるべき具体的なアクションプラン
この記事を読んで、「よし、うちの会社も変革しよう!」と決意してくださった方もいるかもしれません。では、具体的に何から始めれば良いのでしょうか?焦らず、以下のステップで進めていきましょう。
1. 現状業務の棚卸しと課題の明確化
まずは、現在行っている経理業務をすべて洗い出し、可視化することから始めましょう。どの業務にどれだけの時間がかかっているのか、どこに無駄があるのか、どこが属人化しているのか。現場の担当者へのヒアリングも忘れずに。これは、すべての変革の第一歩です。
2. AI・自動化ツールの情報収集と無料トライアル
自社の課題が明確になったら、それを解決できそうなAI・自動化ツールについての情報収集を始めましょう。クラウド会計、AI-OCR、RPA、GASなど、様々な選択肢があります。気になったツールは積極的に無料トライアルを活用し、実際に触れてみることが大切です。
3. 経理パーソンのスキルアップ支援計画の策定
AI時代に求められる新たなスキル(データ分析、ITリテラシー、戦略的思考など)をリストアップし、それらを習得するための人材育成計画を立てましょう。外部研修の活用、資格取得支援、社内での勉強会開催など、できることから着手してください。
4. 経営層への具体的な提案と予算獲得
これまでの分析結果と具体的な費用対効果、そして経理部門の変革が企業全体にもたらすメリットを、経営者の視点に立ってプレゼンテーションしましょう。具体的な数値と成功事例を交えることで、予算獲得への道が開けます。
経理部門の人手不足は、確かに大きな課題です。しかし、この課題を真正面から受け止め、AIという強力なツールと、私たち自身のスキルアップという変革の意思を持って立ち向かえば、必ずや明るい未来を切り拓くことができます。
エンジョイ経理編集長として、皆さんがこの変革の道のりを力強く歩んでいかれることを心から応援しています。さあ、今こそ行動を起こし、未来の経理部門を「自走する組織」へと進化させましょう!

