
退職金 税制改正の行方は?
転職・勤続年数への影響
- 1. はじめに:退職金 税制改正が注目される背景
- 2. そもそも「退職金」とは?今さら聞けない基本
- 3. 現行制度のポイント:退職所得控除・半額課税・分離課税
- 4. 退職金 税制改正で想定される変更点とその理由
- 5. 転職と勤続年数:なぜ税制が転職を阻むのか?
- 6. シミュレーション:勤続年数別の退職金計算例
- 7. アメリカとの比較:確定拠出年金の広がりとキャリアの多様化
- 8. 退職金 税制改正で日本企業はどう変わる?終身雇用と転職社会のはざま
- 9. ベンチャー・スタートアップで働く選択肢のメリット・デメリット
- 10. もし改正されたらどう備える?専門家が語る戦略的ライフプラン
- 11. 【対談】エンジョイ経理編集長×坂本公認会計士兼税理士
- 12. まとめ
- 13. 免責事項
1. はじめに:退職金 税制改正が注目される背景
こんにちは、エンジョイ経理編集長と申します。私はこれまでIT大手上場企業で長年、財務・経理部門の管理職を務めてきました。ここ数年、「退職金 税制改正」というキーフレーズをニュースや経済専門紙で見かける機会が増えたと感じています。
特に政府・経産省などの方針で、終身雇用を前提とした税制から、より柔軟な働き方や転職を促す方向への転換が議論されつつあることが大きな要因でしょう。
なぜ退職金の制度が今まさに改正されようとしているのか?そして改正されたとき、私たちビジネスパーソンや企業にはどのような影響があるのか?本記事では、その点をできるだけ平易に、かつ専門家の意見を交えて解説します。
2. そもそも「退職金」とは?今さら聞けない基本
まずは退職金の意味を押さえておきましょう。
- 退職金(退職一時金):会社を退職した従業員に対して支払われる金銭のこと。退職金制度を導入していない企業もあるが、多くの場合、勤続年数や役職に応じて支給額が設定されている。
企業にとって、退職金制度は「従業員を長く引き留める」インセンティブとしても機能してきました。一方で従業員側も、「長期勤続すればまとまった退職金がもらえる」という期待があり、終身雇用との相性は良かったのです。
しかし時代の変化やライフスタイルの多様化に伴い、転職や複数の企業で働くことが一般化しつつあります。そこで、いまだ終身雇用ベースで設計されている退職金制度が果たして現代の働き方にマッチしているのか、見直しの必要性があるのでは、という議論が起きているわけです。
3. 現行制度のポイント:退職所得控除・半額課税・分離課税
退職金に関わる税制では、大きく分けて次の3つの優遇措置があります。これらを理解することが「退職金 税制改正」を考えるベースとなります。
3-1. 退職所得控除
退職所得控除は、退職所得(退職金)に対して一定の金額を差し引いてくれる仕組みです。具体的には、
- 勤続年数20年までは 1年あたり40万円
- 20年超の部分は 1年あたり70万円
が控除されます。
たとえば30年勤めた方であれば、
- 最初の20年分:40万円 × 20年 = 800万円
- 残りの10年分:70万円 × 10年 = 700万円
- 合計控除額:1,500万円
となり、かなり大きな控除が適用されます。
3-2. 退職所得は半額課税
退職金から上記の退職所得控除を引いた残額を「退職所得」と呼びます。この退職所得については、1/2のみ課税対象になるという特例があります。
仮に退職金が2,000万円で、退職所得控除が1,500万円だった場合、残額500万円が「退職所得」です。そこからさらに半分の250万円だけが課税所得になります。
3-3. 分離課税
退職所得は、給与所得などとは別枠で計算する「分離課税」が採用されています。そのため、年収が高い人でも累進課税による負担がほかの所得と合算されない点で有利になります。
4. 退職金 税制改正で想定される変更点とその理由
「退職金の優遇税制は手厚すぎるのではないか」という議論がかねてよりありました。その主な理由は下記の通りです。
- 終身雇用の変化:
昔は、一つの企業で長期間働くことが一般的でした。しかし近年は転職や副業が当たり前になり、企業側も必ずしも長く勤めてもらう必要はなくなっています。 - 若年層・ベンチャーへの人材流動性:
大企業が優秀な人材を囲い込むと、中小企業やベンチャーに人が流れず、新たなイノベーションを生み出しにくくなるのでは、という懸念。 - 財政負担・不公平感:
退職金に対する税優遇が他の所得に比べて著しく大きく、かつ退職時期によって大きな“節税”効果が出るため、公平性の観点で課題視されている。
こうした問題意識に基づき、政府は「退職所得控除の一本化」や「勤続年数の優遇縮小」などの退職金 税制改正案を検討しているといわれます。たとえば現状の「20年超は70万円×年数」ではなく、一律で40万円×年数とするなどの案が出ています。これによって、長く勤めるほど手厚くなっている部分を減らし、転職して複数社でキャリアを積む人との不公平感を是正しようという狙いです。
5. 転職と勤続年数:なぜ税制が転職を阻むのか?
現行制度では、一度退職してしまうと勤続年数がリセットされるため、再就職した企業で退職金を受け取る際に、また最初の1年目からの計算になります。
20年目以降の控除額が「年間70万円」に跳ね上がる仕組みは、長期勤続を促す強力なインセンティブです。その結果、転職すれば退職金の優遇を失う可能性が高く、損得勘定をすると転職が不利になる場合も多い。
しかし国としては、これからの少子高齢化社会やデジタル化社会では、一つの企業だけに優秀人材が固まりすぎないように人材流動性を高めたいという意図があるわけです。
6. シミュレーション:勤続年数別の退職金計算例
ここで、どれほど税負担に違いが出るか、簡単なシミュレーションを見てみましょう。
6-1. 35年勤続・退職金2,430万円の場合
- 退職所得控除
- 20年分:40万円×20=800万円
- 15年分:70万円×15=1,050万円
- 合計:1,850万円
- 退職金2,430万円-控除1,850万円=580万円
- 半額課税分:580万円÷2=290万円
- この290万円に対して所得税・住民税が課税されるため、ざっくり40~50万円程度の税負担になる場合が多い。
- 実質的な手取り額は約2,380万円になり、税率はわずか2%前後。
6-2. 15年勤続でいったん退職金430万円→転職20年勤務で2,000万円の場合
1社目(15年)
- 控除:40万円×15=600万円
- 退職金430万円<控除600万円 → 課税所得0円
- 税金0円
2社目(20年)
- 控除:40万円×20=800万円
- 退職金2,000万円-控除800万円=1,200万円
- 半額課税:600万円
- そこに対して所得税・住民税が課税されるので、100万円以上の税金になることも。
合計での納税額が転職せずに35年勤続した場合に比べると増える可能性が高いのが現行制度の特徴です。
7. アメリカとの比較:確定拠出年金の広がりとキャリアの多様化
アメリカの多くの企業は、退職金を一時金で支払う従来型の制度ではなく、「確定拠出年金(401(k)」を導入しています。企業が一部拠出し、従業員が自分の口座で運用し、将来的には持ち運びができるという仕組みです。
- ポータビリティ(持ち運び)が高い
- 従業員が転職してもその口座を維持・移管できる
- 雇用の流動性を妨げない
このため、アメリカでは転職が当たり前のキャリア形成が広まっています。日本でもiDeCoや企業型DCなど、確定拠出年金が普及しつつありますが、まだ退職金一時金制度と併用している企業が多いため、欧米ほどの流動性は実現できていないのが現状です。
8. 退職金 税制改正で日本企業はどう変わる?終身雇用と転職社会のはざま
もし大幅な「退職金 税制改正」が行われれば、日本の企業文化や人材の動きにどんな影響があるのでしょうか。
- 終身雇用制度の相対的な弱体化
多くの企業が、退職金という“ニンジン”で従業員の長期勤続を促すモデルから脱却し、在職中の給与やストックオプションなど別の形での報酬体系に移行する可能性が高まります。 - ベンチャー・中小企業への人材移動
大企業に長く勤めて退職金を得るメリットが相対的に縮小すれば、やりたいことやキャリアアップを求めてベンチャー・中小企業に移る選択が容易になるでしょう。 - 確定拠出年金や給与報酬の見直し
企業型DC(確定拠出年金)の拠出額や従業員の持株会制度など、より流動的・柔軟な報酬設計が進むことも想定されます。
9. ベンチャー・スタートアップで働く選択肢のメリット・デメリット
転職が活発化すると、ベンチャーやスタートアップへ入るのも選択肢の一つになります。実際、近年はビジネスモデルも多様化し、テクノロジーやDX(デジタルトランスフォーメーション)分野では新興企業が大きく成長しているケースが珍しくありません。
- メリット
- 成長企業の株式やストックオプションによって大きな収益を得る可能性
- 新しいスキルや経験を積める
- 仕事のやりがいやスピード感が高い
- デメリット
- 事業が安定するまで収入面でリスクがある
- 福利厚生や退職金制度が十分でない場合がある
- 大企業に比べて潰れるリスクも高い
こうしたメリット・デメリットのバランスを個々のキャリアプランやライフスタイルの変化に応じて判断することが求められます。
10. もし改正されたらどう備える?専門家が語る戦略的ライフプラン
仮に「退職金 税制改正」が実施された際、働き手としてはどのように備えるべきでしょうか。以下にいくつかの視点を示します。
- 資産形成の分散化
従来の退職一時金に頼らず、若いうちから積立投資やiDeCo・NISAなどを活用し、複数の柱で資産を育てる。 - キャリアの複線化
一つの企業に長く勤めるだけでなく、キャリアを複数の企業・プロジェクトで積む。そのためにスキルアップ・資格取得・語学学習などに力を入れる。 - 企業選び・交渉
退職金制度は各企業ごとに異なるので、転職時に報酬体系・退職金制度をしっかり確認し、必要に応じて交渉する。確定拠出年金や持株会などの福利厚生が充実しているかどうかも評価材料。 - ライフプラン設計
年齢や家族構成、住宅ローンなどに応じて、「いつ転職すると一番効率が良いのか」「退職金や確定拠出年金でどの程度必要な老後資金をカバーできるのか」など、中長期で資金計画を立てることが重要。
11. 【対談】エンジョイ経理編集長×坂本公認会計士兼税理士
ここからは少し視点を変えて、私・エンジョイ経理編集長が、かねてよりお世話になっている坂本公認会計士兼税理士にインタビューする形で補足情報をお届けします。
Q1:退職金 税制改正の可能性は本当に高いのでしょうか?
エンジョイ経理編集長:
最近「退職金 税制改正」があり得るとよく耳にします。坂本先生としては、改正される可能性は高いと思われますか?
坂本公認会計士兼税理士:
可能性は少なくともゼロではありません。政府としては、これまでの終身雇用を前提にした税制から人材流動性を高める仕組みへシフトする流れにあります。さらに少子高齢化で労働人口が減っているため、柔軟な働き方や兼業・副業などを後押しするために、退職金税制の改正が具体化する可能性は十分考えられます。
Q2:どのような改正内容が予想されますか?
坂本公認会計士兼税理士:
たとえば、「20年を超える勤続期間」に対する退職所得控除の大幅引き下げが議論されています。また、現在は分離課税・半額課税という仕組みがありますが、その優遇幅を縮小する案も浮上しています。検討内容は多岐にわたるため、改正が施行されるとしても段階的に行われる可能性が高いでしょう。
Q3:個人としてはどう備えればいいでしょうか?
坂本公認会計士兼税理士:
主に以下が大切だと思います。
- 情報収集:改正の動向や企業の報酬体系の変化を常にチェックする。
- 資産運用:iDeCoやNISA、つみたて投資など長期的な資産形成を始める。
- キャリアアップ:自分が活躍できるフィールドを増やすことで、働く場所や条件を交渉しやすくなる。
12. まとめ
「退職金 税制改正」の議論は、日本の働き方そのものを大きく変える可能性を秘めています。長らく続いてきた終身雇用と充実した退職金制度という構造は、近年の転職市場の活性化・ベンチャー隆盛・グローバル競争など、多方面で変革を求められています。
一方で、現行制度のままでも勤続年数が短いと退職金の税優遇を十分に活用できないため、転職を決断する際には税制上の損得が大きな要因となるのも事実です。もし改正が実施されれば、「1社に縛られない働き方」や「若いうちから資産形成を始める」というライフプランがより一般的になるでしょう。
自分自身やご家族の将来に備えて、現在の退職金制度を正しく理解しつつ、今後の改正動向に注目することが重要です。
13. 免責事項
本記事は、一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の投資・税務・法務上のアドバイスを行うものではありません。実際の法改正内容や個別のご相談については、必ず公認会計士・税理士・弁護士などの専門家にご確認ください。また、本記事の内容は執筆時点における情報をもとにしています。法改正や制度変更が行われた場合には最新情報を参照し、適宜ご判断ください。