皆さん、こんにちは!楽天ウォッチャーことエンジョイ経理編集長です。ついに発表されましたね、楽天グループの2025年第1四半期(1月~3月期)決算!毎回注目度の高い楽天の決算ですが、今回も市場の期待と不安が入り混じる、まさに悲喜こもごもの内容となりました。
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大きなポイントとしては、長年の課題であった楽天モバイル事業が、単体EBITDA(利払い前・税引き前・減価償却前利益、ただし固定資産税除く)で初の四半期黒字化を達成したというビッグニュース!これは本当に大きな一歩と言えるでしょう。一方で、グループ全体の最終的な純損失は拡大し、キャッシュフローにも気になる点が見られました。そして、発表翌日の株価は大きく下落…。
「結局、楽天は良いの?悪いの?」「モバイル黒字化って言っても、本当に大丈夫?」「今後の株価はどうなるの?」そんな疑問が渦巻いているのではないでしょうか。
ご安心ください!この記事では、エンジョイ経理編集長が、楽天グループの最新決算を隅々までチェックし、良かった点(光明ポイント)、厳しかった点(課題・懸念点)、そして市場の反応と今後の展望について、どこよりも分かりやすく、深く、徹底解説していきます。数字の奥に隠された楽天の今、そして未来を一緒に読み解いていきましょう!この記事を読めば、あなたも楽天決算の「なぜ?」がスッキリするはずです。
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楽天グループ2025年第1四半期決算の全貌:エンジョイ経理編集長が速攻レビュー!
まずは、2025年5月14日に発表された楽天グループの2025年12月期 第1四半期決算の主要な数字をチェックしていきましょう。まさに「速報」でお届けします!
- 売上収益: 5,627億円 (前年同期比 +9.6%) – これは第1四半期として過去最高!成長力は健在ですね。
- IFRS営業損失: 154億円の赤字 (前年同期は332億円の赤字) – 赤字幅は大幅に改善しました。
- Non-GAAP営業損失: わずか3億円の赤字 (前年同期は254億円の赤字) – こちらも劇的な改善!ほぼトントン(損益分岐点スレスレ)まで来ました。これは本当にすごい。
- 親会社株主に帰属する四半期純損失: 734億円の赤字 (前年同期は423億円の赤字) – あれ?営業赤字は減ったのに、最終赤字は拡大…。ここが今回の決算の大きな「謎」であり、市場がネガティブに反応した一因かもしれません。後ほど深掘りします。
- EBITDA(Non-GAAP営業利益に減価償却費等を加算): 799億円の黒字 (前年同期比 +51.4%) – グループ全体で見ても、キャッシュを生み出す力は向上していることが伺えます。
楽天グループ 主要財務ハイライト (億円)
(2025年Q1 vs 2024年Q1)
解説:
- 売上収益: 2024年Q1の5,136億円から2025年Q1には5,627億円へと増加し、成長が続いています。
- IFRS営業損失: 2024年Q1の332億円の赤字から2025年Q1には154億円の赤字へと、赤字幅が大幅に改善しました。
- Non-GAAP営業損失: 2024年Q1の254億円の赤字から2025年Q1にはわずか3億円の赤字へと劇的に改善しています。
- 親会社純損失: IFRS営業損失やNon-GAAP営業損失が改善する一方で、親会社純損失は2024年Q1の423億円の赤字から2025年Q1には734億円の赤字へと拡大しました。これは主に金融収益の減少などが影響しています。
- EBITDA: 2024年Q1の528億円から2025年Q1には799億円へと大きく増加し、キャッシュを生み出す力は向上しています。
注: このグラフはSVGで描画されており、主要な傾向を視覚的に示すことを目的としています。正確な数値は決算短信をご参照ください。
この数字の並びを見て、皆さんはどう感じましたか?「売上は伸びてるし、営業赤字も減ってる。良い感じじゃない?」と思うかもしれません。しかし、純損失の拡大が気になるところ。まさに光と影が交錯する決算内容と言えるでしょう。
では、次に、この決算の「良かった点」を具体的に見ていきましょう!希望の光はどこにあるのでしょうか?
ここが良かった!楽天決算に見る光明ポイント
今回の決算、厳しい側面もありましたが、手放しで悲観するだけではもったいない!将来への期待を抱かせる「光明ポイント」も確かに存在しました。エンジョイ経理編集長が特に注目した点を3つ、深掘り解説します。
全体収益は過去最高!全セグメントが増収を達成
まず特筆すべきは、連結売上収益が5,627億円(前年同期比9.6%増)と、第1四半期として過去最高を更新したことです。これは、楽天経済圏の底堅さと成長力を示しています。
内訳を見ると、「インターネットサービス」「フィンテック」「モバイル」の主要3セグメント全てで前年同期比増収を達成しているのが素晴らしいですね。
- インターネットサービスセグメント: 国内EC(楽天市場など)が引き続き堅調で、売上収益は3,055億円(前年同期比6.9%増)。
- フィンテックセグメント: 楽天カードや楽天銀行などが牽引し、売上収益は2,236億円(前年同期比15.6%増)と大幅な伸び。
- モバイルセグメント: 契約者数の増加やARPU(1ユーザーあたりの平均売上)の上昇により、売上収益は1,107億円(前年同期比10.9%増)。
楽天グループ セグメント別 売上収益 (億円)
(2025年第1四半期実績)
解説:
- インターネットサービス: 3,055億円の売上収益を計上し、引き続き楽天グループの中核事業として最大の収益規模を誇ります。国内ECなどが堅調です。
- フィンテック: 2,236億円の売上収益を上げ、インターネットサービスに次ぐ規模となっています。楽天カードや楽天銀行などが成長を牽引しています。
- モバイル: 1,107億円の売上収益となり、契約者数増加やARPU向上により、前年同期比で増収を達成しています。ただし、他の2セグメントと比較すると売上規模はまだ小さい状況です。
注: このグラフはSVGで描画されており、各セグメントの売上規模を視覚的に示すことを目的としています。これらの数値はセグメント間の内部取引消去前のものです。連結売上収益は5,627億円です。
特定の事業に依存するのではなく、多角的に収益の柱を育てている楽天グループの強みが表れた結果と言えるでしょう。経済環境が不安定な中でも、しっかりと売上を伸ばしている点は素直に評価できます。これは、楽天経済圏の利用者数や利用額が増えている証拠ですから、事業の基盤は着実に拡大していると言えますね。
悲願達成?!「楽天モバイル」単独EBITDA黒字化の衝撃と意味
そして、今回の決算で最大の注目ポイントであり、ポジティブサプライズと言っても過言ではないのが、「楽天モバイル」事業(単体)が、固定資産税の計上を除いたEBITDAベースで、1億200万円の四半期黒字化を達成したことです!
楽天モバイル(単体) EBITDAの推移 (億円)
(固定資産税影響除く、2025年Q1 vs 2024年Q1)
解説:
- 楽天モバイル(単体)のEBITDA(固定資産税影響除く)は、2024年第1四半期には-201億円の赤字でした。
- これが2025年第1四半期には+1億円となり、ついに四半期ベースで黒字化を達成しました(前年同期比で202億円の大幅な改善)。
- グラフでは、2024年Q1の大きなマイナス(赤いバーが0ラインより下に伸びる)から、2025年Q1にはわずかながらプラス(緑のバーが0ラインより上に伸びる)に転換した様子が視覚的に確認できます。
- このEBITDA黒字化は、楽天モバイル事業にとって重要なマイルストーンであり、今後の本格的な収益改善に向けた第一歩と言えます。
注: このグラフはSVGで描画されています。楽天モバイル単体のEBITDA(固定資産税影響除く)の推移を示しています。2024年Q1の数値は約-201億円(2025年Q1の+1.02億円から前年同期比改善額202億円を差し引いた概算)。
長年、楽天グループ全体の足を引っ張ってきたモバイル事業の巨額赤字。そのモバイル事業が、ついに、ついにEBITDAベースとはいえ黒字の領域に足を踏み入れたのです。これは、三木谷会長兼社長の悲願でもあったはず。2020年4月の本格サービス開始から約5年、感慨深いものがありますね。
「EBITDAって何?固定資産税除くってどういうこと?」という声が聞こえてきそうなので、少し補足します。
- EBITDAとは?:Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization の略で、簡単に言うと「利息や税金、減価償却費(大きな設備投資を何年かに分けて費用計上するもの)を支払う前の、事業そのもので稼いだ現金に近い利益」のことです。事業の収益力を測る指標の一つとしてよく使われます。
- 固定資産税除く理由:楽天モバイルは全国に基地局という大きな設備をたくさん持っています。これらには毎年多額の固定資産税がかかり、特に第1四半期にまとめて計上される傾向があります。そのため、この特殊要因を除いた実力値を見たい、という意図があるのでしょう。
このEBITDA黒字化がなぜ重要かというと、莫大な先行投資(基地局建設など)がようやく収益を生み始める段階に入った可能性を示唆するからです。楽天モバイルの契約回線数は2025年3月末時点で863万回線まで増加し、ARPU(1ユーザーあたりの月間平均収入)も2,827円と上昇傾向にあります。特に、楽天モバイル契約者は楽天市場での購入額が平均47%増加するというデータもあり、グループ内でのシナジー効果も現れ始めています。
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もちろん、これはまだ第一歩。営業利益ベースでは依然として大きな赤字ですし、設備投資も続きます。しかし、このEBITDA黒字化は、「モバイル事業は万年赤字」という市場の pessimistic な見方を少しでも和らげ、将来的な本格黒字化への期待を繋ぐ、非常に重要なマイルストーンと言えるでしょう。2025年通期でのEBITDA黒字化も目標として掲げており、その達成に向けた大きな弾みになります。
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グループ全体の営業赤字も大幅改善!Non-GAAPでほぼトントンに
楽天グループ セグメント別 Non-GAAP営業利益/損失 (億円)
(2025年第1四半期実績)
解説:
- インターネットサービス: Non-GAAP営業利益として+132億円を計上。安定的に利益を生み出しています(緑のバーが0ラインより上に)。
- フィンテック: Non-GAAP営業利益として+439億円を計上。グループ最大の利益貢献セグメントです(青いバーが0ラインより上に)。
- モバイル: Non-GAAP営業損失として-513億円を計上。依然として大きな赤字ですが、前年同期(-656億円程度)からは改善しています(赤いバーが0ラインより下に)。
- これらを合計(その他調整含む)した結果、グループ全体のNon-GAAP営業損失は-3億円と、ほぼ損益分岐点近くまで改善しました。フィンテックとインターネットサービスの利益で、モバイルの損失の大部分をカバーしている構図が分かります。
注: このグラフはSVGで描画されています。モバイルセグメントの損失バーの長さは、他のセグメントの利益との視覚的バランスを考慮して調整されているため、Y軸スケールと厳密には一致しませんが、損失額の大きさを示しています。
楽天モバイルの改善は、グループ全体の業績にも好影響を与えています。
- IFRS(国際会計基準)ベースの連結営業損失は、前年同期の332億円の赤字から154億円の赤字へと大幅に改善しました。
- さらに、楽天が重視するNon-GAAP連結営業損失(一時的な要因や会計上の特殊要因を除いた、より実態に近い営業利益)は、前年同期の254億円の赤字から、なんとわずか3億円の赤字にまで劇的に縮小しました!
Non-GAAPベースで「ほぼトントン」というのは、楽天グループ全体の収益構造が大きく改善しつつあることを示しています。モバイル事業の赤字縮小に加え、好調なフィンテック事業や安定したインターネットサービス事業がしっかりと利益を稼いでいる証拠です。
特にNon-GAAP営業損失がここまで改善したのは、市場にとってもポジティブな驚きだったのではないでしょうか。これが継続すれば、IFRSベースでの営業黒字化もいよいよ現実味を帯びてきます。これは非常に大きな進展であり、楽天グループの経営努力が実を結び始めていると言えるでしょう。
金融事業が引き続き絶好調!フィンテックセグメントの強み
楽天グループの収益の柱として、ますます存在感を増しているのがフィンテックセグメントです。この第1四半期も絶好調でした。
- 売上収益: 2,236億円 (前年同期比 +15.6%)
- Non-GAAP営業利益: 439億円 (前年同期比 +21.7%)
素晴らしい増収増益ですね!具体的には、「楽天カード」のショッピング取扱高が6.3兆円(前年同期比12.8%増)と拡大を続けています。皆さんの周りでも楽天カードユーザー、多いのではないでしょうか?ポイント還元率の高さなどで人気ですよね。
また、「楽天銀行」は預金残高が11.4兆円に達し、日銀のマイナス金利解除による金利環境の変化も追い風となって、金利収益が大きく伸びました。「楽天証券」もNISA口座の拡大などで口座数を伸ばし、1,234万口座を突破、過去最高の収益を達成しています。さらに「楽天ペイメント」も取扱高拡大でNon-GAAP営業利益が大幅増益(1.9億円、前年同期比133.2%増!)となるなど、フィンテック事業内の各サービスが軒並み好調です。
このフィンテックセグメントの安定的な高収益が、モバイル事業への投資を支え、グループ全体の屋台骨となっていることは間違いありません。楽天経済圏の中核をなす金融サービス群は、楽天グループにとって最大の強みの一つと言えるでしょう。
ECも堅調!インターネットサービスセグメントの安定感
そして、楽天の祖業ともいえるインターネットサービスセグメントも、引き続き安定した成長を見せています。
- 売上収益: 3,055億円 (前年同期比 +6.9%)
- Non-GAAP営業利益: 132億円 (前年同期比 +25.8%)
国内EC流通総額は1.4兆円(前年同期比3.0%増)と、着実に成長。特に「楽天市場」を中心とした物販系ECの拡大が業績を牽引しています。また、海外事業である「Rakuten Kobo」(電子書籍)の新端末販売や「Rakuten Viber」(メッセージングアプリ)の広告売上も好調で、グローバルな展開も進んでいます。
「楽天トラベル」なども含め、楽天経済圏の基盤となるこれらのサービスが安定して収益を上げていることは、グループ全体の安定性にとって非常に重要です。フィンテックと並び、このインターネットサービスが稼ぎ出す利益が、新規事業や成長分野への投資原資となっているのです。
ここが厳しかった…楽天決算の課題と懸念点
さて、ここまで良い点ばかりに光を当ててきましたが、今回の決算は手放しで喜べる内容ばかりではありませんでした。むしろ、市場が株価下落という形で反応した背景には、やはり根深い課題や懸念点が存在します。エンジョイ経理編集長が特に「うーん、これは厳しい…」と感じた点を3つ、こちらも深掘りしていきます。
なぜ?営業赤字改善も、最終赤字は734億円に拡大の謎
最大の「なぜ?」はこれでしょう。前述の通り、IFRS営業損失は154億円の赤字へと大幅に改善し、Non-GAAP営業損失に至ってはほぼゼロの3億円の赤字まで持ち直しました。それなのに、親会社株主に帰属する最終的な純損失は、前年同期の423億円の赤字から734億円の赤字へと、なんと311億円も拡大してしまったのです。
「儲けの入り口(営業利益)は良くなっているのに、出口(最終利益)で大赤字ってどういうこと?」と思いますよね。
この謎を解く鍵は、営業外損益と法人税等にあります。決算短信を詳しく見てみると、以下の要因が大きいことが分かります。
- 金融収益の大幅な減少: 前年同期には、保有する米Lyft社などの株式評価益が大きく計上されていましたが(2024年Q1金融収益:約510億円)、今期はそのような一時的な評価益が大幅に減少しました(2025年Q1金融収益:約43億円)。これが最も大きな差です。
- 金融費用の継続的な発生: 楽天グループはモバイル事業の投資などで多額の有利子負債を抱えており、その支払利息(金融費用)が今期も約351億円発生しています。これは依然として重い負担です。
- 法人所得税費用の増加: 前年同期は約73億円だった法人所得税費用が、今期は約160億円に増加しています。これは、一部の利益が出ている子会社などでの税金負担が増えたことなどが考えられます。
つまり、本業の調子は上向いてきたものの、過去の投資のツケ(有利子負債)や、一時的な収益(株式評価益など)の剥落、税金負担の増加といった要因が重なり、最終的な赤字が拡大してしまった、というのが実態のようです。特に、金融収益のような一時的な要因に頼らない、本業での持続的な利益創出力がより一層求められていると言えるでしょう。
この最終赤字の拡大は、投資家にとって「楽天は本当に大丈夫なのか?」という不安を掻き立てるには十分なインパクトがありました。
モバイル事業、EBITDA黒字化の裏で続く営業赤字513億円
「楽天モバイル、EBITDA黒字化!」という華々しいニュースの裏で、忘れてはならないのが、モバイルセグメント全体のNon-GAAP営業損失が依然として513億円の巨額赤字であるという事実です(楽天モバイル単体では491億円の赤字)。
EBITDAはあくまで「現金を稼ぐ力」の一つの指標であり、ここから減価償却費や支払利息、税金などが引かれる前のものです。楽天モバイルは、全国に張り巡らせた基地局などの設備投資にかかる減価償却費が依然として大きく、また、これまでの投資資金を賄うための借入金の利息負担も重くのしかかっています。
つまり、モバイル事業が楽天グループ全体の利益に貢献するようになる(=営業黒字化する)までには、まだ道半ばであり、相当なハードルが残っているということです。ARPUのさらなる向上、契約者数の大幅な積み増し、そして効率的なコスト削減が引き続き求められます。
三木谷社長は、楽天モバイル単体での2025年通期EBITDA黒字化、そしてその先の単月営業黒字化も視野に入れていると発言していますが、その道のりは決して平坦ではないでしょう。市場も、このEBITDA黒字化を手放しで評価するのではなく、その先の「本当の黒字化」までの道のりを冷静に見極めようとしているはずです。
EBITDAについて詳しく知りたい方はこちら
キャッシュフローの状況は?営業CFが大幅マイナス7377億円の衝撃
企業の財務健全性を見る上で非常に重要なのがキャッシュフロー計算書です。今回の決算で、個人的に最も衝撃を受けたのが、営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)が7,377億円もの大幅なマイナス(資金流出)だったことです。前年同期は1,488億円のプラス(資金流入)だったので、状況は一変しています。
「営業CFって何だっけ?」という方のために簡単に説明すると、「本業でどれだけ現金を稼いだか(または失ったか)」を示すものです。ここが大幅なマイナスということは、本業の活動を通じて手元の現金が大きく減っていることを意味します。
決算短信によると、この主な要因は、
- 証券事業における金融負債の減少(預かり金の返還などでお金が出ていった)
- 銀行事業における貸付金の増加(貸し出しでお金が出ていった) などが挙げられています。
金融事業特有の要因も大きいとはいえ、7000億円を超える営業CFのマイナスは看過できません。これに加えて、
- 投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)も、有価証券の取得などで2,832億円のマイナス。
- 財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)も、社債の償還などで2,238億円のマイナス。
楽天グループ キャッシュフローの状況 (億円)
(2025年第1四半期実績)
解説:
- 営業活動によるキャッシュ・フロー (営業CF): -7,377億円と、3つのキャッシュフローの中で最も大きな資金流出となりました。これは主に証券事業の金融負債の減少や銀行事業の貸付金増加などが要因です。本業に関連する資金の動きですが、大幅なマイナスは注意が必要です。
- 投資活動によるキャッシュ・フロー (投資CF): -2,832億円の資金流出でした。銀行事業における有価証券の取得などが主な要因です。将来の収益のための投資ですが、短期的にはキャッシュアウトとなります。
- 財務活動によるキャッシュ・フロー (財務CF): -2,238億円の資金流出となりました。主に社債の償還によるものです。
- これら全てがマイナス(資金流出)となっており、この四半期間に楽天グループから多額の現金が流出したことを示しています。
注: このグラフはSVGで描画されており、各キャッシュフローの大きさを視覚的に示しています。0ラインより下に伸びるバーが資金の流出(マイナス)を表します。
これらを合計すると、この3ヶ月間で楽天グループ全体から1兆円を超える現金が流出した計算になります(単純合算)。もちろん、これは楽天銀行や楽天証券といった金融機関の事業活動に伴う資金の動きが大きく影響しており、必ずしも全てが「悪いお金の出方」とは言えません。しかし、モバイル事業への投資も継続している中で、これだけのキャッシュアウトは、やはり財務への負担増を懸念させます。
手元資金の状況や今後の資金調達計画について、より一層注視していく必要があるでしょう。
財務基盤への影響は?有利子負債と今後の資金調達
巨額の赤字が続き、キャッシュアウトも大きいとなると、当然気になるのが財務基盤、特に有利子負債の状況です。楽天グループはモバイル事業への巨額投資のため、多額の有利子負債を抱えています。
今回の決算発表では、「2025年に満期が到来する有利子負債については、ハイブリッド債のリプレイスメントも含め、全ての資金を確保済み」であり、「2026年以降に満期が到来する有利子負債についても、多様な資金調達手段を有している」と説明しています。また、2026年4月に初回コール日(繰り上げ償還できる最初のタイミング)を迎えるドル建て永久劣後債についても、初回コール日での期限前償還を実施する方針に変更はないとしています。
これらの説明からは、足元の資金繰りについては一定の目処が立っていることが伺えます。しかし、今後も社債の償還は続きますし、金利上昇局面では借り換えコストが増加する可能性もあります。モバイル事業が本格的な収益貢献を果たすまでの間、財務運営の巧拙が楽天グループの将来を左右すると言っても過言ではないでしょう。資産売却や新たな資金調達手段の確保など、あらゆる選択肢を視野に入れた財務戦略が求められます。
決算発表後の市場の反応は?株価は正直だった…
さて、これらの決算内容を受けて、市場、特に株式市場はどのように反応したのでしょうか?
決算発表は2025年5月14日の取引終了後(15時30分)でした。翌5月15日の楽天グループ(4755)の株価は、市場の評価を如実に反映する結果となりました。
- 5月14日終値: 884.0円
- 5月15日始値: 811.0円(前日比 -73.0円)
- 5月15日終値: 806.1円(前日比 -77.9円、-8.81%)
なんと、1日で約10%近い大幅な下落です。出来高も5900万株超と高水準で、多くの投資家が売りを選択したことが伺えます。
この株価の動きが全てを物語っています。楽天モバイルのEBITDA黒字化というポジティブなニュースはあったものの、それ以上に、
- 連結最終赤字の拡大
- 巨額の営業キャッシュフローマイナス
- モバイル事業の営業赤字継続
といったネガティブな要因が重く受け止められた結果と言えるでしょう。「モバイル事業は一歩前進したが、グループ全体の財務状況は依然として厳しい」というのが市場の率直な評価だったのかもしれません。
報道機関の論調も、「楽天モバイル、初のEBITDA黒字化」といったポジティブな見出しと、「楽天G、最終赤字734億円に拡大」といったネガティブな見出しが混在し、まさに評価の分かれる決算であることを示していました。
Yahoo!ファイナンスの掲示板など個人の投資家の反応を見ても、「モバイル黒字化はすごい!これからだ!」といった強気な意見と、「赤字拡大はダメだ…もう持てない」といった弱気な意見が真っ二つに割れている印象で、市場の混乱ぶりが伺えました。
エンジョイ経理編集長の視点:楽天グループの今後はどうなる?
今回の決算、そして市場の反応を受けて、エンジョイ経理編集長として楽天グループの今後について考えてみたいと思います。これはあくまで私見ですが、皆さんの投資判断の一助になれば幸いです。
「踊り場」か、それとも「真のターニングポイント」か?
楽天グループは今、非常に重要な岐路に立たされていると感じます。モバイル事業のEBITDA黒字化は、間違いなく大きな前進であり、これまでの一方的な「出血」状態から、ようやく「止血」の兆しが見え始めたと言えるかもしれません。これは、将来的な「ターニングポイント」になる可能性を秘めています。
しかし、その一方で、グループ全体の財務状況は依然として予断を許しません。最終赤字の拡大や巨額のキャッシュアウトは、企業体力を確実に削っていきます。これが一時的な「踊り場」であり、ここから本格的な回復軌道に乗れるのか、それとも…。
鍵を握るのは、やはり「楽天モバイル」の本格黒字化
今後の楽天グループの浮沈の鍵を握るのは、やはり「楽天モバイル」事業でしょう。今回のEBITDA黒字化(固定資産税除く)はあくまで通過点。ここから、
- 通期でのEBITDA黒字化(固定資産税込みでも)
- 単月での営業黒字化
- 通期での営業黒字化
- フリーキャッシュフロー(営業CF-投資CF)のプラス転換
といったステップを確実にクリアしていく必要があります。特に、フリーキャッシュフローがプラスになり、モバイル事業自体が外部からの資金調達に頼らずに自立して成長できるようになるかどうかが、楽天グループ全体の財務改善にとって決定的に重要です。
そのためには、プラチナバンドの活用によるカバレッジ拡大と通信品質向上、法人向けサービスの強化、そして楽天経済圏との連携深化によるARPU向上と顧客獲得コストの低減が不可欠です。道のりはまだ長いですが、その進捗状況を注意深く見守る必要があるでしょう。
「選択と集中」と「財務規律」のバランス
楽天グループは、EC、フィンテック、モバイル以外にも、スポーツ、エネルギーなど多岐にわたる事業を展開しています。これらの事業ポートフォリオの中で、今後どこに経営資源を集中し、どこを整理していくのか。「選択と集中」の巧拙も問われます。
同時に、これ以上の財務悪化を避けるためには、より一層の「財務規律」が求められます。成長投資は必要ですが、それが過度な負担とならないよう、コストコントロールの徹底や、有利子負債の削減に向けた具体的な道筋を示すことが重要です。楽天銀行や楽天証券の上場(IPO)はその一環でしたが、今後もさらなる財務改善策が期待されます。
「キャッシュカウ」としての金融・EC事業の役割
モバイル事業が本格的に収益貢献するまでの間、グループを支えるのは、やはりフィンテック事業とインターネットサービス事業です。これらの事業が「キャッシュカウ(金のなる木)」として安定的に利益を生み出し続けられるかどうかが、モバイル事業への投資継続と財務安定化の両立にとって極めて重要になります。競争環境は厳しさを増していますが、楽天経済圏の強みを活かして、これらの事業の収益力を維持・向上させることが求められます。
長期的なビジョンと短期的な財務プレッシャーの狭間で
三木谷社長は常に壮大なビジョンを語り、果敢に挑戦を続けてきました。その結果が今の楽天グループの姿です。しかし、そのビジョンを実現するためには、短期的な財務プレッシャーを乗り越えなければなりません。市場は時として短期的な成果を求めますが、経営者は長期的な視点も持ち続けなければならない。このバランスをどう取るのか、経営陣の手腕が試されています。
個人的には、楽天モバイルのEBITDA黒字化という一筋の光を信じたい気持ちもありますが、同時に、財務諸表に現れる厳しい数字から目を背けてはならないとも感じています。楽天グループがこの難局を乗り越え、再び成長軌道に乗るためには、いくつかのハードルをクリアする必要がある、というのがエンジョイ経理編集長の現時点での見立てです。
まとめ:楽天2025年Q1決算 – 光と影、そして未来への課題
さて、長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。最後に、楽天グループの2025年第1四半期決算について、エンジョイ経理編集長としてのポイントをまとめます。
【光明ポイント】
- 売上収益は過去最高を更新し、全セグメントで増収達成。
- 楽天モバイル(単体)が、固定資産税を除くEBITDAで初の四半期黒字化という歴史的快挙!
- グループ全体のNon-GAAP営業損失はわずか3億円にまで大幅改善。
- フィンテック事業、インターネットサービス事業は引き続き好調で、グループ収益の柱として盤石。
【課題・懸念点】
- 営業損失は改善したものの、金融収益減や税金費用増により、親会社株主に帰属する最終純損失は734億円に拡大。
- 楽天モバイルはEBITDA黒字化(一部除く)を達成も、営業損失は依然として500億円超の赤字。
- 営業キャッシュフローが7,377億円の大幅なマイナスとなり、資金繰りへの懸念も。
- 有利子負債は依然として高水準であり、今後の財務運営と金利動向に注意が必要。
【市場の反応と今後の展望】
- 決算発表翌日の株価は、最終赤字拡大などを嫌気して約10%の大幅下落。市場は厳しい評価。
- 楽天モバイルの本格的な黒字化(営業利益ベース)が達成できるかどうかが、今後の最大の焦点。
- 財務基盤の強化と、キャッシュカウ事業の持続的成長が不可欠。
今回の決算は、まさに「光と影」が色濃く表れた内容でした。楽天モバイルという長年の課題に大きな進捗が見られたことは間違いなく「光」ですが、グループ全体の財務状況には依然として「影」が差しています。
今後、楽天グループがこの「影」を克服し、「光」をさらに大きく輝かせることができるのか。そのためには、モバイル事業の収益化を加速させるとともに、グループ全体のコスト構造改革や財務戦略を一層強化していく必要があります。
エンジョイ経理編集長としては、引き続き楽天グループの動向を注視し、皆様に分かりやすい情報をお届けしていきたいと思っています。次回の決算発表も、また一緒に深掘りしていきましょう!
(参考情報)
- 楽天グループ株式会社 2025年度 第1四半期決算短信・説明会資料:楽天グループ株式会社 IR情報
【免責事項】
当記事は、楽天グループ株式会社が2025年5月14日に発表した2025年12月期第1四半期決算短信および関連資料に基づき、筆者の個人的な見解を述べたものです。可能な限り正確な情報を提供するよう努めておりますが、その内容の完全性、正確性、有用性、将来の結果を保証するものではありません。
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