年金受給者が知っておくべき
確定申告のポイント
はじめまして、「エンジョイ経理」編集長です。私はIT大手上場企業の財務経理部門で幹部として長年勤務し、さまざまな決算・税務対応を行ってきました。退職後は経理・税務の情報を分かりやすくお伝えすべく、こうして記事を執筆しています。
今回は、2024年分(令和6年分)の公的年金等の源泉徴収票に焦点を当て、その見方や注意点、さらに2024年から始まった定額減税が年金生活者にどのような影響を与えるのかを、税理士の先生に疑問をぶつけながら一緒に学んでいきます。
エンジョイ経理編集長(以下、編集長)「公的年金を受給し始めた方や、年金を受け取りながら働いている方から“源泉徴収票が届いたけど何を見ればいいのか分からない”という声をよく聞きます。私自身も会社勤めの頃は年末調整を会社に任せてきたので、年金の仕組みや確定申告との関係は少し戸惑いました。そこで今日は税理士の先生と一緒に詳しく解説していきたいと思います!」
税理士(以下、先生)「よろしくお願いします。会社員時代とは異なり、年金受給者は年末調整の仕組みがない場合が多いため、必要に応じてご自身で確定申告などの手続きを行わなければならないんですよ。2024年分は定額減税もありますし、チェックポイントが増えていますね」
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1.公的年金等の源泉徴収票とは?
1-1.どんな書類?いつ届く?
編集長:「まず、公的年金等の源泉徴収票って改めて何のためにある書類なのでしょう?」
先生:「はい。これは前の年(1月~12月)の間に年金受給者の方が受け取った年金額と、そこから差し引かれた所得税・社会保険料などを示す“年間の報告書”です。毎年1月中旬~下旬頃に日本年金機構から郵送されます」
- 公的年金等の源泉徴収票(以下、年金源泉徴収票)
- 対象となる年金:老齢基礎年金、老齢厚生年金、退職共済年金など
- 送付されない年金:障害年金、遺族年金、年金生活者支援給付金(いずれも非課税)
年金源泉徴収票は確定申告をする際に欠かせない書類ですが、確定申告が不要な方でも記載内容を確認しておくと、税金や控除の状況を正しく把握できます。
1-2.届かない場合は?
編集長:「もし年金を受け取っているはずなのに1月を過ぎても届かなかったらどうすればいいんでしょう?」
先生:「最寄りの年金事務所に問い合わせましょう。引っ越しなどで住所変更が正しく届いていないケースが多いですね」
住所変更などが未対応の場合、前の住所に送られてしまうことがあります。年金源泉徴収票は確定申告や住民税申告に必要になることがありますので、届いていない場合は早めに確認しましょう。
2.定額減税が公的年金にどう影響する?
2-1.2024年分(令和6年分)の定額減税とは?
2024年分の所得税および住民税について、個人に対して特別控除(定額減税)が実施されました。物価高騰などの影響を緩和するための措置とされ、給与所得者だけでなく年金受給者にも適用があります。
編集長:「会社員時代は給与明細から天引きされる所得税が減っていることに気づいたんですが、年金生活の場合も同じように『年金から引かれる税金』が軽減されるんですよね?」
先生:「その通りです。2024年6月支給分から順次、定額減税が反映され、結果として所得税が天引きされない月も出てきます」
2-2.年金での定額減税の適用フロー
- 扶養親族等申告書の内容をもとに、受給者本人と配偶者、扶養親族の人数などを把握。
- 日本年金機構が定額減税の枠(合計額)を計算し、6月から12月までの年金支給タイミングで源泉徴収額を減らす。
- 年金支給時に所得税を「差し引かない」または「少なく差し引く」ことで減税を実現。
- 年内で減税額を使いきれない場合は、調整給付金という形でお住まいの自治体から支給される可能性もある。
編集長:「複数の年金を受け取っている場合や、年金+給与収入がある場合もありますよね?」
先生:「はい。その場合、重複して定額減税が適用されてしまうこともありえます。国税庁のQ&Aによれば、二重適用されても確定申告義務はないという見解ですが、一部のケースでは確定申告で修正されることもあるので、注意が必要ですね」
2-3.調整給付金の存在
年金や給与から天引きされる所得税・住民税の合計よりも、定額減税の合計が大きいと「控除しきれない分」が生じます。これが調整給付金という形で市町村から支給されることがあります。該当者には確認書類が発送されるので、忘れずに手続きをしましょう。多くの自治体では10月末頃が申請期限ですが、期限を過ぎても再提出可能なケースがあるため、まずは自治体へ問い合わせを。
3.公的年金等の源泉徴収票の見方・チェックポイント
ここからは、年金源泉徴収票の具体的な項目をひとつひとつ見ていきます。
3-1.支払を受ける者の欄
- 受給者本人の住所・氏名・生年月日が記載
- ここが間違っていると、年金事務所への届出内容に不備があるかもしれません。
3-2.年金の種別
- 老齢基礎年金・老齢厚生年金・退職共済年金など、受給している年金の種類が記載
- 老齢基礎+老齢厚生を同時に受けている場合は「老齢基礎・厚生」等の記載
編集長:「自分がどの種類を受け取っているか意外と理解していない人も多いですよね」
先生:「確かに。特別支給の老齢厚生年金を受給している方も65歳以降に切り替わったりしますから、意識してチェックしてみてください」
3-3.支払い金額
1年間の受給合計額が「額面」で記載されています。2024年は物価スライドなどにより、多少の上昇があるかもしれませんが、大幅な変動があった場合は手続き漏れなどを疑ってみましょう。
編集長:「昨年と比べて、チェックするのがおすすめだということですね」
先生:「ええ。年金額が想定外に減っていたり、増えていたりした場合は何か原因があるはずです」
3-4.源泉徴収税額
- 前年度に年金から天引きされた所得税+復興特別所得税の合計
- 2024年分は6月以降に定額減税が反映されているため、単純に前年の金額と比較しても違いが出やすいです。
ポイント:
前年(2023年)との比較をするなら、「源泉徴収税額」+「定額減税で引かれなかった分(控除済み額)」を合算すると、実質的な差額が分かりやすくなります。
3-5.各種控除の欄
年金受給者が提出した扶養親族等申告書に基づいて、配偶者控除や扶養親族控除、障害者控除などが適用されているかを確認できます。
- 厳選控除対象配偶者の有無
- 一般(70歳未満)または老人(70歳以上)に区分
- 控除対象扶養親族の数
- 特定扶養親族(19歳以上23歳未満)
- 老人扶養親族(70歳以上)
- その他(16歳以上18歳以下など)
- 16歳未満の扶養親族は所得税の控除対象外だが、住民税非課税判定で加算される場合があるため欄だけは設けられている
- 障害者控除
- 税法上の障害者に該当するかどうか(用介護3以上でも要件を満たす場合があり)
編集長:「障害者控除は手帳が必要だと思っていましたが、税法上は手帳の有無以外でも認められるケースがあるんですね」
先生:「そうなんです。例えば要介護3以上の認定を受けている方は、障害者手帳を持たなくても税法上の障害者とみなされるケースがあります。申告していないと損をしている可能性がありますよ」
3-6.社会保険料の額
年金から天引きされた社会保険料(介護保険料・後期高齢者医療保険料・国民健康保険料など)が記載されています。2024年に介護保険料の段階が上がっている可能性もあるため、金額変動が大きい場合は要確認。なお、住民税の額は源泉徴収票には含まれないのでご注意を。
4.年金受給者の確定申告不要制度と注意点
編集長:「会社員時代と違って、年末調整がなくなると『確定申告』って言葉が身近になりますよね。年金受給だけの人でも申告が必要なのでしょうか?」
先生:「実は、すべての年金受給者が確定申告をしなきゃいけないわけではありません。“確定申告不要制度”というものがあります」
4-1.確定申告不要制度の概要
公的年金等の収入が400万円以下、かつ年金以外の所得が20万円以下の場合は、所得税の確定申告が不要です。これを「公的年金等の受給者の確定申告不要制度」といいます。
- ただし、年金以外の所得があって、医療費控除や寄付金控除(ふるさと納税)などを受けたい場合は、還付申告をすることで税金が戻ってくる可能性があります。
編集長:「なるほど。申告しなくてもOKだけど、したほうが税金が安くなる(還付がある)場合は積極的に申告したほうが得というわけですね」
4-2.住民税の申告に注意
「所得税の確定申告をしなくていい」=「住民税の申告も不要」とは限りません。年金以外の所得が20万円以下の場合、所得税の確定申告は免除されても、住民税の申告が必要なケースがあります。これを怠ると、自治体での非課税判定や介護保険料の軽減措置などが適切に行われない恐れがあります。
先生:「詳しくは後ほど解説しますが、住民税申告をしないと損する可能性があるので要チェックです」
5.年金以外に収入がある場合の確定申告
編集長:「年金プラス、ちょっとアルバイトやパートをしている方は意外と多いですよね」
先生:「そうですね。年間を通してみると『給与所得が20万円超えた』ということもあるでしょう。収入がいくらか、給与所得控除がいくらか、そこをしっかり確認して確定申告が必要かどうか判断しましょう」
5-1.アルバイト・パート収入がある場合
- 給与収入には最低55万円(年収が162.5万円以下の場合)の給与所得控除があるため、年間75万円以下の給与収入なら所得は20万円以下。
- ただし給与収入が75万円を超えると、給与所得自体が20万円を超えてしまう可能性が高い。
【例】
- 年金収入:300万円
- アルバイト収入:80万円(パート先で年末調整なし)
この場合、給与所得=80万円-55万円=25万円となり、20万円超のため確定申告が必要となります。
5-2.事業所得・不動産所得・株式譲渡など
- 不動産収入や個人事業としての収入、株の売却益がある場合は20万円を超えれば確定申告必須。
- 特定口座(源泉徴収あり)で株式を売買していれば確定申告不要の場合が多いですが、損益通算や配当控除を受けたい場合は申告することで有利になる場合があります。
編集長:「会社員時代より収入が減ったとしても、別収入があるなら計算してみないと分からないですね」
先生:「そうですね。どれくらい所得があるか、そして税金を取り戻せる可能性があるか、という点が重要です」
6.住民税申告で損しないために
編集長:「先ほどおっしゃっていた住民税申告。確定申告をしないときに気をつけるべき点をもう少し詳しく教えてください」
先生:「所得税では確定申告不要でも、住民税では申告が必要なケースがあります。特に年金以外の少額の所得(20万円以下)がある場合ですね」
6-1.住民税の非課税判定や保険料軽減
- 住民税の非課税判定は、「合計所得金額」や「扶養親族の数」などで決まります。
- 申告しないと扶養親族が反映されず、非課税枠を超えてしまうなどの不利な取り扱いを受ける可能性も。
- 介護保険料や国民健康保険料にも影響が及び、実際よりも高い保険料を請求されるかもしれません。
6-2.社会保険料控除の申告漏れ
- 年金以外で国民健康保険料や国民年金保険料を支払っているのに、申告をしていない場合は社会保険料控除が適用されません。
- 所得税での控除だけでなく、住民税の税額計算時にも社会保険料控除は反映されるので、無申告だと二重で損失が出ることも。
編集長:「なるほど。確定申告不要の場合でも、住民税申告のメリットは大きいんですね」
先生:「そうなんです。お住まいの自治体のホームページなどで申告方法を確認して、申告書を提出するようにしてください」
7.まとめと免責事項
7-1.まとめ:年金源泉徴収票を味方に正しい税務申告を
- 公的年金等の源泉徴収票は、前年に受給した年金額や差し引かれた所得税・社会保険料などを確認できる重要書類。
- 2024年分(令和6年分)には定額減税が適用され、6月支給分以降の所得税天引きが軽減・ゼロになる場合もある。
- 各種控除(配偶者控除、扶養控除、障害者控除など)が正しく反映されているか要チェック。要介護3以上の認定でも障害者控除が受けられるなど、見落としがち。
- 確定申告不要制度:年金収入が400万円以下、かつ年金以外の所得が20万円以下なら所得税の確定申告は原則不要。ただし還付を受けられる控除を使うなら申告するメリット大。
- 住民税申告:所得税の確定申告をしない場合でも、自治体への申告が必要なケースあり。住民税非課税や保険料の軽減などにも影響する。
編集長:「年金源泉徴収票をもとに、自分が本来受けられる控除や減税を漏れなく確認するのがポイントですね」
先生:「そうですね。毎年1月に届く源泉徴収票をただ置いておくのではなく、まずは誤りや見落としがないか必ず確認して、必要に応じて確定申告や住民税申告を行ってみてください」
7-2.免責事項
本記事は、公的年金や定額減税、確定申告に関する一般的な情報提供を目的としています。記事作成にあたり正確性の確保に努めておりますが、内容の正確性・完全性を保証するものではありません。個別の状況によって適用される制度や税額は異なり、また税制改正により運用が変更となる場合もあります。
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