【初心者用】人事部新人が最初に押さえておきたい労務管理の基本と実務

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勤怠管理

【初心者用】
人事部新人が最初に押さえておきたい
労務管理の基本と実務

人事部へ配属されたばかりの新人にとって、最初に立ちはだかる壁が「労務管理」という複雑な業務です。就業規則や給与計算、各種手続きなど、多くの実務を円滑に進めるには、基礎となる知識をしっかり身につける必要があります。本記事では、IT大手上場企業の財務経理幹部としての経験を活かし、人事部の新人が覚えておきたい労務管理の重要事項を網羅的に解説します。月次・随時・年次という区切りでやるべき作業や各種手続き、そして押さえるべきポイントを詳細にまとめました。ぜひ、本記事を通じて、確実な労務管理の土台を築いていただければと思います。



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1. はじめに:人事労務の重要性と役割

企業活動を円滑に進めるためには、従業員の労働状況を適切に管理し、給与を正しく支給し、社会保険や税金などの手続きを間違いなく進めることが欠かせません。人事労務の担当者が正確で迅速な対応をできるかどうかは、会社と従業員双方にとっての安心と信頼につながります。

特に新人の段階では、「ミスをしてはいけない」というプレッシャーや「法的な義務は多いし複雑で分からない」という不安がつきまとうかもしれません。しかし、最初に正しい基礎と流れを理解し、計画的に実務を進めていくことができれば、確実にスキルアップしていくことができます。


2. 労務管理の基礎知識

2-1. 労働関連法規の概要

人事労務を担当するにあたって、まず理解しておきたいのが以下の主要な労働関連法規です。

  1. 労働基準法
    労働条件の最低基準や労働時間、休憩・休日などを定めた法律。
  2. 労働安全衛生法
    労働者の安全と健康を守るための法律。
  3. 労働契約法
    労働契約の締結・更新・終了など、契約上の基本的ルールを定めた法律。
  4. 雇用保険法
    失業や育児休業などに対応するための保険制度を管理する法律。
  5. 健康保険法・厚生年金保険法
    一定の要件を満たした場合に加入が義務付けられる公的保険制度。

人事部の新人は、これらの法規の目的や基本的なルールを頭に入れておきましょう。 全てを暗記する必要はありませんが、就業規則や契約書を作成・変更するとき、給与計算の判断をするときなどに基盤となる知識です。

2-2. 社会保険・税の基本的な仕組み

企業が従業員を雇用し給与を支払う際には、社会保険料と税金の控除が必須となります。社会保険料は会社と従業員の折半、税金(所得税・住民税)はあくまで従業員の負担ですが、給与支給の際に源泉徴収し、会社がとりまとめて納める義務を負います。
大まかな流れを押さえておけば、個々の手続きの位置づけが理解しやすくなります。

2-3. 労務管理と会社の信頼性

従業員が安心して働ける環境を整え、法令を順守している企業は、対外的にも信用力が高まります。逆に労務管理のミスや不正が起こると、企業イメージの失墜や罰則リスクが生じます。人事労務の新人であっても、正確・丁寧かつ期限を守る対応を意識することが、企業のブランド維持にも直結するという点を忘れないようにしましょう。


3. 月次作業:毎月実施する主要業務

毎月のルーティンとして行わなければならない作業は、勤怠管理給与計算、そしてそこから派生する会計処理や税金・社会保険料の支払いです。ここを正確にこなすことで、従業員のモチベーションを保ち、企業の信用を維持することができます。

3-1. 勤怠管理

勤怠管理は、労務管理の最初のステップであり、給与計算の大前提となる重要プロセスです。具体的には以下を管理します。

  • 出勤日数
  • 労働時間(所定労働時間、残業時間、休日労働など)
  • 休憩時間
  • 休暇(年次有給休暇、育児休暇、その他特別休暇など)

とても重要なポイント:
勤怠情報の正確な把握は、後工程の給与計算だけでなく、時間外労働の上限管理や健康管理にも影響を与えます。勤怠データの突合作業をおろそかにすると、法定労働時間を超えていないかチェックできず、違法な長時間労働が放置されてしまう危険もあります。

3-2. 給与計算

勤怠情報を踏まえて、毎月の給与計算を行います。給与計算の主なステップは以下のとおりです。

  1. 基本給や各種手当、残業代などの総支給額を算出
  2. 社会保険料や所得税、住民税などの控除額を計算
  3. 差し引き後の手取り額を確定

給与計算を行う際に、最もミスが生じやすいのは残業代の計算です。残業割増率の設定や深夜・休日手当の計算が複雑になるケースがあるので、勤怠データと併せて入念に確認しましょう。

とても重要なポイント:

  • 源泉所得税は「給与所得の源泉徴収税額表」に基づき、正確に算出する必要があります。
  • 住民税が特別徴収の場合は、各従業員の納税義務を会社が肩代わりしている形なので、滞納するとペナルティが会社側に来る可能性があります。

3-3. 会計処理との連動

給与計算が終わったら、会計処理で仕訳を切る必要があります。月次決算を行う企業の場合、経理部門との連携が欠かせません。具体的には以下のような仕訳が発生します。

  • 給与・手当の計上(費用計上)
  • 社会保険料や源泉所得税を預かった分の未払金または預り金としての計上
  • 住民税や雇用保険料なども同様の処理

とても重要なポイント:
会社規模が大きくなると、給与計算と会計システムの連携が複雑化します。クラウドサービスを導入し、自動連携を活用するケースも増えていますが、最終的な整合性チェックは人手で行うことを推奨します。

3-4. 保険料・税金の支払い

給与計算後には、以下の納付が必要になります。

  • 社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料):会社分・従業員分を合算して年金事務所等に納付
  • 源泉所得税:毎月または「納期特例」(従業員10人未満の場合)で半年に一度、税務署に納付
  • 住民税:特別徴収の場合、従業員それぞれの居住地の自治体に納付

この部分を忘れると、延滞金や追徴金が発生する可能性があるため、必ず期日を把握してスケジュール管理を徹底しましょう。


4. 随時作業:発生ベースで行う実務

毎月ではなく、従業員の入退社や給与変更などのイベントが起きた時に発生する作業が随時作業です。見落とすと面倒なトラブルに発展することがあるため、素早い対応を心掛ける必要があります。

4-1. 新入社員の雇用(入社)手続き

新入社員が入社する際には、以下のような手続きを行います。

  1. 雇用契約書の作成・締結
  2. 社会保険・雇用保険の加入手続き
  3. 住民税の切り替え(特別徴収への変更など)
  4. 給与情報の登録(税扶養や配偶者控除などの確認)

とても重要なポイント:
入社日が確定次第、速やかに雇用保険被保険者資格取得届などの書類を作成してハローワークへ提出します。社会保険は厚生年金・健康保険の取得手続きを年金事務所や健康保険組合(組合健保・共済などの場合)へ行う必要があります。

4-2. 退職者への対応

退職に伴う手続きは、新入社員のときよりも書類が増えることがあります。具体的には以下が代表的です。

  • 離職票の交付(雇用保険)
  • 健康保険資格喪失届厚生年金資格喪失届
  • 住民税の特別徴収における切り替え
  • 源泉徴収票の発行

また、退職金制度を導入している場合は、別途退職金の計算と支給を行い、所得税を源泉徴収する手続きが必要です。
退職後の情報が郵送先不明などにならないように、事前に本人の現住所をしっかり確認しておくことが大切です。

4-3. 給与の変更に伴う随時改定手続き

給与額が大きく変動した場合には、随時改定という社会保険料の再計算手続きが発生します。たとえば、昇給や降給により固定給が大幅に変動し、1等級以上の差が生じた場合、給与変更があった月の4カ月目に新しい標準報酬月額が決定されます。

とても重要なポイント:
随時改定の届出を怠ると、保険料が誤ったまま計算され、企業と従業員双方に負担増や返還請求が生じる可能性があります。変更が確定したら、速やかに届出を進めましょう。

4-4. 賞与計算と賞与明細

賞与(ボーナス)の支給がある場合は、給与計算とは別に賞与の計算や明細発行が必要です。注意点としては、賞与にも社会保険料や源泉所得税が課せられることです。ただし、住民税は賞与時に追加徴収されるわけではなく、給与額に基づく年額が分割される形となります。


5. 年次作業:1年を通じて定期的に必要な業務

人事労務担当者には、年次で実施する作業も複数存在します。ここをしっかり押さえておくことで、繁忙期に備えて計画的に動けるようになります。

5-1. 36協定の締結と届出

残業や休日労働を行う場合に必要となる「時間外・休日労働に関する協定届」(通称36協定)。労使双方で協定を結び、労働基準監督署に届出を行います。
有効期間を設定し、毎年更新して届け出るケースが多いので、期限切れを起こさないよう注意しましょう。

5-2. 住民税額の更新(5月頃)

住民税の特別徴収を行っている場合、5月頃に各従業員の住民税額が更新されます。これは市町村から送付される「特別徴収額の決定通知書」に基づいて行われ、6月支給給与から切り替わるケースが一般的です。

とても重要なポイント:
通知書に記載されている金額を誤って入力すると、従業員からクレームが出るだけでなく、会社が滞納と見なされるリスクがあるため、正確に転記することが重要です。

5-3. 労働保険の年度更新(6月)

労働保険(雇用保険と労災保険)に関しては、年度更新が必要です。具体的には、毎年6月頃に前年度の賃金総額を申告し、保険料を精算します。
雇用保険の保険料率は年度ごとに変更される場合があるので、最新の料率を常に確認しましょう。

5-4. 社会保険の定時決定(7月)

社会保険(健康保険と厚生年金保険)の保険料は、毎年7月に「算定基礎届」を提出して見直します。これを「定時決定」と呼び、4月~6月の平均報酬月額に基づいて計算されます。
なお、先述の随時改定と区別して混乱しないように気をつける必要があります。

5-5. 年末調整(12月)

年末調整は、従業員が納める所得税の過不足を精算する手続きです。12月給与で実施するのが一般的です。対象となる従業員から保険料控除証明書や扶養控除申告書などを提出してもらい、正しく控除額を計算します。
年末調整で所得税が還付されるケースが多いため、従業員にとっても重要なイベントとなります。

とても重要なポイント:
扶養状況や保険料控除額の申告が遅れたり誤ったりすると、会社が追徴や修正の手続きに追われる可能性があります。早めに必要書類の回収を進めるとともに、チェック体制を整えておきましょう。


6. 就業規則・諸規定・評価制度の整備

労働基準法では、常時10人以上の労働者を使用する場合に就業規則の作成と届出が義務付けられています。給与や賞与、退職金などのルールを明文化することで、従業員と会社側のトラブルを防ぐことができます。

6-1. 就業規則・賃金規定の作成と届出

就業規則には以下の事項を必ず定める必要があります(法定記載事項)。

  1. 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制勤務に関する事項
  2. 賃金の決定・計算・支払いの方法、締め切りと支払時期、昇給に関する事項
  3. 退職に関する事項(解雇の事由含む)

加えて、会社独自の制度や細則を賃金規定・賞与規定などに盛り込むケースも多いです。作成後は労働基準監督署への届出が必要となります。

6-2. 労使協定の締結

賃金や労働時間などで法定基準を超える運用を行う場合、労使協定を締結して労働基準監督署へ届け出る必要があります。代表例が前述の36協定です。さらに、賃金の一部控除などを行う場合にも、労使協定が必要となります。

6-3. 福利厚生・社内評価制度

給与や法定福利だけでなく、企業独自の福利厚生や評価制度を整備することで、従業員の満足度向上を図ります。たとえば、

  • 社宅制度や住宅手当
  • 慶弔見舞金や社内表彰制度
  • 資格取得支援や研修制度

人事労務の新人は、これらの制度の運用や問い合わせ窓口になることも多いので、社員向けに周知するときの資料作成や説明会などの対応も視野に入れておくと良いでしょう。


7. 管轄・納付先の整理:社会保険・雇用保険・税金

労務管理で混同しがちなのが、保険や税の管轄と納付先の違いです。間違えると手続きが遅れたり、余計な業務が増える要因にもなります。ここでは、主要な保険・税金の管轄と納付先を整理します。

7-1. 社会保険(健康保険・厚生年金保険)

  • 管轄:年金事務所(協会けんぽの場合)または各健康保険組合・共済組合など
  • 納付先:原則として年金事務所(協会けんぽ)だが、組合健保の場合は組合が指定する口座や窓口

健康保険と厚生年金保険は会社と従業員の折半です。どちらかだけの加入は認められず、一定の条件を満たせば必ずセットで加入しなければなりません。

7-2. 雇用保険・労災保険(労働保険)

  • 管轄:雇用保険 → ハローワーク、 労災保険 → 労働基準監督署
  • 納付先:雇用保険料と労災保険料を合わせて「労働保険料」として、労働基準監督署で年度更新時に納付

雇用保険は企業と従業員で保険料を負担しますが、労災保険は全額事業主負担となる点が特徴です。

7-3. 所得税

  • 管轄:税務署
  • 納付先:税務署(従業員10人未満なら「納期特例」で半年に一度も可)

給与支給時に天引き(源泉徴収)を行い、企業が従業員に代わって納付します。控除しなかったり、計算を誤ると、過少納付で会社が追徴課税を受ける場合があります。

7-4. 住民税

  • 管轄:従業員の住所地の市区町村
  • 納付先:従業員が居住する各市区町村

特別徴収の場合、会社が給与支払い時に住民税を控除し、市区町村に納めます。普通徴収から特別徴収への切り替えが必要な際は、市区町村ごとに様式や手続きが異なるため注意が必要です。


8. 効率化とトラブル防止策

労務管理の業務量は多く、法改正や従業員の増減など変動要素も多いです。そこで、効率化とトラブル防止のためのポイントをいくつか紹介します。

8-1. クラウド活用

近年、クラウド型の労務管理ソフトが充実しています。勤怠情報のリアルタイム収集給与計算の自動化マイナンバー管理など、作業を効率化できる機能が満載です。ただし、どのシステムを導入しても最終的なチェックは人間が行うことが重要です。

8-2. スケジュール管理の徹底

月次・随時・年次と三つの区切りでやるべきことが多いので、カレンダーやプロジェクト管理ツールで締切を見える化しましょう。以下のようなスケジュールを設定するとスムーズです。

  • 月初:勤怠締めと給与計算準備
  • 中旬:給与計算と明細確認、納付準備
  • 下旬:税金・社会保険料の納付、翌月のスケジュール確認

年次イベントについても、前の月にタスクを準備しておくなど余裕を持った工程管理が大切です。

8-3. 社内・外部とのコミュニケーション強化

人事労務は、会社の全従業員経理部門、管理部門、社労士、税理士など多くの関係者と連携する必要があります。情報共有が不足すると、給与計算漏れや社会保険の加入漏れなどが発生しやすくなります。

8-4. 社労士との連携

複雑な手続きやトラブルリスクを減らすために、社会保険労務士(社労士)の専門知識を頼るのも有効です。就業規則の整備や労働保険年度更新、給与計算のレビューなど、一部業務をアウトソーシングする企業も多くあります。


9. よくあるQ&A

Q1. 新人が最初に覚える優先順位は?
A. 勤怠管理→給与計算→社会保険・税金の納付という月次の一連の流れをまずしっかり押さえましょう。ここをマスターすれば、随時・年次業務も理解しやすくなります。

Q2. 雇用形態によって社会保険加入が異なる場合は?
A. パートやアルバイトであっても一定の条件を満たせば加入義務が発生します。定期的に雇用契約内容を確認し、条件クリアであれば加入手続きが必要です。

Q3. 年末調整で必要な書類が遅れて提出されたら?
A. 会社の年末調整スケジュールに合わなければ、従業員が自身で確定申告を行うケースが生じます。遅れた場合の案内を徹底しましょう。

Q4. 住民税を普通徴収にしてほしいと従業員から頼まれたら?
A. 原則特別徴収が義務化されているため、正当な理由がなければ普通徴収への切り替えは認められないことが多いです。市区町村の担当窓口に確認を取りましょう。


10. まとめ

人事部の新人が押さえておきたい労務管理のポイントを、月次・随時・年次に分けて解説しました。労働関連法規の理解からはじまり、勤怠管理・給与計算・社会保険や税金の各種手続き就業規則の整備評価制度の導入まで、その範囲は幅広いものです。
しかし、業務を「月次」「随時」「年次」と整理し、それぞれの作業を漏れなく処理することで、正確かつスピーディに対応が可能となります。さらに、クラウドツールを上手に活用したり、社労士・税理士との連携を図ったりすることで、効率的に運用できるでしょう。

新人の段階では何かと不安も多いですが、ミスが許されない業務だからこそ、事前準備と二重チェック、スケジュール管理が大切です。着実に経験を積み、会社からの信頼を得られる人事労務担当者を目指して頑張ってください。


11. 免責事項

  • 本記事は、2025年2月時点での一般的な法令・制度をもとに作成した参考情報です。最新の法改正や地方自治体ごとの運用ルールなどは適宜ご確認ください。
  • 個別の状況によって最適な対応が異なる場合があります。本記事の内容により生じたいかなる損害についても、筆者および関係者は責任を負いかねます。
  • 専門的な判断や書類作成が必要な場合は、社会保険労務士・税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。

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