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株主の権利と持株比率
のすべてを徹底解説!
本記事では、株主として押さえておきたい「基本的な3つの権利」から、経営を左右する「持株比率(議決権比率)」の意味や、比率ごとに行使できる権利の具体例まで、図表を活用しながらわかりやすく解説します。特に経営者や投資家の視点から、持株比率による意思決定の可否や、ほかの株主と連携する際のポイントなどを網羅的にまとめました。株主の権利を理解することは、企業経営の舵取りや少数株主の保護の観点で極めて重要です。本記事を通じて、株主の権利と持株比率のポイントをしっかり学んでいきましょう。
1. はじめに
企業が株式を発行して資金を集める「株式会社」の仕組みにおいて、株主は自ら出資したお金に応じて株式を保有しています。しかし、その保有比率によって、株主が行使できる権利や企業に与える影響力は大きく変わります。たとえば、1株でも保有していれば議事録の閲覧は可能ですが、3分の2以上(66.7%超)の株式を持っていれば、企業の重要事項をほぼ独断で決定できるようになります。
本記事では、**「株主の権利」と「持株比率による影響度」**を中心に、登場する専門用語とともにわかりやすく整理しました。適宜、表形式でまとめておりますので、効率的にご理解いただけますと幸いです。
2. 株主の基本的な3つの権利とは?
まずは、株主が法律上取得することになっている3つの基本的な権利をおさえておきましょう。
- 剰余金配当請求権
- 残余財産分配請求権
- 株主総会における議決権
2.1 剰余金配当請求権
会社が毎期の決算で利益を出した場合に、株主はその利益の一部を「配当金」として受け取れる権利です。会社法上、剰余金配当請求権が認められているため、保有株式数に応じて経済的メリットを享受できます。
2.2 残余財産分配請求権
会社が解散や倒産などで清算に入った際に、**負債をすべて弁済した後に残った財産(残余財産)**があれば、株主はこれを分配してもらう権利を持ちます。ただし、残余財産がなければ配当されることはありません。
2.3 株主総会における議決権
会社の最高意思決定機関である株主総会において、取締役の選任・解任、定款変更などの重要事項を決定する際の投票権です。通常は1株につき1議決権が与えられますが、「議決権のない種類株式」を発行しているケースもあるため、会社ごとに注意が必要です。
2.4 自益権と共益権の違い(表)
前述の3つの権利は、自益権と共益権に分けられます。以下の表を参考に、どの権利がどちらに該当するか理解しておきましょう。
権利名 | 自益権 or 共益権 | 概要 |
---|---|---|
剰余金配当請求権 | 自益権 | 会社の利益を配当として受け取る権利。株主個人の経済的利益に直結。 |
残余財産分配請求権 | 自益権 | 会社清算時に残った財産を分配してもらう権利。株主個人が最終的に財産を受け取る。 |
株主総会における議決権 | 共益権 | 会社の重要事項を決議し、株主全体の利益を図るための権利。経営方針の決定権に関わる。 |
- 自益権:株主「個人」の利益に直接関係する権利
- 共益権:株主「全体」の利益に関わる権利
3. 持株比率(議決権比率)とは?
企業が発行する「発行済株式総数」に対して、自分がどれだけの株式を保有しているかを示す割合が持株比率です。 持株比率(%)=所有株式数発行済株式総数×100\text{持株比率}(\%)= \frac{\text{所有株式数}}{\text{発行済株式総数}} \times 100
一方、議決権比率は「議決権がある株式(1株1議決権が原則)」を前提として計算される比率ですが、多くの場合、議決権のない株式を発行していなければ「持株比率」と同じになります。
- 実務での使われ方
持株比率と議決権比率は同義で語られることが多いです。しかし、厳密には異なる概念である点を頭に入れておきましょう(議決権のない種類株式の存在など)。
4. 持株比率ごとに変わる株主の名称
株主の持株比率が一定の割合を超えると、法的にも実務的にも呼び名や扱いが変わります。ここでは代表的な名称を紹介します。
4.1 主要株主
金融商品取引法上の定義で、持株比率が10%以上の株主を指します。上場企業の場合、主要株主に該当すると大量保有報告制度などでの開示義務が発生する場合があります。
4.2 大株主
法令上の明確な基準はなく、会社の中で比較的多くの株式を持っている株主を指します。10%を超える場合などが目安ですが、厳密な定義はありません。
4.3 筆頭株主
その会社の株主のうち、最も持株比率が高い株主を指す言葉です。筆頭株主が必ずしも経営を支配しているわけではありませんが、議決権を握っているため、企業方針への影響力が大きいと考えられます。
4.4 親会社
一つの企業が他企業を支配している場合、支配する側が「親会社」、支配される側が「子会社」となります。代表的には持株比率50%超で普通決議を支配できるため、親会社とみなされるケースが多いですが、40%以上でも実質的に経営をコントロールしている場合は親会社とされることがあります(法務省令で定められる要件)。
4.5 持分法適用会社
会計上の仕組みとして用いられる「持分法」の対象となる会社です。20%以上50%未満の株式を保有(またはそれに準ずる支配を有する)ことで、その会社を「関連会社」として扱い、決算時に「持分法」という会計処理を行います。
4.6 少数株主
親会社やその子会社以外の株主が該当します。持株比率が低い株主は、経営への支配力は限定的ですが、法律により一定の少数株主権が認められています。
4.7 株主の名称まとめ(表)
以下の表に、代表的な株主の名称や定義・特徴を整理しました。
名称 | 定義・要件の目安 | 特徴 |
---|---|---|
主要株主 | 持株比率10%以上 | 金融商品取引法に基づき開示義務などが発生。上場会社で注意が必要。 |
大株主 | 明確な基準なし | 会社の中で特に多くの株式を保有する株主。割合はケースバイケース。 |
筆頭株主 | その会社の最大持株比率 | 持株比率が一番多い株主。必ずしも過半数を持っているとは限らない。 |
親会社 | 50%超、または40%以上で支配 | 過半数取得で普通決議を支配可能。40%以上でも事実上の支配があれば親会社となり得る。 |
持分法適用会社 | 20%以上50%未満 | 会計上の「関連会社」扱い。持分法で決算に反映される。 |
少数株主 | 親会社子会社以外の株主 | 経営支配力は限定的だが、1%以上や3%以上で少数株主権を行使できる場合がある。 |
5. 持株比率や持株数に応じて行使できる権利一覧(表)
ここからは、具体的にどの程度の持株比率を持つとどのような権利が行使できるかを見ていきます。ポイントとなる主な区分は以下です。
- 1株以上
- 1%以上
- 3%以上
- 33.4%以上(1/3超)
- 50%以上(1/2超)
- 66.7%以上(2/3超)
- 90%以上
- 100%
5.1 1株以上
- 議事録閲覧権
株主総会や取締役会の議事録などを閲覧できる権利。 - 株主代表訴訟
一定の条件を満たせば、役員の不正による損害について、株主自身が訴訟を提起できる。
5.2 1%以上
- 株主総会での議案請求権
持株比率1%以上または300個以上の議決権を持つ株主は、株主総会に対して「特定の議案を提出してほしい」と取締役に通知請求可能(会社法303条)。定款で要件を緩和できる場合もある。
5.3 3%以上
- 株主総会の招集請求権
3%以上を6か月以上継続保有している株主は、取締役に対して株主総会の招集を請求できる。 - 会計帳簿の閲覧・謄写請求権
3%以上を保有していれば、理由を明らかにして会計帳簿や資料の閲覧・謄写を求めることが可能。
5.4 33.4%以上(1/3を超える)
- 特別決議の単独否決が可能
特別決議は、出席議決権の2/3以上の賛成で可決されるため、1/3を超える株を保有している株主は単独で否決できる(ブロッカー株主)。
5.5 50%以上(1/2を超える)
- 株主総会の普通決議を単独可決
普通決議は出席議決権の過半数の賛成で可決されるため、会社全体の株式数の50%超を所有していれば、単独で可決が可能。
5.6 66.7%以上(2/3を超える)
- 株主総会の特別決議を単独可決
2/3の議決権を超えると、定款変更や合併・会社分割・事業譲渡などの重要案件を単独で可決できる。これは経営権掌握という観点で非常に強力。
5.7 90%以上
- スクイーズアウト
株式を90%以上持つ「特別支配株主」は、他の少数株主が持つ株式を強制的に買い取れる権利を行使可能(会社法179条~)。上場企業が完全子会社化を狙う場合などに用いられる。
5.8 100%
- 全決議の単独可決
文字通り、「一人会社」。株主総会を開かずとも、すべての意思決定を1人で行える。創業オーナーが外部に株式を譲渡していない状態などでよく見られる。
権利一覧表
以下の表に、持株比率ごとに行使できる権利をまとめました。
持株比率(または株数) | 行使できる主な権利 | 主な内容・メリット |
---|---|---|
1株以上 | – 議事録閲覧権- 株主代表訴訟 | 会社の意思決定の内容をチェックできる。役員不正があれば株主代表訴訟を提起可能。 |
1%以上 | – 議案請求権(1%以上または300個以上) | 株主総会で取り扱う議案を提案できる。 |
3%以上 | – 株主総会招集請求権- 会計帳簿閲覧・謄写請求権 | 会社の重要な会合を開かせたり、会計情報を詳しく確認できる。 |
33.4%以上(1/3超) | – 特別決議の単独否決 | 合併・分割・定款変更などの重要事項を単独でブロックできる。 |
50%以上(1/2超) | – 普通決議の単独可決 | 役員選任・配当などの普通決議案件をほぼ思いどおりに決定できる。 |
66.7%以上(2/3超) | – 特別決議の単独可決 | 合併・解散・定款変更などを独力で承認できる。経営権を実質的に独占。 |
90%以上 | – スクイーズアウト | 残りの少数株主を強制買収できる。完全子会社化が可能。 |
100% | – 全決議の単独可決 | 一人会社。すべての意思決定を独力で実行できる。 |
6. 経営上の注意点:持株比率をめぐるポイント
- 過半数(50%超)の確保
普通決議を単独可決できるため、取締役や監査役の選任・解任、配当などの経営判断をコントロールしやすくなります。 - 2/3超の重要性
特別決議を単独で可決できるため、定款変更やM&Aに関連する合併・会社分割など、企業戦略の大局を思い通りに進められます。経営権の安定を図りたい場合には、2/3超を維持することが極めて重要です。 - 他の株主との連携
単独でこれらの水準を確保できない場合でも、**他の株主と協力(議決権行使協定など)**することで、実質的に経営権を確保するケースがあります。持株比率が分散している上場企業ではよく見られる戦略です。 - 少数株主保護
日本の会社法には「少数株主権」と呼ばれる制度があり、たとえ1%以上、3%以上といった比較的低い比率でも、経営を監視・牽制できる仕組みがあります。経営陣からすると、少数株主とのコミュニケーションを適切に取る必要があります。 - 親会社・子会社関係
持株比率40%以上でも、経営実態として支配力が認められる場合は親会社とみなされることがあります。子会社となる企業の立場では、支配を受ける側としてガバナンス面での対応が必要です。 - 増資や新株発行時の留意
会社が資金調達目的で新株発行(または第三者割当増資)をすると、既存株主が希薄化して持株比率が低下する恐れがあります。経営権の維持を考える際には、増資の条件や引受先との関係性を慎重に検討しましょう。
7. まとめ
以上、株主の基本的な権利と持株比率(議決権比率)に応じた権限について、表を交えながら解説してきました。
- 株主が持つ3つの権利(剰余金配当請求権・残余財産分配請求権・議決権)は、自益権と共益権に分類できる。
- 持株比率(議決権比率)が上がるほど、株主総会における可決・否決の主導権を握りやすくなり、経営に対する影響力が大きくなる。
- 1%以上、3%以上といった少数株主でも行使できる権利(少数株主権)があり、会社の意思決定を牽制できる仕組みが存在する。
- 過半数(50%超)や2/3超を獲得すれば、普通決議・特別決議を単独で可決でき、企業の支配権を事実上確立できる。
- 親会社・子会社の関係は、株式の過半数保持だけでなく、実質的な支配状況も考慮される。
- スクイーズアウト(90%以上)によって完全子会社化も実現可能。
企業における株主構成は、経営権の行方を決定づける最重要事項です。特にスタートアップ企業やベンチャー企業が投資家から資金を調達する際は、株式希薄化による経営権の変動を常に意識しなければなりません。また、少数株主として投資を行う場合も、1%以上や3%以上を保有することで議案請求や総会招集請求が可能となり、取締役会に対するけん制力を発揮できるかもしれません。
**持株比率ごとの権利や制限を正しく理解することは、株主にとっても経営者にとっても必須の知識。**自社や投資先の株主構成を確認し、必要に応じて専門家(弁護士・会計士・税理士など)に相談しながら、適切な企業統治を行っていきましょう。
【注意】
本記事の内容は一般的な情報提供を目的としたものであり、法的アドバイスを提供するものではありません。具体的な事例に応じて、必ず専門家にご相談ください。
これで、株主の権利と持株比率による経営権の違いが理解しやすくなったのではないでしょうか。表形式で整理すると、自分の立場や保有割合に応じてどのような行動が可能かがイメージしやすくなります。今後、企業との交渉や経営戦略、あるいは投資判断をする際に、ぜひ本記事を参考にしていただければ幸いです。